地球にはもうデータの置き場所がない――“宇宙データセンター”が急務な理由:電力枯渇と「究極のDR」に対する答え
宇宙空間にデータセンターを設置し、軌道上でエッジコンピューティングを実行する――。この構想はもはやSFの話ではない。エネルギー問題の解決や地政学リスクを回避する「究極のDR」としての可能性を探る。
「クラウド」といっても、その実体は地上にあるデータセンターだ。今、その“地上”が限界を迎えつつある。AI(人工知能)ブームに伴う計算需要の爆発的増加によって、電力消費と排熱処理が追い付かなくなっている。
こうした状況を打破するために企業は地球外、すなわち「宇宙」へのデータセンター設置を視野に入れ始めている。
本稿は、宇宙におけるエッジコンピューティング(データ発生源の近くでの分散処理)がもたらすさまざまなメリットを解説する。宇宙へのデータセンター移行は夢物語ではなく、地上データセンターが抱える「エネルギー」「リスク」といった問題を一挙に解消できる可能性を秘めているのだ。
解決策は「空」にある? 軌道上エッジコンピューティング
宇宙データセンターの実用化において、最大の懸念事項の一つがレイテンシ(遅延)だ。静止軌道(GEO)上のデータセンターは地表から約3万6000キロの上空に位置することになるため、地球との通信にはどうしても物理的な遅延が生じる。しかし、このデータセンターを対地球用としてではなく、「宇宙空間にある人工衛星や宇宙船」のためのエッジコンピューティング拠点として機能させるのであれば、話は変わってくる。軌道上の計算処理拠点として、効率的な運用が可能になるからだ。
具体例を挙げよう。撮影機能を備えた人工衛星のほとんどは、撮影した画像をそのまま地球に送信しているわけではない。大抵の場合、そうした人工衛星は未処理の観測データ群を地上に送信している。このデータは地上の受信機に届いてから処理されるため、膨大な帯域幅(通信路容量)と時間を消費することになる。
これに対し、撮影衛星が軌道上のデータセンターに生データを送信し、データセンターが生データを画像データに変換してから地球に送るという代替案が考えられる。これによって時間と帯域幅の両方を大幅に節約できる。このデータセンターで、AI技術を用いた画像分析などの処理を実行できれば、送信前に衛星画像を精査することも可能だ。山火事の検出を目的に設計された衛星の場合、データセンター内のAIモデルが画像を分析し、火災の兆候がある画像だけを選別して地球に送信するといった運用が現実味を帯びる。不要なデータは破棄され、重要な情報だけが即座に届く仕組みだ。
宇宙開発企業Space Exploration Technologies(SpaceX)のような企業にとっても、宇宙データセンターを利用するメリットは大きい。同社の衛星インターネットサービス「Starlink」の衛星群は通常、レーザーリンク(光通信)を使用して互いに通信している。ここに宇宙データセンターを接続できれば、理論上は通信ハブとして活用可能だ。データセンターがStarlinkのトラフィックを最適化し、適切なルーティングを決める他、障害発生時にはトラフィックのバッファリング(一時保存)や再ルーティングを実施することで、通信の安定性を高められる。
宇宙データセンターは衛星の管制(トラフィックコントロール)にも利用できる。各衛星が自身の位置情報を中央のデータセンターに能動的に報告する状況を想像してみよう。データセンターが各衛星の軌道を計算すれば、衝突の危険性を数週間前に予測し、衛星が回避行動を取れるようになる。こうしたシステムは、衛星にとって重大な脅威であるスペースデブリ(宇宙ごみ)の位置追跡にも役立つと考えられる。
なぜ宇宙データセンターが必要なのか
「地球外空間での災害復旧(DR)サービス」と聞くと、極めて限定的な用途のように聞こえるだろう。しかし宇宙データセンターは、地上のデータセンターが抱えるさまざまな構造的課題を解決する潜在能力を持っている。
データセンターを宇宙に移すことで解決し得る最も重要な課題の一つが、電力供給だ。ペンシルベニア州立大学(The Pennsylvania State University)のエネルギー環境研究所によると、2023年の時点でAIデータセンターは全米の電力消費量の4.4%を占めている。AI技術の普及に伴って、この数値は2028年までに3倍になる可能性があるという。水の消費や温室効果ガスの排出、電子廃棄物も無視できないレベルに達しており、サステナビリティーの確保が喫緊の課題になっている。
宇宙データセンターであれば、ほぼ無限に供給されるクリーンな太陽光エネルギーを活用することで、これらの問題に対処できる。静止軌道上では24時間太陽光を受けることができるため、付属の太陽電池パドル(太陽光を電力に変換する装置)によってギガワット級の電力を生成することも理論上は可能だ。
宇宙データセンター開発企業Starcloudの試算では、シリコン製の太陽電池セルは1ワット当たり約0.03ドル(約4.7円)で利用できる見込みだ。宇宙空間では発電効率が高く、ピーク時の電力をより効率的に生成できるため、地上の同規模の大規模太陽光発電施設よりも費用対効果が高くなると同社は主張する。
地球上のデータセンターは消費電力の大部分を冷却に費やしている。一方、宇宙ではスペースシャトルや国際宇宙ステーション(ISS)が採用しているラジエーター(放熱器)を使って、サーバの熱を宇宙空間に放出できる。空冷ファンのような電力を消費する冷却プロセスへの依存を減らし、太陽電池パドルで生成した電力のほとんどを本来の目的であるデータ処理に回せるということだ。
宇宙データセンターはモジュールを組み合わせて建設できる点もメリットだ。新しいモジュールを連結して拡張したり、古くなったモジュールを軌道から外して廃棄したりしやすい。このようなモジュール性が極めて重要である理由は2つある。
- 長寿命化
- データセンターを単一の巨大ユニットとして打ち上げる場合に比べ、モジュール交換によって設備の稼働寿命を大幅に延ばすことができる。
- 拡張性
- 需要に応じてデータセンターを成長させることができる。宇宙空間であれば土地の制約を受けることなく、地上の建設プロジェクトでありがちな騒音や環境負荷による地域社会との摩擦を気にする心配もない。
宇宙データセンターは実用的なのか
宇宙は過酷な環境であり、放射線の影響によってコンピュータを正常に稼働させることは歴史的に困難だと見なされてきた。しかし放射線耐性を高めたITシステムは、スペースシャトルの運用が始まった1980年代初頭からすでに宇宙で使用されている実績がある。
宇宙でのデータ保存事業を手掛けるLonestar Dataは、月に向かう着陸船「Odysseus」(宇宙開発企業Intuitive Machinesのミッション「IM-1」で打ち上げ)へのデジタル文書の送信と、地球への返信を実行する実証実験に成功した。
単なる文書転送と言われれば、一見地味な成果に思えるが、この実験は放射線によってデータが破損することなく、ファイルの送信、保存、受信が可能であることを実証した点で意義深い。Lonestar Dataは将来的に、宇宙空間や月面にデータセンター群を構築することを目指しており、「顧客企業向けの地球外DRサービスを提供する計画」を表明している。
宇宙データセンターは現在実験段階にある。しかし、それらが宇宙における「ありふれたインフラ」として定着する日は、意外と近くまで来ているのだ。
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