検索
特集/連載

データ量の“爆増”に対処 クラウドコスト削減に役立つAWSの新機能とはAIとビッグデータでかさむクラウドの利用料金

クラウドサービスの利用料金が上昇する中、AWSは「AWS re:Invent 2025」で、クラウドサービスのコスト削減につながる複数の新機能を発表した。具体的な内容と、コスト管理に取り組む同社の戦略を詳しく説明する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 企業で取り扱うデータ量とシステムの複雑さが増し、AI(人工知能)開発が大量のリソースを必要としている。そのような中で、クラウドサービスの利用料金の上昇はユーザー企業にとって懸念材料となっている。そこでAmazon Web Services(AWS)が注力している分野が、クラウドコスト管理だ。

 AWSは2025年12月にラスベガスで開催した年次イベント「AWS re:Invent 2025」で、データ管理のためのさまざまな新機能を発表した。その幾つかは、ユーザー企業のデータの転送や保管に掛かるコストをより抑えられるようにすることを目的としている

 同イベントで発表された、AWSのデータ管理やAI開発に関連するコストの削減が期待できる新機能は以下の通りだ。

  • 「Amazon S3 Vectors」の一般提供開始。同機能は、ストレージサービス「Amazon S3」に保管されたベクトル(意味を表すデータ)のセマンティック検索(文脈や意図を理解して情報を探す検索手法)を可能にして、ベクトルの保存と検索のコストを削減する。
  • 新しい料金モデル「Database Savings Plans」。「Amazon Aurora」「Amazon RDS」などのAWSの各種データベースサービスの1年間の使用量を約束することで、利用料金を最大35%割引する。
  • データ分析アプリケーション向けストレージ「Amazon S3 Tables」へのインテリジェントティアリング機能の追加。データのアクセス頻度に応じてストレージ階層(保存場所)を自動的に移動させることで、ストレージコストを削減可能にする。
  • ビッグデータ処理サービス「Amazon EMR Serverless」の「Serverless Storage」機能が一般提供開始。ストレージの自動スケーリング機能が追加されたことで、ディスクタイプとサイズの手動設定やアプリケーションのストレージ容量の管理を不要にして、コストを削減できる。

 AWSのデータベース担当副社長であるガナパシー・G2・クリシュナモーシー氏は、AWSがコスト管理に焦点を当てていることを特に強調していない。しかしユーザー企業のフィードバックが、データ管理とAI開発に関するサービスの提供計画で主要な役割を果たしていると述べている。「これらの新機能は、私たちがユーザー企業から聞き取ったことに触発されている」と、同氏はre:Invent 2025のセッションで述べた。

ユーザー企業にとってより重要度を増すクラウドコストの削減

 データ量の急増やデータの形式の複雑化、AI開発の増加が、データ管理コストの高騰を招いている。ユーザー企業がデータ管理コストの上昇を懸念している中で、AWSの最新機能は、企業のニーズに応えていると、Informa TechTargetのアナリストであるスティーブン・カタンザーノ氏は話す。「企業は不確実な経済状況の中で、予算を削減しつつ事業を拡大するプレッシャーにさらされている。AWSがコスト削減に焦点を当てることは、システムのパフォーマンスや拡張性を犠牲にすることなくコストを管理するという、ユーザー企業の大きな課題を解消することに役立つ」

 ITコンサルティング会社McKnight Consulting Group社長のウィリアム・マクナイト社長によれば、AWSがデータ管理コストの上昇に対処する取り組みは注目に値するという。「セマンティック検索やコンテキスト(文脈)理解を実行するAIアプリケーションは、多数のベクトル(意味を表すデータ)を管理する必要がある。そのためデータ管理の仕組みが複雑化し、コストがかさむ場合がある」(同氏)

 カタンザーノ氏は、AWSの競合他社がクラウドコストの削減に取り組む中で、AWSの新しい機能がユーザー企業の支出削減を助けるためのより具体的な機能を示していると指摘する。「AWSはより積極的なアプローチを取っているように見える。同社は大規模なデータやAIアプリケーションを管理するユーザー企業にとって、コスト削減効果の高い選択肢としての地位を強化する可能性がある」

 これらの新機能は革新的というよりも、実用的な形で企業のニーズに応えている。「AWSは新機能の提供を通して、インフラの拡張性やパフォーマンス、コスト効率の改善に焦点を当てている。画期的な技術革新とは言えないが、運用を簡素化したり、コストを削減したりするための機能を提供することで、AWSサービスの使いやすさを向上させている」と、カタンザーノ氏は説明する。

 特に注目すべき機能として、カタンザーノ氏はDatabase Savings PlansとS3 Vectorsを挙げる。「Database Savings Plansは、データベースコストを削減するための簡単な方法を提供する。S3 Vectorsは、AIアプリケーションにとって革新的なコスト削減手法になる可能性がある」

AWSのさらなる課題とは

 コスト管理以外にも、AWSが解消すべきユーザー企業の課題があるとカタンザーノ氏は指摘する。「特に、AWSはデータ管理やストレージ、分析、AI機能の相互運用性を改善する必要がある」と同氏は話す。たいていのユーザー企業はさまざまなベンダーのAIアプリケーションを利用したり、インフラとしてオンプレミスインフラや複数のクラウドサービスを採用したりしている。「他社のクラウドサービスやオンプレミスシステムとの相互運用性を高めることは、AWSにとってユーザー企業のニーズに応え、ベンダーロックインを避けるための手助けとなるだろう」(カタンザーノ氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る