“同じスキルのはずなのに” 情シスの年収格差につながる条件3つ:年収差につながるのはあの要素
情シス人材の転職市場で、同等のスキルであっても年収に差が生じる可能性がある。その背景を、情シスのキャリア支援に携わる向井達也氏が解説する。
同じようなスキルや経験を持っているはずなのに、転職面接で提示される年収に差がある――。情報システム(以下、情シス)部門の転職において、「何が問題か分からないまま年収が上がらない」という悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本稿では情シス人材のキャリア構築に知見を持つ向井達也氏に、実際の転職支援の現場から見た「転職で年収が上がる情シスの共通点」と「同じスキルでも年収が変わってしまう理由」を整理します。
年収を左右する情シスの条件
併せて読みたいお薦め記事
情報システム部門の関連記事
コミュニケーション力
「困りごとを抱えている人に積極的に自分から声を掛けにいくことができる」「相談ごとに親身に対応できる」といった能力がコミュニケーション力です。
情シス担当者の方が頻繁にコミュニケーションを取る対象は、同僚や上職といった社内で近い距離にある存在が一般的です。そのような距離感の中でコミュニケーションを怠り、一度とっつきにくい印象を与えてしまうと、関係の修復は困難になります。新しいシステムの導入やセキュリティ関連の整備といった施策を進めるに当たっては、社内との連携が重要になります。情シスへの信頼や理解を得られなければ施策を進めることは困難になるため、「施策を進めるため」ではなく、日頃からコミュニケーション力を発揮し、信頼関係を構築することが大切です。
つまり、コミュニケーション力は単に人間関係を円滑にするためのスキルではなく、施策を実現できるかどうかを左右する実務的な力だと言えます。
一方、情シス部門は企業の中でコスト部門と見なされやすく、成果が直接売り上げに結びつきにくいため、評価されにくい立ち位置にあります。そのような中で、情シス担当者によって年収差が生じるのはなぜでしょうか。私はその理由を、「現場の合意形成を進めて施策を実行する」「部門を動かし、その価値を経営に説明できる」かどうかにあると考えています。つまり、自身の取り組みを「事業への貢献」に変換できる人材かどうかが評価の分かれ目になるということです。
社内でコミュニケーション力を発揮し関係構築に注力できる方は、業務を円滑に進めるだけでなく、合意形成や巻き込みを通じて施策を実現しやすいです。その結果として、組織における影響力は拡大し、情シス部門が「コスト部門」ではなく「投資対象」として評価されるようになります。これが、年収の差になるという意味です。
コミュニケーション力はどの職種でも重視されるスキルですが、情シスにおいては特に重要です。選考では、「コミュニケーション力を通じて事業に貢献できるか」「運用担当にとどまるか」が見極められています。コミュニケーション力を発揮できるかどうかが、キャリアと年収の双方に影響していると言えるでしょう。
成長可能性
若ければ若いほど可能性があるという訳ではありません。年齢を問わず、現状お持ちのスキルにどれだけ拡張性があるか、という観点で評価されます。
ここでいう成長可能性とは、単に「順応性が高い」「伸び代がある」といった抽象的なものではありません。具体的には、新しいツールや環境に対するキャッチアップの速さや、環境変化(SaaSやAIなど)への適応力、さらに役割が拡張された際に自分の担当範囲を広げられるか、といった点です。例えば、これまで運用を中心に担ってきた方が、企画や改善提案といった上流工程に踏み込めるかどうかは、重要な判断材料になります。
私はベンチャー界隈の情シス転職において、50歳前後の方をご支援したことが何度かありますが、年齢に関わらず、環境への変化や対応力が高いとお見受けする方は、入社後にさまざまな業務を任されているという話をよく聞きます。
企業が成長可能性に対して高い年収を提示する背景には、将来のリーダー候補としての期待や、組織拡大フェーズにおける中核人材としての役割、さらには外部依存を減らすための内製化を担う存在としての期待があります。つまり、現時点のスキルだけでなく、「今後どれだけ組織に価値をもたらせるか」に対して投資しているということです。
一方で、「転職理由が後ろ向きだが企業側も背に腹を代えられず採用するケース」や、「極端に短い期間での転職を繰り返し、長期的に組織に貢献してきたイメージを持ちにくいケース」では、こうした将来性への期待を持ちにくいため、結果として現状お持ちのスキルに対しての年収がオファーされる傾向にあると考えられます。
事業を見る目
どれだけ高いスキルを持っている方でも、そのスキルを生かせる場所でなければ高い評価にはつながりにくいです。特に情シス担当者の場合は、同等のスキルを持っていても、それを売り上げに近い領域で生かせるのか、コスト削減や守りの領域で使うかによって、企業が提供できる年収水準は大きく変わります。
大手やベンチャーといった企業規模を問わず、これまで事業が成長していた企業であっても、1つのきっかけで事業の縮小や撤退に至るケースはあります。そうした局面では、業務改善やセキュリティポリシーの強化といった領域は優先度が下がりやすく、その中にいる情シス担当者の評価や年収も伸びにくくなります。個人の能力だけでなく、「どの事業を担当しているか」が評価を左右する構造なのです。
「好きだから」「関心があるから」という理由で事業を選ぶことも重要です。それに加えて、市場として今後伸びていく可能性があるのか、売り上げに近い領域でスキルを発揮できる構造になっているかに着目することが大切です。さらに、コンプライアンス面でのリスクはないか、経営層に信頼が置けるかといった点を冷静に見極めることもポイントです。どの事業を選ぶかが、そのまま自身の評価や年収の上限を左右する要素になる可能性があります。
評価されにくいスキルしかない、リカバリーするには?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期を経て、特にベンチャー企業にお勤めの情シス担当者の方は、クラウド関連の知識や業務経験が必須になりつつあります。
創業から長い歴史を積み上げてきた企業でも、オンプレミスでシステムを完結させるという事例は減少傾向にあると考えています。今後転職を意識されているものの、オンプレミスの運用しか経験がない場合、厳しい転職活動になることが予想されます。
ただし、業務での経験は不十分だが、「クラウド環境の勉強を独学で進めている」「資格取得を目指している」という方はアピールできる材料をお持ちです。積極的に新しいスキルを習得していこうという姿勢は、企業にとって好印象につながります。
これは、AIについてもいえることです。情シス担当者も、業務に積極的にAIを活用し、効率化することが求められるようになりつつあります。一方、自分の手を動かしてシステムを構築してきた方や、業務一筋、いくらでも残業するという考えで業務を進めてきた方は、評価されにくい時代になりつつあります。
AIによって業務そのものの価値が変わりつつある中、「何をどのように自動化すべきか」を判断できる人材となることが、評価される人材となります。
業務や業績を転職市場向けに翻訳するには
書類上のアピールとしては、大きく2つあると考えます。
携わってきた具体的なサービス名を盛り込む
まずは、携わってきた具体的なサービス名(OSやSaaSなど)を盛り込むことが重要になります。自社の機密情報に関わる場合は全てをオープンにできない場合もありますが、どのような技術環境で腕を磨いてきたのかは、十分アピールする必要があります。
ここで重要なのは、単に情報量を増やすことではなく、「再現性」を伝えることです。採用する側は、「この人は入社後に同じ成果を再現できるか」を見ています。その根拠となる技術環境や定量的な成果が明確であるほど、高い年収でも採用の意思決定がしやすくなります。逆に言えば、再現性が見えない場合は採用するリスクが高まるため、年収を抑えたオファーになりやすいという構造があります。
全く同じIT環境や情シス部門の業務内容が複数あるケースはまれです。採用する側もその点は理解しています。しかし、「応用力があり、環境への適応も早いのではないか」という仮説を持ってもらいやすくなります。その結果、選考が前向きに進みやすくなり、面談や面接の中でも具体的な議論を進めやすくなります。
一方、記載している技術環境の情報が曖昧である、具体的な製品やサービス名がほとんど書かれていないといった場合、採用する側の企業との親和性を測りにくいだけでなく、選考の中でも一つ一つ確認をしないといけなくなります。その工数を考慮すると、積極的に会ってみようという判断につながりにくいといったことにもなりかねません。
数字を入れる
さらに、アピールする内容に数字を盛り込むことも重要です。
- ユーザー数や機器の台数など、どの程度の規模の中で業務を遂行してきたのか
- 金額や時間、難しい場合は割合でも構いませんので、どの程度の業務効率化を成し遂げたのか
といった点を、情シスの業務未経験の方でも理解できるかどうかという観点で経歴書に書くことが大切です。数字を組み込むことで、どの程度の課題解決力を持っているかを事前に理解してもらうことが可能です。
人としての魅力を伝えることも大切
選考では過去の実績を深掘りする質問が投げ掛けられます。その際に、特に大変だった場面でどのように乗り越えたのか、エピソード仕立てで話せることも重要です(情シス担当者の方は、このようなテーマに事欠かないと思います)。
「具体的にどのようなことが大変だったのか、それをどのように乗り越えたのかを感情を込めて伝えられるか」は、業務に対する熱量をうかがう機会にもなります。ぜひ意識されるとよいと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.