“全てAI任せ”はやっぱり失敗する――オンライン決済「Stripe」の審査削減から学ぶ:「Amazon Bedrock」活用の最適解
金融コンプライアンスの審査は複雑化し、情報収集に膨大な時間を奪われる死活問題だ。決済大手のStripeは「Amazon Bedrock」を導入し、“全てをAIに任せる”というわなをどう回避したのか。
金融サービスをはじめとする規制産業において、法規制を満たすコンプライアンス業務の処理は複雑化し、ますます多くの人員と手間が必要になっている。
決済インフラを提供するStripeも、管轄区域ごとに異なるルールを適用する負荷や情報収集の煩雑さに直面していた。そこで同社は、Amazon Web Services(AWS)が提供する生成AI活用サービス「Amazon Bedrock」を導入し、自律的にタスクを実行するAIエージェントシステムを構築した。
Stripeは、人間が最終判断を下すワークフローを維持しながら、審査担当者の平均処理時間を26%削減することに成功している。審査担当者から「96%役立つ」と評価されるシステムの裏側に迫る。
完全自動化のわなを回避する「DAG」アプローチ
本稿は、AWSが開催した年次カンファレンス「AWS re:Invent 2025」のセッション「Stripe: Revolutionizing compliance workflows w/ agentic infrastructure」の内容を基に、Stripeがどのようにコンプライアンス業務を改革したのかを解説する。
複雑な手作業によるレビュープロセスを前にしたとき、AIエージェントに全てを任せて完全自動化しようとするのは自然な発想だ。しかしStripeのデータサイエンティストであるクリストファー・フィリッピ氏は、それではうまくいかないと指摘する。AIエージェントに自由を与え過ぎると、重要ではない情報の精査に時間を費やす「泥沼状態」に陥り、規制上必ず確認すべき事項を見落とす危険性があるからだ。
そこでStripeは、複雑な業務プロセスを有向非巡回グラフ(DAG:分岐のない一方向の流れを持つデータ構造)に分解し、AIエージェントのためのレールを敷くアプローチを採用した。タスクを細かく分割することで、限られたメモリ内で確実な処理を可能にしたのだ。
同時に、最終的な意思決定の権限は常に人間のアナリストに残した。AIエージェントの役割は、審査担当者が最善の決定を下すための情報収集と洞察の要約であり、決定とその根拠は全て記録して監査証跡として残る仕組みになっている。
費用の課題を解決するプロンプトキャッシュ
AIエージェントが調査を深掘りしていく過程では、ReAct(Reasoning and Acting)という手法に基づく「思考、行動、観察」のループを繰り返す。そのため、入力するプロンプトのコンテキストが長大化していく。プロンプトが長くなるにつれて、大規模言語モデル(LLM)の処理にかかる費用が爆発的に増加するという問題が浮上した。
この費用問題に対する解決策が、Amazon Bedrockが提供するプロンプトキャッシュ機能の活用だ。これは以前のプロンプトをキャッシュして再利用することで、入力トークンの費用を抑えつつ、エージェントによる深い分析を実行可能にする機能だ。単一のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)で複数のモデルにアクセスできる点や、セキュリティとプライバシーの基準が統一されている点も、AWSのサービスを選択した重要な理由だった。
従来の機械学習システムとは異なる専用サービスの新設
Stripeは当初、社内に存在する既存の機械学習(ML)推論システムにワークフローを組み込もうとしたが、これはすぐに却下されたという。
従来のML推論は、GPUやメモリなどのコンピューティングリソースを集中的に消費する処理(コンピューティングバウンド)であり、短いタイムアウト時間と決定論的な制御フローを持つ。一方、AIエージェントはモデルからの応答や外部ツールの呼び出し結果を待つネットワーク待ち時間が主体となる。データベースへの問い合わせを含むツール呼び出しには数分単位の長いタイムアウトが必要であり、処理にかかる時間がその都度変動する。
既存システムとAIエージェントでは全く異なるインフラ要件が求められるため、Stripeは既存システムへの相乗りを諦め、AIエージェント専用のサービスを約1カ月という短期間で新設した。最初はシンプルなモノリス(単一の統合されたシステム構成)として立ち上げ、利用の拡大に伴って独自のサービスを用意できるようにアーキテクチャを拡張していった。
フィリッピ氏は、「新しいインフラを構築することを恐れてはいけない」と強調する。タスクを小さく分割し、最終的な意思決定は人間に委ねつつ、ツール呼び出しの力を借りて段階的に効率化を進めることが、AIエージェントを業務に定着させる鍵だ。
Stripeは今後、複数のプロセスを集約・制御するオーケストレーションの範囲を広げ、より複雑なレビュー業務にもエージェントの適用を拡大する計画だ。
本稿は、AWSが2025年12月13日に公開した動画「AWS re:Invent 2025 -Stripe: Revolutionizing compliance workflows w/ agentic infrastructure (IND3300)」を基に作成しました。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。