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「シャドーAI」は禁止しない? AI先進企業が“非公式利用”を公認した理由AIの「サイロ化」を解消するには【後編】

AIツールを導入したものの、成果が見えずリスクばかりが増えるといった状況はどうすればなくせるのか。先進企業の全社的なAIツール活用事例と、ROIを生み出すための具体的な導入手順を紹介する。

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人工知能 | CIO | データ統合 | 運用管理


 企業でAI(人工知能)ツールの導入が加速しているが、現場における場当たり的な利用は、ツールやデータの「サイロ(分断)化」を生み、リスクと非効率の温床になっている。ITリーダーがこの状況を打破するために不可欠なのが「AIツールの統合」だ。これは単なるシステムの統一にとどまらず、戦略、データ、利用状況を全社レベルで一元化し、経営資源として最適化する取り組みを指す。

 本稿は、AIツールの統合を成功させた先進企業のCIO(最高情報責任者)の実践事例と、企業が明日から使える「AIツール統合のためのアクションリスト」を紹介する。

先進CIOに学ぶ実践事例

 以下の事例は、CIOがどのようにAIツール統合の原則を適用し、各社におけるAIツールのサイロ化を打破して全社的な価値を生み出しているのかを示すものだ。

Flexera:「シャドーAI」の回避

 従業員がすでにAIツールを活用していても、会社やIT部門の正式な承認を得ていないツールやサービスを使っている、いわゆる「シャドーAI」の形を取っている場合がある。IT資産管理サービスを提供するFlexeraの場合もそうだった。

 FlexeraのCIO兼CISO(最高情報セキュリティ責任者)であるコナル・ギャラガー氏は、まず従業員が利用しているシャドーAIツールを調査することから計画を開始したと説明する。日々の業務でどのAIツールが役立っているかを従業員に聞き取り調査することで、現場がいかに工夫し、自律的にAIツールを業務に組み込んでいるかという貴重な洞察を得ることができた。この取り組みは、初期のユースケースや、すでにうまくいっている取り組みを特定して公式に支援するのに役立ったという。

 ギャラガー氏は、サイロ化した取り組みを集約するには、経営陣の戦略の有無にかかわらず、「ビジネスの至る所でAIツールが活躍している」という事実を認めることから始まると指摘する。

 「最初のステップは、従業員を巻き込んで非公式なAIツールの利用を公認することだった。そこから、それらのAIツールを全社システムの一部として正式に導入した」とギャラガー氏は振り返る。

 ギャラガー氏は、企業にとってAIツール活用のROI(投資対効果)は、直接的な経費削減だけではないと強調する。現場の各チームが賢明な意思決定をして、チーム間のコラボレーションを促進し、無駄を排除できるようにすることこそが重要だという。

 「自社のニーズを特定することで、受動的な経費削減から能動的な最適化にシフトし、長期的なビジネス目標との整合性を取ることができた」(ギャラガー氏)

デブライ大学:ガバナンスこそが鍵

 デブライ大学(DeVry University)のCIOであるクリス・キャンベル氏は、教職員が部分的に生成AIを試している状況を見ていたが、真の進歩は「少人数のAI推進チーム」と「ガバナンスモデル」を確立した後に訪れたと説明する。

 「受付を一本化することで、作業の重複をなくし、再利用可能な自律型AI(Agentic AI)のパターンを構築し始めた」とキャンベル氏は言う。この変革によって、AIツールの展開サイクルの短縮、責任の明確化、ナレッジマネジメントやインシデント対処にかかる時間の短縮が実現した。

 「CIOの役割は、AIツールを企業全体の力を増幅させる『原動力』にすることであり、管理すべき新たなサイロを増やすことではない」(キャンベル氏)

One:成功を測定する

 保険金のデジタル決済サービスを扱うOneのCIO、エリザベス・ホーメケ氏は少し異なるモデルを採用した。現場のチームがAIツールを自ら特定、実験、実装する権限を与える、ボトムアップのアプローチを推奨したのだ。

 ホーメケ氏によると、OneのITチームは生産性のベンチマークを設定しており、月単位で改善が見られるようになった。

 「実装するAI機能には必ず、利用統計と運用費管理の仕組みを含める必要がある。これらは採用の促進と責任あるAI利用に不可欠だ」とホーメケ氏は語る。「Oneは最近、AIセンターオブエクセレンス(CoE:組織横断的な取り組みを実施する拠点)を設立した。全社的な取り組みをカタログ化して重複を最小限に抑え、学習内容やベストプラクティスを共有し、AIプログラムへの投資効果を確実にするための指標を確立することが任務だ」

CIOのためのアクションチェックリスト

 AIツール活用はもはや「実験」ではなく、「統合」「規模拡大」「ガバナンス」にかかっている。CIOは、この変革を主導できる唯一無二のポジションにある。以下のチェックリストを使用して、現在のAIツール利用状況を評価し、サイロを特定し、統合戦略を実行してほしい。

現状分析とガバナンス体制の構築

  • 現状の監査と可視化
    • 全事業部門のAIツール導入プロジェクトを監査し、現在の利用状況と支出を可視化する。
  • 推進体制の確立
    • 経営幹部が参加するAI運営委員会を組織し、経営層のスポンサーシップと明確な意思決定権限を確保する。
  • 倫理とコンプライアンス(法令順守)
    • AI技術の倫理およびリスクに関するポリシーを策定し、コンプライアンスと責任あるAIツールの利用を確実にする。

戦略策定と実行

  • AIツールの統合と最適化
    • 重複するAIツールとベンダーを集約、一本化し、ツールの乱立(スプロール)を測定可能なレベルまで削減する。
  • センターオブエクセレンスの設立
    • AIツール活用に関するCoEを設立し、全社的な共有サービスと標準規格を作成、展開する。
  • KPI(重要業績評価指標)とROIの設定
    • AIツール統合のKPIと成功指標を定義し、「18カ月以内」などの具体的な期限付きでROIの目標を設定する。
  • 人材育成と定着化
    • AIリテラシーを向上させるための従業員トレーニングを開始し、従業員のAIツール利用率を引き上げる。

 「将来的に、企業の真価を決定付けるのは『単にAIツールを使う』ことではなく、『いかに安全かつ責任を持って、AIツールを日々の業務にシームレスに組み込めるか』にかかっている」。食品流通会社National Food GroupのCIOであるトッド・ロワゼルロワゼル氏はそう語る。

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