Windows 11強制リプレースの“逃げ道”に「Linux」が台頭してきた理由:SaaS時代の「脱Windows」シナリオ
「Windows 10」のサポートが終了し、企業は「Windows 11」への移行という課題を突き付けられている。費用やベンダーの都合によるリプレースサイクルの回避策として、「Linux」は代替手段になるのか。
ほとんどの企業にとって、これまで「Linux」はデスクトップPCのOSとして真剣な検討対象にはならなかった。しかし、この状況が変わり始めている。
これはLinuxが急に流行し始めたからではない。「Windows 10」がサポート終了を迎えた一方で、後継の「Windows 11」への移行には制約が伴うからだ。Windows 11を導入しようとすると、厳格なハードウェア要件を満たすための機器の買い替え費用が発生する。ベンダーの都合で強制されるハードウェアの更新が、自社にとって価値があるかどうかを企業が問い直し始めているのだ。
この「Windowsへの依存を見直す動き」を後押ししているのが、SaaS(Software as a Service)の台頭だ。Webブラウザで利用するSaaS型の業務アプリケーションは、日常的な操作におけるOSごとの違いをほぼ均質化した。どのOSを使っても、操作画面は同じように表示される。その結果、日常業務の範囲において、一般の従業員は背後で動いているOSの種類を気にしなくなった。
従業員にとってOSの存在感が薄れたからといって、IT部門にとっても同様というわけではない。Linuxに再び注目が集まっている理由は、IT部門にとって「どのOSを選ぶか」という決断が、再び重要な意味を持つようになったことを示している。
流行ではなく「逃げ道」としてのLinux
企業がLinuxに関心を寄せているのは、LinuxというOSに魅力を感じているからではない。事の発端はWindows 10の退場と、後継であるWindows 11への移行に厳しい性能基準や費用といったハードルが伴うことだ。
Windows 11はハードウェア要件が厳しく、OSのアップデートを延期して現状維持できる余地も少ない。まだ十分に機能するデバイスをベンダーの都合に合わせてリプレースしたくない企業にとって、Linuxへの移行は、ハードウェア更新という重い決断を先延ばしにする有効な回避策になる。
こうしたアプローチの利点は、費用の削減以上に、ベンダーからシステムの制御権を取り戻せる点にある。Linuxを採用すると、OSが裏側でどのような処理を実行し、どのようなデータを収集しているのかを把握しやすくなる。ハードウェア要件もそれほど厳格ではないため、デバイスの耐用期間を自社でコントロールしやすくなる。一斉更新を避けて時期をずらすといった調整も容易であり、IT部門はデスクトップPCを入れ替えるタイミングや理由について、主体的な決定権を取り戻すことができる。
ESG(環境、社会、ガバナンス)目標を重視する企業にとっては、サステナビリティー(持続可能性)の観点でも恩恵がある。特定のOSの開発計画に縛られずにデバイスの更新時期を判断できるようになり、デバイスのライフサイクルを無理なく延長可能になる。強制的なリプレースのサイクルに追われることなく、段階的にデバイスのエネルギー効率を改善できる。Linuxが環境問題を完全に解決するわけではないが、目標達成を阻む障壁を取り除く効果はある。
SaaSが適合する領域
クラウドサービスで実行しているデスクトップ画面を丸ごと配信するDaaS(Desktop as a Service)とは異なり、SaaSは個別のアプリケーションをインターネット経由で提供する仕組みだ。SaaSの大半はWebブラウザで動作するため、従業員がSaaSを使って日常業務をこなす上で、自身が使っているデバイスが何であるかはさほど重要ではない。
こうした仕組みの変化が、Linuxを取り巻く状況を好転させている。
LinuxはWindows 11ほど高いハードウェア要件を求めない。同時に、SaaSは特定のOSに縛られず、アプリの互換性やアップデートといった技術的な負担を軽減してくれる。このように導入や設定の手間が省かれたことで、一般の非IT系の従業員にとっても、Linuxは親しみやすいOSになった。
一部の企業は依然として、Linuxの導入に抵抗を感じている。それは明確な反対理由があるからではなく、Windowsを中心としたシステム構成、調達の慣習、そして長年染み付いた経験といった、これまでの積み重ねが原因だ。現在異なるのは、SaaSが十分な摩擦を取り除き、そうした慣習がそれほど問題にならなくなったことである。費用の重圧や導入の簡素化、Webブラウザを優先するワークフローが静かに浸透し、誰も声高にLinuxを支持する必要はなくなっている。
IT部門が抱きがちな推測
次に導入するデバイスやOSの検討において、Linuxが本命候補として議題に上るケースはまれだ。デバイスの更改時期や寿命、あるいはWindowsのアップグレードが本当に必要なのかといった周辺的な課題の解決策として話題に上るのが一般的だ。
SaaSが広く浸透したことで、このような議論の土壌が形成された。業務の大部分をWebブラウザで実施できるのであれば、デバイスのOSの存在意義は薄れていく。アプリケーションがどのOSでも同じように動作するなら、IT部門にとって見た目や操作性の細かい違いは許容範囲内だろう。
企業は往々にして、OSのライセンス費用に関する議論の優先順位を下げ、後回しにしがちだ。システム構成が固まった後で、予算のつじつまを合わせればよいと考えるからだ。
Linuxを候補に入れる場合、このような検討順序は適切ではない。OSが背後に隠れている存在ではなく、自社でOSを直接制御できる存在として表舞台に引き上げられるからだ。その結果、議論の焦点は「OSの制約をどう回避するか」から、「誰が、どのくらいの期間OSを管理するのか」に移っていく。
一部の企業にとってLinuxが業務デバイス用OSの現実的な選択肢になりつつあるのは、それらの企業が突然Linuxを好むようになったからではない。SaaSが特定のアプリケーションに対する依存を解消したのと同じタイミングで、Windows 11の厳格なハードウェア要件がOS選びの重要性を高めたからだ。Linux以外の選択肢が以前よりも費用がかかり、制約に満ちており、膨大な予算を割いてOSを移行する理由を経営層に説明しづらくなったためだ。
高額な移行費用を回避するという目的において、企業はLinuxに「あらゆる業務をこなせる完璧なOS」であることを求めていない。従業員がWebブラウザを開き、SaaSで日々の業務を滞りなく進められる。その実用性さえ満たせれば、Windowsの代替として十分に機能する。
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