AI時代の人材流出を防ぐ鍵
シニアIT人材が辞める本当の理由は? 予算がないCIOが使える“引き留め策”
コロナ禍で急増したIT人材の需要が落ち着く中、企業は高度スキルを持つIT人材の確保に新たな課題を抱えている。特にシニア層の離職を防ぐための策は。
新型コロナウイルス感染症のパンデミック期、企業はテレワーク用の基盤やITインフラの整備を目的に短期間でIT人材を増員する必要に迫られ、その結果IT人材の給与額が急増したところもある。しかし、コロナ禍を経て、人員配置や予算額は、横ばい状態となった。
「当時は、急速なデジタル変革に遅れまいと、各組織が猛烈に人材を求めていた。しかし、市場はより持続可能な状態へと是正されつつある」。Cisco Systemsのニック・ケール氏(プリンシパルエンジニア)はこう述べる。給与額を大幅に上げることはできない、しかし高度なスキルを持つIT人材に末永く自社で活躍してほしい。このような希望を持つ企業のCIO(最高情報責任者)がやるべき“引き留め戦略”は何か。
“お金を出す”以外の引き留め策は
給与額の伸びが鈍化する企業がある一方、全IT人材の需要が伸び悩んでいる訳ではない。ケール氏によれば、人工知能(AI)技術の普及により、技術的な専門性だけでなく、ガバナンス能力や、IT基盤全体を統括、最適化できる専門性を必要とする役割に採用と報酬が集中している。企業が直面している人材不足は、頭数で解決できるものではなく、人材の知見を集合させた組織固有のナレッジを構築できるかどうかにかかっている。
「ITエンジニアを見つけることはできる。しかし、Kubernetes(コンテナオーケストレーター)クラスタを運用している人材や、AIエージェントの構築をリードし、意思決定やガードレールの監視までできるような人材の確保は困難」だとケール氏は説明する。
さらに、AIシステムがより多くのタスクや自律性を担うようになる企業もある中、IT人材の専門知識の深さはさらに重要となりつつある。ケール氏は「AIはシニア人材への依存を減らすのではなく、これまで以上に複雑化したシステムの展開や管理ができる特定の役割や人材へと、その依存度を集中させている」と述べる。
大切な人材をつなぎ止めるためにCIOができること
不透明な経済状況下では、給与額の伸びが鈍化し、それがIT人材の離職の引き金になる可能性がある。AIのスペシャリストやその他の重要なシニア層のために追加予算を割り当てている企業であっても、CIOは「金銭的な報酬だけでは最も価値のある従業員を確保し続けることはできない」と認識すべきだ。
シニア人材の意思決定権限を守る
管理職への昇進を視野に入れるレベルのIT人材で、長期的に特定のプロジェクトで能力を発揮できている、意思決定権限を持つことができている場合、定着率は向上する可能性がある。組織再編が繰り返されたり、その結果としてシニア人材の職責が曖昧になったりするといった状況が企業で発生している場合、CIOはその問題からシニア人材を守ることが重要になる。その行動が、企業としてシニア人材の専門性を尊重しているというシグナルを送ることにつながり、信頼関係を保持することにもなる。
「給与額は多くの場合『退職前の最後のきっかけ』にはなるが、根本的な原因ではない。シニア人材が去る本当の原因は、給与額の伸びが鈍化すると同時に、自身の責任や裁量範囲が縮小してしまうことにある」(ケール氏)
AI戦略を明確にし、透明性を持って伝える
企業が業務効率化やコストの削減を目的にAIツールを導入することで、「自分たちのポジションが削減の対象となる」と不安を抱くIT人材もいる。マーク氏は、「自社のAI戦略を言語化し、それが従業員の役割にどう影響するか」をCIOがオープンに伝えるべきだと指摘する。透明性が高い情報を共有することが、IT人材の不安を和らげる一助となる。
真のスキル向上と環境整備にコミットする
AIツールに投資はしているものの、導入したツールを活用するための準備が十分に整っていない企業もある。マーク氏によれば、AIツールの活用に必要な研修を提供すること、AI導入に関する意思決定に従業員を関与させることがCIOの役割だと指摘する。これにより、従業員はAIツールの導入に抵抗するのではなく、主体的に変化を受け入れられるようになる。
まとめ
パンデミック期の急激な賃金上昇は落ち着きつつあるが、給与額に失望したIT人材の流出が相次いでいる訳でもない。CIOが注視すべきは、AI、クラウド、セキュリティにおける組織知と専門知識を持つ、高度なスキルを備えた少数の層の離職だ。
特にシニア層のIT人材において、権限を与えられ、周囲から信頼され、価値を認められていると感じられる環境を作ることが、給与額のアップと同様に重要であることを認識することがCIOにとって必要だ。
今後、不透明な経済情勢となった場合でも高度なスキルを持ったIT人材をつなぎ止め、AIツールを使ったイノベーションを起こすには、「不確実性を減らすためのAI戦略の明確な伝達」「新たな技術需要に対応するための有意義なスキル向上への投資」「シニア人材のエンゲージメントを維持するための意思決定権限の保護」に注力することが肝要だ。
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