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“人手不足”では済まされない──IT運用部門崩壊の兆候と今すぐ始めるべき対策IT部門が抱える限界と再生の処方箋

Windows 11移行やクラウド活用の拡大が進む中、IT部門では属人化や人材不足に起因する“運用崩壊”のリスクが高まっている。2026年、現場が抱える課題と持続可能な運用への現実的な戦略とは。

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人工知能 | CIO | IT部門


 多くの企業で日々繰り返されているIT部門の業務は、問い合わせ対応、システム障害の復旧、定期的なメンテナンス作業など、多岐にわたります。それらの業務が回っている裏で、次のような状況が常態化していないでしょうか。

  • 特定の担当者に問い合わせや依頼が集中し、その人がいないと判断できない案件が山積みになっている
  • システム更新や障害対応のたびに“火消し”が発生し、計画的な改善活動に手が回らない
  • 手順書は存在するものの、実際の運用とズレていて誰も更新していない

 こうした状態は、「人が足りない」という一言で片付けらるものではありません。運用の持続可能性そのものが揺らいでいる可能性があります。2026年に注目すべきIT部門の負荷要因を整理します。

2026年に注目すべきIT部門の負荷要因は

IT運用の前提が変わり続けている

 SaaS(Software as a Service)をはじめとしたクラウドサービスの浸透により、IT部門が管理すべき対象は増え続けています。「Microsoft 365」「Salesforce.com」、各種クラウドストレージ、そして生成AI(人工知能)ツールなど、それぞれの分野で多様なツール活用が増えるたび、その管理はIT部門へ任せられます。

 各サービスは頻繁にアップデートされ、管理画面やセキュリティポリシーの設定方法が異なります。ユーザー企業側では、サービス提供側の機能追加や仕様変更に伴い、自社のポリシーや運用ルールを見直す必要が頻繁に発生します。

 「このアップデートは自社に影響するか」「新機能を許可すべきか、制限すべきか」といった判断が、月単位、週単位で求められる企業もあります。オンプレミス中心だった頃の運用を維持してきたために変化のスピードに対応し切れず、業務が属人化しやすい企業もあります。

運用破綻の兆候が見られる

 次のような兆候が見られる企業では、運用が破綻するリスクは高くなる可能性があります。

  • 障害や問い合わせ対応が特定の担当者に集中し、その人が不在になると対応が滞る。
  • 手順書は存在するものの、実際の運用と乖離(かいり)しており「最新の手順は口頭で伝える」という運用が続く。
  • 重要な設定や判断理由が文書化されず、「なぜこの設定になっているのか」が特定の担当者の記憶に依存している。

 担当者やIT部門の負荷を軽減しないまま進めば、全社のシステムを停止させるような重大な危険を見過ごす恐れもあります。

Windows 11移行と半導体供給

 「Windows 10」の延長サポートが2025年10月に終了しました。2026年にかけて「Windows 11」への移行作業を進める企業は、ハードウェアの要件確認、互換性テスト、業務アプリケーションの動作検証、ユーザー教育、キッティング作業を合わせて進めているところです。さらに、このタイミングで半導体供給が逼迫(ひっぱく)しており、PCの調達に関する難易度は高くなりつつあります。日常業務と移行作業を並行することを考えると、IT部門の業務負荷は相当になります。

人材不足と属人化

 2025年10月にノークリサーチが公開した調査によれば、IT部門人員の総数は増えていない一方、専任比率が低下し、兼任化が進んでいることが明らかになっています。

 兼任化がもたらす影響は深刻です。日常的な問い合わせ対応や障害復旧といった目の前の対応は優先せざるを得ない一方で、手順書の整備、運用の自動化、ナレッジ共有の仕組みづくりといった改善活動は後回しにされがちになる可能性があります。

 兼任担当者にとって、こうした活動に時間を割きにくく、結果として属人化や非効率な運用が放置され、負荷がさらに高まる可能性があります。

属人化が進む組織で起きがちな実務課題

 属人化が進んだ組織では、ナレッジ共有が進まない状況が生じます。日々の業務に追われる中で、自分の知識や経験を体系的に整理し、他者に伝わる形で文書化する作業は、時間とエネルギーを必要とします。

 結果として、「とりあえず口頭で伝える」「聞かれたら答える」という情報共有が続き、組織としてのナレッジが蓄積されません。IT部門のごく一部のメンバーに負荷が偏り、若い層や中途で加入したメンバーに必要な情報が共有されない悪循環が起こる恐れもあります。

 「特定の担当者が休暇や出張で不在の際、業務が完全に停止する」、判断を伴う案件で「担当者の復帰を待つ」という対応が取られる可能性もあります。結果として、意思決定のスピードが低下します。

IT人材不足は長期的な問題となってきた

 人材不足は一時的な現象ではなく、中長期的な視点で社会的に指摘されてきた課題です。ここでは採用市場の現実と、育成だけでは人材不足を解決することができない理由を整理します。

2030年ごろまでに見られる需給ギャップ

 経済産業省などの調査によると、IT人材は2030年までに40〜80万人の規模で不足すると予測されています。この予測の背景には、IT関連産業への入職者数の減少やIT人材の高齢化などがあります。

 IT人材市場では、クラウドベンダー、SIer(システムインテグレーター)、Webサービス企業、スタートアップなど多様なプレイヤーが優秀な人材を求めています。そのような競争率の高い状況の中で事業会社のIT部門は、技術的なチャレンジや最新技術を扱う機会の訴求、給与水準、キャリアパスの明確さといった点で、採用において工夫が求められる状況にあります。

「育成すれば解決する」とは限らない

 「採用が難しいなら、社内で育成すればいい」という考え方がありますが、現実はそう単純ではありません。クラウド、セキュリティ、AI関連の高度なスキルを身に付けるには、十分な時間と実践の機会が必要です。しかし、日常業務に追われる中で学習時間を確保することは容易ではなく、外部研修やセミナーに参加する間の業務を他のメンバーがカバーする必要があり、現場の負荷が一時的に高まることもあります。

 高度なスキルを身に付けた人材は転職市場での価値が高まり、より魅力的な条件を提示する企業からのオファーを受けやすくなります。育成が定着につながらない背景には、育成後のキャリアパスが不明確である、スキルを身に付けても評価や処遇に反映されにくいといった課題も存在します。

運用崩壊を防ぐための現実的な戦略パターン

 採用や育成だけに頼らずに、IT部門の運用設計を見直すための3つの戦略を提示します。

ノンコア業務を切り分け、判断業務に集中する

 管理対象の増加と複雑化が進む中、全てを内製で抱え続けることは現実的ではありません。定型的な作業や高度な専門性を要する業務を内製で対応し続けることは、限られた人員のリソースを圧迫します。「何を内製で持つべきか」「何を外部に任せるべきか」を明確に切り分け、運用設計の一部として位置付けることが大切です。

 外部活用を適切に活用すれば、内部リソースをより価値の高い業務や、社内の人間が対応することが望ましい業務に集中させることができます。例えば、PCの初期設定やアプリケーションのインストールといったキッティング作業、一次対応のヘルプデスク業務、24時間365日のインフラ監視・運用といった業務は、外部活用の候補として検討できます。

自動化・AI活用を属人化対策に用いる

 自動化やAI活用は、省力化だけでなく、属人化を解消し運用の再現性を高める手段として捉えることができます。

  • 問い合わせ対応の自動化
    • FAQ(よくある質問と回答)を自動化することで、担当者の負荷を減らすとともに回答内容のばらつきを防ぐ
  • 定型作業のスクリプト化
    • アカウント作成、権限設定、ログ収集といった定型作業をスクリプト化することで、手順の再現性を確保しミスを減らす
  • 判断基準の明文化
    • 自動化の過程で「どういう条件の時にどう判断するか」を明文化することで、属人化を解消するプロセスにする

 こうした取り組みが考えられます。自動化できる業務とできない業務を見極め、優先順位をつけて取り組むことが重要です。

継続的なスキル設計と評価の再定義

 IT部門の価値は、技術的なスキルだけで測れるものではありません。現場の課題を理解し技術を使って解決策を提示する力、複数のステークホルダーの要望や要件を調整する力、限られたリソースの中で優先順位を判断する力といった能力も重要です。

 全ての技術領域を一人の担当者にカバーさせることは非現実的です。役割を明確に分担し、各自が専門性を深めやすくする一方で、サブ担当者を設けたり定期的にローテーションを行ったりすることで、属人化を防ぐ仕組みも有効です。

 ドキュメント整備や手順書の更新、他メンバーへの引き継ぎや教育、自動化や効率化の取り組みを評価する項目を作ることで、「誰でもできる」状態を作ることが価値として認識される文化を醸成していくことが重要です。

まとめ:「人を増やす」前に、運用を問い直す

 IT部門運用の崩壊は、ある日突然訪れるものではありません。属人化、多業務との兼任、負荷の増大といった要因が静かに蓄積し、ある時点で臨界点を超えます。2026年は、Windows 11への移行やPC入替需要の急増といった複数の負荷要因が重なり、問題が一気に表面化しやすいタイミングです。しかし、これは同時に、運用の在り方を見直す好機でもあります。

 「人を増やせば解決する」という発想だけでは、長期的な構造問題に対処しきれません。今ある運用を問い直し「ノンコア業務を切り分け外部活用を運用設計の一部として位置付ける」「自動化・AI活用を属人化対策として捉え再現性の高い運用を構築する」「評価制度や役割設計を見直し属人化を生みにくい組織文化を醸成する」といった観点で戦略を組み立てることが求められます。

 2026年を機に、自社の運用体制を見つめ直し、小さな一歩でも改善に着手する。それが、IT部門運用崩壊を防ぐための現実的な出発点となるでしょう。

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