「コード行数」はもはや指標にならない
AIで生産性向上は“幻想”? 開発者を疲弊させる「見えない作業」の正体
AIツールによる自動コーディングは、開発速度を飛躍的に高めている一方で、技術的負債や疲労の蓄積という新たな課題も生んでいる。企業が陥りやすいAIツールの評価の落とし穴とは。
AIツールを用いたコード自動生成は、魔法のような効率化をもたらすともてはやされている。しかし現場の実態は、「必ずしも生産性の向上にはつながっていない」という皮肉なものだ。むしろ開発者たちは今、AIツールが生成したコードの確認作業に、かつてないほどの時間を奪われているという。
コーディングにAIツールを取り入れる動きは、ソフトウェア開発における役割を根底から変えつつある。従来のように「コードを何行書いたか」という単純な量で開発者の業績を測る手法は、もはや実態に即していない。
ソフトウェア開発ツールベンダーHarnessは2026年4月に米国、英国、インド、フランス、ドイツの開発者およびマネジャー700人を対象として調査を実施した。その結果によると、マネジャーの89%が「評価指標が向上した」と捉えている。一方で、調査対象者全体の81%が「AIツールが生成したコードの確認作業によって多大な時間を奪われている」と回答した。
AIツールの導入によって、気付かないうちに蓄積する“見えない負荷”とは何か。これからの時代、IT部門のマネジャーは開発者の業績をどう評価し、どこに投資すべきなのか。
コード量産がかえって負担に?
AIツールがコードを自動生成すれば、成果を測る評価指標は高まり、開発に要する期間も短縮される。調査に参加した開発者からは、「コードを量産できるようになり、より複雑な課題への挑戦や、定型業務の迅速な処理が可能になったことで、生産性の高まりを実感している」という声が上がった。しかし、この仕組みには大きな弊害もある。開発者がコードの確認作業に費やす時間が、劇的に増加している実態も浮き彫りになった。
2026年現在のAIツールは、深刻な不具合を防ぐために人間が常時監視を続けなければならない。こうした人間による介在や監視の必要性は、実際のソフトウェア開発の現場でも現実のものとなっている。
調査では、開発者が費やす1日の時間のうち31%が、評価指標では測定されないAI関連の隠れた作業負担に消えていた。AI技術が業務の進行を妨げる最大の要因になっている場面を尋ねると、53%が「AI生成コードの確認」を挙げた。過半数となる52%は「一見しただけでは気付きにくい微細で厄介な欠陥の修正」に最もストレスを感じており、48%は「コードの内容をチームのメンバーに説明する手間」を最大の負担として捉えている。
それにもかかわらず、企業は生成されたコードの量だけで全体の成果を評価しがちだ。Harnessは、企業の経営層は「AIツールによって短縮できたはずの時間」が、最終的にどの作業に奪われているかという実態を把握できていないと指摘する。
自身の業績評価にAIツールが導入されることへの懸念を尋ねたところ、回答した開発者の96%が「不安を感じる」と述べた。94%は、後々の保守に余分な手間がかかる「技術的負債」の蓄積やコードの検証にかかる時間、心身のエネルギーを失う「燃え尽き症候群」のリスクが現状の評価指標から抜け落ちていると指摘する。過半数の54%が、AIツールの生産性データに基づく個人の厳格な業績評価に疑問を呈している。
HarnessはIT部門のマネジャーに対し、AIコードの確認時間、バグを修正するデバッグ作業によるオーバーヘッド(余分な処理による負荷)、開発者が異なるツールや画面を切り替えることで生じる生産性低下の度合いを追跡するよう求めている。具体的には、次の投資計画を立てる前に、表面化している20%の利益だけではなく、測定から漏れている31%のオーバーヘッドについても調査すべきだと助言する。
企業内の開発チームが、完成し、集約され、実際のシステムへ展開されたコードの量を完全に把握することを推奨している。Harnessが指摘するように、AI技術はコードの量を増やすものの、それが自動的にソフトウェアの確実な提供につながるわけではない。
「AIツールによるコーディングは、開発者が作るものだけではなく、日々の時間の使い方も一変させた」と、Harnessでプロダクト担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるトレバー・スチュアート氏は語る。「これは現代のソフトウェアにおける初めての技術的変化だ。業界が頼ってきた評価指標は、AIツール前提の全く新しい業務プロセスを測定するようには作られていない」(同氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社マクニカ] アイカ工業に学ぶ脆弱性対策 情シスが把握できずにいたアセットも正確に把握 -
製品資料
[株式会社マクニカ] 「脆弱性総まとめ」解説 被害事例から考える必須の対策ポイント -
製品資料
[Splunk Services Japan合同会社] サイバー脅威「トップ50」完全解説ガイド、新たな攻撃手法に対抗するには -
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」完全ガイドブック:メリットから資格取得のポイントまで -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] はじめての「自治体/官公庁入札」 必要な知識がすぐに学べる入門ガイド
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
2
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
3
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
4
「Linuxサーバの長期運用とRed Hat Enterprise Linux」に関するアンケート
-
5
「世界一給与にハングリー」な日本のエンジニアが“雇用の安定”を求める理由
-
6
「技術屋」で終わらないために 情シスが今取るべき認定資格5選
-
7
「攻撃側にナイフ、防御側にパン」 OpenAIの10億ドル支援に潜む危うさ
-
8
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
9
AI基盤は本当に「オンプレ回帰」する? Broadcomの言い分と企業の本音
-
10
「HDD終了」は本当か 巨大クラウド2社が下した大容量フラッシュへの決断
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
4
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
8
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
9
Macの安全神話は崩壊? 最新の脅威動向から見えた攻撃のトレンドと有効な対策
-
10
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー