「SSDが買えない」悪夢続行? 2026年のストレージ市場を揺るがす5つの“激震”:AI特需が招く調達難
企業のAI活用が進む中、2026年は「ストレージ部品の枯渇」「価格高騰」がIT予算を直撃する見込みだ。調達不能やセキュリティ事故といった最悪のシナリオを回避する、“転ばぬ先のつえ”となる5つの予測を解説する。
IT業界のアナリストが将来を予測し、2026年以降に業界の主役となるテーマを語る季節がやってきた。それらは決して明るい話題ばかりではない。急速な人工知能(AI)技術の進化は、企業のストレージにかつてない負荷をかけているだけではなく、世界的な「備品の奪い合い」を引き起こそうとしているからだ。
本稿は、2026年以降のストレージ業界を左右する5つのトレンドを解説する。単なる市場予測にとどまらず、IT部門が直面する経営リスクに備えるための対策を講じる上で参考になはずだ。
トレンド1.既存ストレージでは耐えられず「AI最適化」が加速する
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最初の予測が「AI」なのは驚くべきことではない。AI技術や関連インフラへの過剰投資が懸念される「AIバブル」への警戒感はあるものの、世界的なAIインフラの構築は、とどまることなく前例のないペースで進んでいる。そしてこの状況自体が、次項で解説するストレージ業界の課題を生み出している。
2025年初頭には、ストレージの処理性能におけるボトルネックからデータの準備不足に至るまで、データインフラに関連する課題がAI技術の成功を阻む主な障壁になるという指摘があった。この1年で、AI技術の可能性は自律的にタスクをこなす「AIエージェント」や推論といった高度な領域へと広がった。企業が関心を「価値実現」のフェーズ、すなわちAI技術の実運用へと移すにつれて、AIインフラの課題はより顕著になっている。
2025年初頭と2026年初頭での大きな違いは、自社データセンター、大手クラウドベンダーのAIサービス、AIモデル用のクラウド型GPU(グラフィックス処理装置)など、インフラの選択肢が大幅に増えたことだ。
この1年間で、IBM、Dell Technologies、Hitachi Vantara、NetApp、Pure Storageといった大手ストレージベンダーに加え、VAST Data、DataDirect Networks、WekaIO、HammerspaceといったAIストレージベンダーからも、重要な新製品の発表が相次いだ。こうした取り組みは、NVIDIAを中心とするAI業界の技術動向や、データ管理ベンダーによるインフラ構想と連動している。
AI技術に最適化されたストレージインフラの選択肢は広がっており、2026年はAIストレージ導入の転換点になる。ベンダーとユーザー企業の双方が、AIストレージの導入を通じて経験を積むことになるだろう。企業内で大規模なAIシステムを運用するためにはストレージがどう進化すべきかという点について、共に理解を深めることになる。AI技術はまだ初期段階にあり、進化の途中だが、その可能性や構想を具体的な行動に取り入れる必要性はますます明白になっており、ストレージインフラは依然として議論の中心にあり続ける。
トレンド2.部品不足でAIツール導入のシナリオが変わる
2025年初頭の時点では、主要なストレージ部品の供給制約を気に掛けていた人はほとんどいなかった。しかし、この問題は同年後半に急浮上し、少なくとも今後数年間は、企業のストレージコスト全体、ひいては購入計画に大きな影響を与えそうだ。
主な原因は2つの要因が重なったことにある。まず、半導体メーカーが生産能力の配分を変更したことだ。主要な半導体メーカーは、NAND型フラッシュメモリよりも、大規模なAIシステムにおける高速データ処理を実現するための「広帯域幅メモリ」(HBM)に生産の軸足を移している。この全体的な生産能力の制限に、2025年半ばのNAND型フラッシュメモリの急激かつ大幅な需要増加が追い打ちをかけた。大手クラウドベンダーやクラウド型GPUベンダーは、ますます要求が厳しくなるAIモデルの推論を処理するために、当初の予測よりもはるかに多くのストレージ容量が必要であることに気付いたのだ。
例えば、生成AIやAIエージェントが実行する一連の処理において、コンテキストウィンドウ(AIモデルが一度に処理、記憶できる情報量)が拡張されると、GPUに近い高速ストレージに、より多くのデータを保持する必要性が生じる。一部のSSDベンダーは2026年分の生産枠の大半が埋まっていることを報告しているが、NAND型フラッシュメモリの生産能力を大幅に増強しようという動きは限定的だ。
予測が難しいストレージ業界において、こうした制約は珍しいことではないが、今回の不足が生じたタイミングは、2026年以降のストレージ業界全体に波及する可能性がある。メモリやSSDだけではなくHDDも含め、ストレージ部品の価格はすでに軒並み上昇傾向にある。主要なストレージベンダーは供給確保に自信を見せているが、それに伴う調達コストの増加は避けられず、製品価格の上昇を招く懸念がある。その結果、ユーザー企業は既存資産を延命させる、購入を先送りする、あるいは戦略を変更するといった選択を迫られることになる。
企業は、ストレージの利用率や効率の高さを示すツール、より優れたユニットエコノミクス(単位当たりの採算性)を提供するシステム形態にいっそう注目するようになるはずだ。これによって、導入済みのストレージからより多くの価値を引き出すことが可能になる。ストレージの調達難や価格上昇といった状況が深刻化する可能性はあるが、インフラ要件を適切に設定できれば、AI技術活用やデジタル化の目標を縮小する必要はない。
トレンド3.プライマリーストレージも「防御」が必須要件になる
サイバー攻撃の手口はますます巧妙化し、毎日のようにニュースの見出しを飾っている。企業は脅威の規模を認識すると同時に、「遅かれ早かれ侵害される」ことを理解している。こうした状況において、攻撃を受けた際の回復力(レジリエンス)は、今や必須事項になった。
2025年を通じて、ストレージにおけるレジリエンスは進化を続けた。高度な回復機能は、データバックアップツールや保護ツールの標準機能になりつつある。データ保護ツールベンダーCommvault Systemsが、運用上のレジリエンスの重要性を表現するために「Resiliency Operations」(ResOps)という言葉を提唱したほどだ。
企業が侵害の可能性に早く気付くことができれば、その分脅威を封じ込め、システム復旧と通常業務への復帰も早く起こせるようになる。そのため、バックアップインフラだけではなく、業務データを扱うメインストレージ(プライマリーストレージ)への回復機能の実装が重視されるようになっている。
ベンダーによって回復機能を実現するアプローチは異なる。サイバー攻撃の猛威から企業を守るために、ITリーダーがシステムのあらゆる部分がセキュリティ対策を担うことを求める中で、「最後の防衛線」としてのストレージの役割は重要性を増しているだけでなく、その防御機能自体も高度化している。
トレンド4.デジタル主権がデータ配置戦略を左右する
「デジタル主権」とは、個人、企業、国家が自らのデジタル資産とその在り方をコントロールする権限を持つべきだという考え方だ。概念自体はシンプルだが、多岐にわたる課題が絡む複雑なテーマだ。そのため実装アプローチは企業ごとに異なり、画一的な解決策は存在しない。
それでも、地政学リスク、AI技術の台頭、プライバシーやレジリエンスに関する規制強化、ベンダーロックインへの懸念などの複数の要因によって、デジタル主権は世界中の経営層にとって注目のトピックになっている。企業がどのベンダーを選択するかだけでなく、その製品やサービスをどこに配置するかという議論にも大きな影響を与え始めている。
データの物理的な所在(データレジデンシー)は、法的権限の適用範囲を左右する根拠になる。そのため、ストレージインフラはデータ主権を巡る論争において重要な検討事項だ。こうした複雑な法的要件を順守するために企業が求めているのは、全てのデータおよびストレージに一貫して適用できる、きめ細かな制御だ。
これらの課題は、2025年に一連の動きを引き起こした。米国の主要なクラウドベンダーは、データ保護に関する各国の法令を順守していることを保証する「ソブリンクラウド」機能に投資した。データの保存と処理を欧州など特定の地域に限定することに加え、欧州連合(EU)加盟国の国民のみで構成される委員会による監督体制を敷くほどの徹底ぶりだ。欧州など他地域のクラウドベンダーも、新規顧客を獲得する絶好の機会であると捉え、それに応じた投資をしている。
データ主権に関する議論は、オンプレミスでのIT製品導入を再評価させる可能性がある。この流れに呼応する形で、オンプレミスインフラベンダーもデータ主権機能に投資を拡大させていくことが見込まれる。こうした動きを、すでにBroadcomやNutanixなどが見せ始めている。
主要クラウドベンダーは、プライベートクラウドへの投資を強化している。「AWS Outposts」「Azure Local」「Google Distributed Cloud」など、パブリッククラウドの機能をオンプレミスシステムで利用可能にするハイブリッドクラウド製品は以前から存在していた。データ主権への配慮とAI技術への期待が相まって、その重要性がますます高まるのは必至だ。
2026年にデータ主権ツールの選択肢はさらに広がることになる。ただし、データ主権分野は依然として発展中であり、企業はどのツールが長期的な戦略的ニーズを満たせるのかを見極める必要がある。
トレンド5.ストレージ管理者の「役割」が変化する
最後の予測は、ITインフラの進化に伴うインフラ担当者、特にストレージ管理者の役割の変化に関するものだ。ここでも複数の要因が組み合わさり、インフラの展開と管理における従来の方法に変化を迫っている。
- 仮想化技術の変化による継続的な影響
- コンテナおよびクラウドネイティブアーキテクチャ(特にAI処理を支えるインフラ)の台頭
- ハイブリッドクラウド化が進むシステム全体で、上記システムを一貫して管理できる共通の管理機能の必要性の高まり
2025年は上記3つの領域で進展が見られ、2026年も進化が続くだろう。以下に例を示す。
- Nutanix
- パブリッククラウドで自社ソフトウェアを稼働させられるようにするとともに、データの保存先としてDell TechnologiesやPure Storageといったサードパーティー製ストレージアレイを利用可能にした。
- Dell Technologies
- インフラ運用を自動化する「Dell Automation Platform」で一元管理するプライベートクラウド製品群を展開し、強みであるストレージ技術に再び注力する姿勢を示している。
- Pure Storage
- オンプレミスシステムとパブリッククラウドをシームレスに統合する「Enterprise Data Cloud」というビジョンの下、企業のデータ資産を管理する構想を発表した。
- NetApp
- AIモデルがデータの配置や保護を自律的に最適化する「Intelligent Data Infrastructure」ビジョンを進化させ続けている。
各ベンダーの取り組みは、多様化、断片化するシステムを、企業が効果的に管理し、一貫した管理と自動化を通じて運用の複雑さを軽減できることを目的にしている。
こうした進展は、企業におけるストレージ管理者の役割が変わり続けていることを浮き彫りにする。効果的なストレージ管理が重要であることに変わりはないが、その実現方法は変化している。管理者はストレージ製品だけでなく、より広範なインフラ製品に精通していなければならない。
IT管理者やストレージ管理者は、職務範囲の拡大という課題に直面している。ハイブリッドクラウドの管理、複数の仮想マシンやそれをホストするマシン、クラウドネイティブインフラの管理、サイバーレジリエンス戦略の支援、エンタープライズAIの定着に伴うデータ管理の実施などだ。これにはシステム全体にわたる大幅な自動化が必要になる。2025年の進展は、われわれがすでにこれらの実現に近づいていることを示唆しているが、ゴールまではまだ道のりがある。
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