「クラウド一択」はあり得ない 企業の命運を分けるバックアップ方法の選び方:オンプレミスか、クラウドか
クラウドバックアップへの安易な移行は、思いがけない高額請求を招く恐れがある。事業存続を脅かすデータ消失を防ぐため、企業が今見直すべき「クラウドバックアップ」「ローカルバックアップ」の選択基準とは。
クラウドバックアップか、ローカルバックアップかという選択は、いまや企業の命運を分ける決断だ。クラウドサービスの台頭によってデータ保護の主戦場はクラウドへ移ったかのように見える。しかし、現実はそれほど単純ではない。
急成長するクラウドバックアップ市場の裏側で、従来型のローカルバックアップが再評価されている。その理由は、クラウドサービス特有の「データ取り出し(エグレス)料金」や、大規模復旧時の「通信遅延」という見えないわなにある。一方で、磁気テープの新規格が登場するなど、物理ストレージも進化を遂げている。
どちらの選択肢にも一長一短があり、最終的にどちらを採用すべきか、あるいは両方を組み合わせるべきかは、企業ごとの要件によって決まる。以下ではクラウドバックアップとローカルバックアップそれぞれの特性、長所と短所を紹介する。これらの情報を参考にして、各手法が自社のIT設備や運用体制にどう適合するかを評価してほしい。
クラウドバックアップとは何かをおさらい
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どのバックアップ戦略を選ぶか
クラウドバックアップは、ネットワークを通じて遠隔地のストレージサーバにデータを複製する手法を指す。通常はサービスベンダーがサーバを運営し、ユーザー企業は保存容量、通信帯域、エンドユーザー数、データの取り出し(エグレス)にかかる転送量などに応じて料金を支払う。
具体的な方法としては、「Amazon Web Services」(AWS)や「Google Cloud」「Microsoft Azure」などのパブリッククラウドを利用する形態や、特定のベンダーが提供するバックアップ専用のクラウドサービスを利用する形態がある。「Salesforce」「Microsoft 365」などのSaaS(Software as a Service)のデータを別のクラウドサービスに保存する「クラウド間バックアップ」も普及し始めている。
ローカルバックアップとは
ローカルバックアップは、企業の主要拠点にあるデータを保存する伝統的な手法だ。一般的には専用のHDDを用い、バックアップ用ソフトウェアで複製作業を制御する。ソフトウェアが装置に内蔵されている製品もあれば、別途用意する必要がある製品もある。重複排除技術で同じデータの重なりを取り除き、保存容量を節約する工夫も一般的だ。
HDDが主流になる前は、磁気テープがバックアップメディアとして広く利用されていた。今日でも、ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃などのサイバー攻撃対策として重宝されている。これはテープが一度書き込むと変更できない「不変性」(イミュータビリティ)を持ち、ネットワークから切り離して保管できるためだ。テープ規格「Linear Tape-Open」(LTO)の「LTO-10」は、カートリッジ1個当たり75TB(圧縮時)、新素材を用いた大容量モデルでは最大100TB(圧縮時)のデータを保存できる。
最近は、Microsoft 365のメールサービスなど、クラウドサービスで作成したデータを、クラウドサービスではなく社内のローカルストレージに保存する手法も登場した。これはクラウドサービスの障害に備え、手元にデータを保持したいというニーズに応えるものだ。
クラウドバックアップの長所と短所
クラウドバックアップは、IT担当者の手間を抑えつつ保護レベルを高められる点が魅力だ。しかし、状況によっては長所が短所に転じることもあるため、特性を正しく把握しなければならない。
クラウドバックアップの長所
- 初期費用の抑制
- 専用装置の購入には費用がかかるが、クラウドサービスなら最小限の初期投資で利用を開始できる。独自の災害復旧(DR)サイトを構築する予算や人材が限られている企業には、特に有効だ。
- 場所を選ばないアクセス
- インターネットに接続されたデバイスであれば、どこからでもバックアップデータを参照できる。プライマリーサイトが機能停止しても、少量のデータなら即座に復旧可能だ。
- 高度なセキュリティ機能
- 自社で一から構築するには多大な費用と専門知識が必要な暗号化や24時間体制の監視体制などを、サービスの一部として手軽に享受できる。
- 拡張のしやすさ
- 保存容量に実質的な制限がなく、数回の操作で即座に容量を増やせる。物理的な装置を追加で購入、設置する手間がかからない。
- 管理の簡略化
- 装置の保守管理はベンダーが実施するため、運用の手間が軽減される。
- シンプルなDR
- 障害発生時にクラウドサービス内の予備システムへ切り替えるDRaaS(Disaster Recovery as a Service)を利用すれば、多額の投資なしで事業継続体制を整えられる。
クラウドバックアップの短所
- 費用の累積
- 保存期間が長くなり、データ量が増えるほど月額費用は膨らむ。長期的な支出を継続的に監視する必要がある。
- レイテンシ(遅延)
- 大量のデータを取り出す際や、多くのエンドユーザーが同時にアクセスする場合、通信速度の低下が業務を妨げる恐れがある。
- 設定ミスへの懸念
- クラウドストレージ自体は堅牢(けんろう)だが、ユーザー企業の設定不備や認証情報の管理不足によって、情報漏えいやサイバー攻撃を招くリスクが生まれる。
- 復旧時の時間と費用
- 大量のデータをクラウドから戻す作業には、多大な時間と高額なデータ転送手数料が発生する場合がある。
ローカルバックアップの長所と短所
企業によっては、クラウドバックアップよりも手元の装置で管理する方が合理的なケースがある。
ローカルバックアップの長所
- 拠点内でのアクセス性
- 社内ネットワークで完結するため、常に最新の状態を維持しやすい。特定の時点の状態に素早くさかのぼることも容易だ。
- 処理速度
- インターネット回線の混雑に左右されず、社内LANをフルに活用できる。特に大容量データの復旧作業において、クラウドバックアップと比較して業務再開までの時間を大幅に短縮できる。
- 運用の制御
- データの所在や管理方法を自社で完全に制御できる安心感がある。
ローカルバックアップの短所
- 初期費用の高さ
- ハードウェアの購入にはまとまった予算が必要だ。ストレージ装置は総じて高価であり、定期的な部品交換やメンテナンスといった維持管理の手間も避けられない。
- 拡張の難しさ
- 容量が足りなくなれば、新しい装置を調達して物理的に設置しなければならない。これには相応の人手と時間が必要になる。
- 保守の負担
- システムの維持管理に専任の担当者を割く必要がある。クラウドバックアップに移行すれば、こうした人材をより生産的な業務に振り向けることができる。
- 災害、サイバー攻撃時のリスク
- 主要拠点が火災や地震に見舞われた場合、建物内のバックアップも同時に失われる。
- インターネットにつながったままの装置は、サイバー攻撃の被害を受ける危険がある。ただし、バックアップを物理的に遠隔地に搬送していれば、これらのリスクを軽減できる。
結論:どちらを選ぶべきか
クラウドバックアップとローカルバックアップのどちらを選ぶべきかは、事業上の具体的なニーズを精査した上で判断すべきだ。
市場としてはクラウドバックアップに移行する流れがあり、旧来のバックアップシステムを廃止する企業もある。一方で、費用の予測しにくさやデータ管理の観点から、あえてクラウドサービスからオンプレミスシステムに戻す「オンプレミス回帰」を選択する動きも一部で見られる。
ローカルバックアップも進化を続けており、用途に応じた多様な装置を選択できる。予算と人的なリソースが許すのであれば、クラウドバックアップとローカルバックアップの強みを組み合わせた「ハイブリッドバックアップ」で堅牢なデータ保護を実現するのが望ましい。
自社に求められる復旧速度やデータの保持期間を慎重に評価し、最適なシステムを選択しよう。適切なバックアップ体制を築けるかどうかが、不測の事態における事業存続の分かれ目になる。
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