組織で“ショート動画”活用をスタートさせるときのポイント:CIOのための“ショート動画”攻略ガイド【前編】
ショート動画は、今や顧客コミュニケーションや見込み客獲得のための重要な手段となっている。ショート動画を事業に効果的に活用するために、CIO(最高情報責任者)は何をすればよいのか。
ショート動画(再生時間が15秒から60秒程度の動画コンテンツ)は、もはや一過性のトレンドではなく、主要なコンテンツ形式の一つとして定着し、さまざまな業界でデジタルエンゲージメントに使われている。ショート動画は組織のマーケティングやカスタマーエクスペリエンス(CX)を向上させるための戦略的な手段になる。
ショート動画が顧客の獲得手段として地位を高めている理由とは
短時間で直感的に理解できるコンテンツを好む視聴者の変化に合わせて、組織は動画を顧客とのコミュニケーション手段の中核と捉える事業戦略を立てている。マーケティング支援ベンダーHubSpotが2025年に発表した調査レポート「State of Marketing Report 2025」では、マーケターが自社のコンテンツ戦略の一環として活用しているメディア形式として、ショート動画が画像やブログ、長編動画などを抑えて最も多く挙げられた。顧客エンゲージメントやROI(投資対効果)の高さがその理由だ。
コンテンツマーケティング支援ツールベンダーContentlyのブログエントリ「The B2B Brand’s Guide to Short-Form Video in 2025」(2025年のB2Bブランド向けショート動画ガイド)は、B2Bの分野におけるショート動画を取り巻く状況の変化を示している。同社はショート動画に組織が投資するようになった理由として、組織の購買担当者が勤務中の空き時間に見られる点や、「Linkedin」「YouTube」などのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)でショート動画が優先的に表示されるようになった点を挙げる。
組織がショート動画に参入する場合、コンテンツ制作自体はマーケティング部門主導の取り組みになる。CIO(最高情報責任者)はショート動画戦略を成功させるための方針の策定やROIの測定手法の整備、制作工程の自動化、コンプライアンス、データ分析を主導する役割を担っている。
ショート動画におけるCIOの役割
CIOはショート動画戦略を支えるために、必要なシステムを整備し、セキュリティを強化する必要がある。主な責任には以下が含まれる。
マーケティング部門との協力
CIOはマーケティング部門のリーダーと協業し、ショート動画作成ツールとワークフローが各種マーケティング技術とスムーズに連携できるようにする必要がある。連携が必要なツールには、CRM(顧客関係管理)システムやDAM(デジタルアセット管理)システム、キャンペーンオーケストレーションツールなどが含まれる。Adobeのコンテンツ管理システム(CMS)兼DAMシステムの「Adobe Experience Manager」やSalesforce社のCRMシステム「Salesforce」などのツールは、ショート動画の素材の管理に役立つ。これによって素材や動画のバージョン管理を簡素化し、ショート動画をクロスチャネルマーケティング戦略に組み込むことができる。
ショート動画の効果測定やデータ分析手段の策定
ショート動画の役割は、動画の視聴者を顧客リストに転換したり、顧客の維持に結び付けたりすることだ。ショート動画のROIを測定するには、動画のパフォーマンスデータを自組織で利用中のデータ分析システムやCRMシステムで分析可能にすることが必要だ。動画を公開しているプラットフォームから取得できるデータを、Salesforce社の「Tableau」や「Power BI」といったビジネスインテリジェンス(BI)ツールで利用可能にすることで、カスタマージャーニーマップの作成や動画の視聴状況のリアルタイム測定が可能になる。
データプライバシーの維持とコンプライアンス
ショート動画をさまざまな媒体で配信する中で、組織は新たなコンプライアンスとデータガバナンスのリスクに対処する必要がある。CIOは、EU(欧州連合)の「GDPR」(一般データ保護規則)、「CCPA」(カリフォルニア州消費者プライバシー法)といった各地域のデータ保護基準に合致するポリシーを施行する。具体的には、動画の作成から公開に至るまでの工程でアクセス制御や監査ログの確認を可能にし、コンプライアンスに違反したり未承認の動画を公開したりするリスクを低減する。情報へのアクセス権の管理やコンテンツへのフラグ付けといった仕組みを組み込むことで、ブランドの価値の維持と迅速な動画管理を実現する。
自動化機能とAPI連携の評価
現代のショート動画作成ツールは、ソースコードの記述を最小限に抑える「ローコード」開発機能や生成AI(AI:人工知能)機能、コンテンツライフサイクル全体にわたる自動化機能を搭載している。
CIOは、オープンなAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を持ち、他ツールとの連携が可能なツールを優先すべきだ。これによって動画の公開、A/Bテスト、ターゲット配信といった運用を自動化し、コストを抑えながら規模を拡大できる。
例えばGoogleの動画作成ツール「Google Vids」は、スクリプト作成やボイスオーバー、アニメーション作成などの編集作業をAI技術で自動化する。こうしたツールをCRMやコンテンツ管理システムと連携させることによって、パーソナライズされた動画作を複数のチャネルに素早く展開できるようになる。
コンテンツ配信インフラの整備
ショート動画は、国境や視聴するデバイスの種類を問わずスムーズに閲覧できるようにしなければならない。CIOは、スケーラブルで低遅延な動画配信を実現するために、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)を評価して管理する必要がある。エッジ(視聴者に近い拠点)からの動画配信や適応ビットレートストリーミング(ABR:視聴者のネットワーク速度やデバイスに合わせて、動画のビットレートと解像度を自動的に切り替える技術)、動画の保存および転送時の暗号化といった機能は、ビジネスにおける動画配信にとって重要だ。
後編は、ショート動画の作成や公開に利用するツールの選び方と、ショート動画のROIの測定方法を説明する。
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