高齢のITエンジニアは“人手不足の救世主”になり得るか:企業がベテラン人材を積極的に雇用すべき理由とは
IT人材不足の中で優秀な人材を採用するための有効な手段は、高齢の候補者に注目することだ。企業が高齢のエンジニアを採用するメリットとリスク、従業員として受け入れる際のポイントを説明する。
企業は新たな人材を採用する際に、若い候補者に焦点を当てる傾向がある。これは、若い候補者が高齢の候補者より活力があり、最近の教育を受け、新しい技術に精通しているという期待からだ。
しかし世界的なIT人材不足の中で、企業は高齢のITエンジニアに焦点を当て始めている。高齢のベテランエンジニアは、若いエンジニアとは異なる利点をもたらすことがある。本稿はベテランエンジニアを採用するメリットとリスク、自社にベテランエンジニアをスムーズに迎えるためのポイントを説明する。
高齢のエンジニアを雇用する利点
ベテランエンジニアを雇用することにはさまざまな利点がある。ベテランエンジニアは長年の経験に基づき、過度な監督を必要とせずに業務を遂行できる。難しい判断を下す際には信頼できる“第二の意見”としても頼りになる。
キャリアを通じて繰り返し新しいスキルを取得していることから、若いエンジニアの指導役と期待できる。さらに、企業の再編やリストラ、買収といった組織変化を経験している場合もあり、その知見は組織運営の安定にも寄与する。
またベテランエンジニアは過去の同僚とのネットワークを活用できる場合があり、業務にプラスとなる情報や人脈をもたらす。多様な企業やマネジャーのもとで培われた問題解決力や適応力も含め、ベテランエンジニアは企業にとって大きな価値を持つ存在と言える。
ベテランエンジニアを雇用する際の考慮点
ベテランエンジニアの雇用にはさまざまな利点と同時に、リスクもある。企業はベテランエンジニアを採用することによるリスクを考慮し、それらを軽減しなければならない。
例えば新しいアプリケーションやハードウェアを利用できるようにするために、スキルアップや再教育が必要になる場合がある。
若い従業員が多い職場では、ベテランエンジニアがチームに溶け込みにくいと感じることがある。一方で若い従業員が経験豊富な年上の同僚との競争を意識して威圧感を覚えることもあるため、企業は円滑な協働を促すためのサポートが必要だ。
以前に上級の役職を経験しているベテランエンジニアの場合、本人がストレスの少ない仕事を望み転職するケースがある。このようなエンジニアは昇進のための残業を積極的に引き受けない傾向にある。
ベテランエンジニアは経験豊富であるがゆえに採用コストが高くなる可能性もあるが、これは面接やオファーの段階で調整可能だ。また年齢に伴う健康リスクは無視できないものの、若い従業員でも深刻な病気を患ったり、スポーツなどでけがをしたりする可能性がある点を踏まえるべきだ。
高齢の労働者が企業から見過ごされがちなのはなぜか
高齢の労働者を企業が採用せず、若い労働者を好む傾向にある理由は幾つかある。採用担当者による意識的または無意識的な偏見(バイアス)はその理由の一つだ。
意識的な偏見は、採用担当者の考えが候補者を正当に評価する能力に影響を与える場合に発生する。例えば採用担当者が若い候補者を好むのは、彼らが最新の技術に精通しており、長時間働けると考えるためだ。
無意識の偏見は、採用担当者が自覚していない偏見を指す。採用担当者は自分と似た背景や興味を持つ候補者に親近感を覚え、注目することがある。従って候補者の年齢が採用担当者の年齢と離れていると、採用において不利に働く。
採用プロセスで利用されるAI(人工知能)ツールが、偏った判断を実行することもある。現在、AIツールは求人情報の作成や候補者の履歴書の評価など、採用プロセスのさまざまな側面で使用されている。採用ツールに利用されているAIモデルが「理想的な候補者」として若い年齢層の人物像を多く含むデータセットで訓練されている場合、高齢労働者に否定的な評価が下される可能性がある。
企業は高齢の採用候補者とどう向き合うべきか
全ての候補者を平等に扱うことが、最善の戦略だ。年齢やキャリアが、その人が適任であるかどうかを判断する材料になるとは限らない。またベテランエンジニアを雇用することは、会社全体に良い例を示す。ベテランエンジニアを積極的に採用することで、年齢に関わらず適切な人材を採用するという公正な企業文化の構築を進められる。
高齢の従業員は数年後に定年退職する可能性があるが、それと同時に若い従業員が新しい会社に転職する可能性もある。そのため見込み勤続年数を考えるときに、年齢は問題にならない。新たに採用する人が短期的に何をもたらすかに焦点を当てることと、優れた従業員に働き続けてもらうことが重要だ。
ベテランエンジニアは、若いエンジニアが持っていないスキルで貢献する可能性がある。具体的にはプレッシャーに対処した経験や保有するさまざまな技術、組織運営の一般的な知識などが挙げられる。ベテランエンジニアはこうしたスキルでチームに落ち着きをもたらしたり、他の従業員を指導したりできる。
高齢の人材が若いチームに入るときにはさまざまな考慮が必要だ。例えばベテランエンジニアを歓迎するための努力が必要になる可能性がある。職務内容の変更や再教育、スキルアップが必要になることもある。ベテランエンジニアを維持することは、特に定年が近づくと企業にとって重要な課題となる。企業は、休暇の増加や休職、リテンションボーナス(一定期間企業に在籍することを条件に支払われる賞与)といった柔軟な働き方の提供を検討する余地がある。
採用候補者の年齢は、適切な採用かどうかの決定的な判断基準にはならない。重要なのは、職務の遂行能力と他者との協調性、プロジェクトのROI(投資利益率)を向上させるためのチームへの貢献度の高さだ。
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