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「プレイヤーのまま20年」 情シスが抱えるキャリアの壁、その正体と突破口は?情シスは報われないポジション?

企業のIT基盤を支える情報システム部門が、現場では高評価を得ても昇進やキャリア構築に課題を抱える場合がある。その理由は何か。納得がいくキャリアを構築するためのヒントは。

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人工知能|CIO | CTO


 情報システム部門(以下、情シス)のメンバー間で、次のような会話を耳にすることがある。「事業部門からの評価は高いのに昇進は別」「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進をしたいのに、障害対応やヘルプデスク対応に常に追われている」「気付けば20年近くプレイヤーのまま止まっている」――。

 情シスの現場感覚としては、社内のIT活用を支える重要な役割を担っているという自負がある。しかし昇進や待遇といった人事制度の文脈になると、評価軸が変わってしまうように感じられる。そのギャップが、情シス当事者の間にモヤモヤを生みやすい。

 この現象は、個人の能力不足やキャリア設計といった個人要因だけで説明できるものではない。むしろ、優秀な情シスほど現場に固定化されやすい構造的な問題が背景にある可能性がある。

 情シスのキャリアは、なぜ頭打ちになりやすいのか。本稿では、その天井の正体と、そこから視野を広げるための考え方を整理する。

情シスのキャリアは本当に頭打ちになりやすい?

 「社内からの信頼は高い。存在感もある。それでも昇進の面では、課長やプレイングマネジャー止まりで頭打ちになる」――。こうした声は、決して珍しいものではない。

 この背景には、情シスの実務の特性と、企業内での位置付けが深く関わっている。

情シスの役割は想像以上に幅広い

 情シスの職務は、ヘルプデスク業務にとどまらない。インフラの運用、SaaS(Software as a Service)の導入、PCの調達、ID(アイデンティティー)管理、ライセンス管理、セキュリティ、障害対応、事業部門からの相談対応、業務改善、ベンダー折衝など、社内ITに関わる実務全体が対象になる。

 近年は、生成AI(人工知能)やデータ活用といった新しいテーマも加わり、守備範囲が拡大傾向にある企業も多い。

 一方で、企業内における情シスの位置付けは、売り上げや利益を直接生まない「間接部門」とされる場合がある。この位置付けが、昇進やキャリア形成に影響を及ぼすことがある。

評価軸の違いがキャリアの天井を生む

 事業部門や営業部門では、売り上げや利益、KPI(重要業績評価指標)の達成といった成果が可視化されやすく、評価とポストが結び付きやすい。経営陣との会話も、こうした数値を共通言語として利用しやすい。

 一方、情シスの成果は、コスト抑制、障害防止、セキュリティ、ガバナンスといった「マイナスの発生を防ぐ仕事」が中心になる。成果の可視化が難しく、貢献度を測る指標も曖昧になりがちだ。「何も起きない状態」が達成基準である場合、成果を積極的にアピールする機会も限られる可能性がある。

 各部署の評価制度や昇進プロセスを単純化すると、次のように整理できる。

  • 営業
    • 売り上げ/利益
  • 事業
    • KPI/プロジェクト
  • 情シス
    • 安定稼働/コスト抑制/セキュリティ/ガバナンス

 営業や事業部門が「プラスの成果」を積み上げるのに対し、情シスは「マイナスの発生防止」で評価される。いわば「ゼロが最高」とされる考え方だ。

 この評価軸の違いは、人事制度と相性が良いとは言いにくい。情シスが本部直轄ではなく部内機能として置かれている場合は、管理職ポスト自体が限られやすくもなる。評価軸の不利さと、組織構造上の制約が重なることで、現場での評価は高くても、人事評価の文脈では評価されにくいという矛盾が生じやすくなる。

 その結果、部長や役員といった上位レイヤーへのキャリアパスが狭まる可能性がある。

役職は課長で頭打ち、部長以上は事業部門出身が占める場合も

 こうした構造の中で、情シスの役職が課長から担当部長クラスで止まる企業もある。部長以上、特に役員になると、事業部門出身者が中心となるケースも見られる。

 DX推進が経営テーマとして語られる一方で、DXの意思決定や旗振りは事業部門や経営側が担い、情シスはIT実装部門として切り分けられることもある。その結果、情シスが経営のテーブルに呼ばれにくいという状況が生まれている場合もある。

日本企業の評価構造が情シスの出世を難しくしている

 情シスの出世が難しいのは、個人の能力だけが原因だけであるとは言い切れない。日本企業における評価制度やキャリア設計と、IT部門の役割とのかみ合わせが影響している可能性がある。

優秀な情シスほど現場に固定されやすい

 情シスは、企業内で基幹業務システム、ITインフラ、セキュリティなど横断的な知識が求められ、属人化が進みやすい立場にある。

 障害対応やトラブル対応、業務アプリやSaaSの導入、ITインフラの管理など、「手を動かせる人」が抜けるリスクを避けるため、優秀な人材ほどプレイングマネジャーとして現場に張り付けられやすくなる。現場での運用に配置されることが優先され、上位役職への登用が後回しにされれば、それが後進育成の遅れにつながり、負の循環を生む場合もある。

嫌われ役になりやすい?

 標準化やセキュリティ統制、ライセンス管理といった観点から、情シスは「止める側」に回ることがある。DXが経営テーマとなっても、情シスの役割が実装と統制に限定されれば、意思決定の主体になりにくくなる。

 業務改善やDXを掲げても、実態としてはガバナンスやリスク管理の比重が高くなれば、短期的な成果を求める評価制度とかみ合いにくくなる恐れがある。

ローテーション制度の欠如

 さまざまな部門を異動するジョブローテーションに、情シスへの配置を含めている企業はそれほど多くない。そのような企業に勤めた結果、情シス一筋のキャリアになりやすく、部長や役員候補のレイヤーに求められる経験や視点、組織運営の感覚を身に付ける機会が不足する場合がある。ここに、構造的なキャリアの天井が生まれている。

それでも情シスのキャリアは閉じていない

 とはいえ、情シスのキャリアは完全に閉ざされている訳ではない。役割の置きどころを変えることで、社内外に選択肢を広げる余地はある。

社内でキャリアを変えるルートは存在する

 近年、情シスの中でも役割の分化が進んでいる。DX推進、ITインフラ企画、データ戦略、PMO(Project Management Office)、セキュリティ戦略など、事業側に近いレイヤーで価値を出すポジションを設置する企業もある。インフラ運用やヘルプデスクの延長線ではなく、情報システムの仕事を「事業を加速させる役割」として再定義する動きだ。

社外での評価はむしろ高い?

 市場全体を見ると、情シス経験者の転職市場価値は必ずしも低いとは言い切れない。情シスは担当領域に応じて、次のような職種で評価されることがある。

  • インフラ
    • SRE(Site Reliability Engineering)
  • セキュリティ
    • コンサル/ベンダー
  • PM
    • ITコンサル
  • SaaS導入
    • プリセールス

 情シスで培った「技術・事業・統制」を横断する経験が、社外で希少なスキルセットとして評価される場合もある。社内評価と市場評価の軸が乖離(かいり)するケースも珍しくない。

情シスがキャリアを押し上げるための視点は「守り」から「事業の加速」へ

 情シスがキャリアの頭打ちを回避するには、仕事の成果をどの基準で説明するかという視点が重要になる。

天井を決めているのは技術力ではなく評価軸

 問われているのは技術力そのものではなく、自部門が何の利益に貢献する組織として認識されているかだ。

 情シスは、障害防止やコスト抑制といった「守り」の視点で語られがちだ。今後は、利益や顧客価値、データ活用といった「攻め」の文脈に置き換えられるかどうかが、キャリアの分岐点になる。

経営の言語に変換する

 情シスの業務は、事業側の言葉に変換したときに価値が伝わりやすくなる。

 例えば「SaaS導入=コスト削減」だけでは不十分だ。「SaaS導入=営業の再現性向上」「販売効率の改善」「顧客獲得の加速」といった形で、事業のKPIに結び付けて説明できれば、評価の土俵に乗りやすくなる。

 セキュリティも、事故の防止にとどまらず、取引継続やブランド構築といった事業価値に直結するテーマとして語ることができる。評価されないのは成果の有無ではなく、説明の仕方に掛かっている可能性がある。

まとめ

 情シスのキャリアが課長やプレイングマネジャー止まりになりやすいのは、個人の能力というより、評価軸や業務設計、人事制度といった企業構造の影響が関連している可能性がある。

 一方、市場では情シスの経験は「技術×事業×統制」を横断する希少なポジションとして評価され、社外の選択肢はむしろ広い場合がある。

 まずは、情シスとして担ってきた仕事を評価の土俵に乗る言葉に置き換えて棚卸ししてほしい。その先に、社内で役割を広げる道も、社外で評価軸を切り替える道も見えてくるはずだ。

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