Case Study
米投資信託大手フィデリティにみるオープンソース採用プロセス
「購買決定に際しては、オープンソース製品とプロプライエタリ製品の両方を平等に検討する」というポリシーおよびガバナンス構造を確立しているオープンソース活用の先駆企業、フィデリティの採用プロセスを紹介する。
米投資信託大手のフィデリティは、1995年にはオープンソースツールのtclスクリプティング言語を導入しており、同社のサイトはApacheを使って運営されている。さらに同社は先ごろ、「購買決定に際しては、オープンソース製品とプロプライエタリ製品の両方を平等に検討する」というポリシーおよびガバナンス構造を確立し、企業によるオープンソースソフトウェアの採用に弾みをつけた。
フィデリティだけではない。ガートナーは、フォーブス誌の「Global 2000」に名を連ねるIT企業は、2010年までにインフラ向けのソフトウェア投資の80%、そして事業向けのソフトウェア投資の25%にオープンソース製品を採用することになると予測している。
ここでは、フィデリティがオープンソースを導入する際の評価プロセスを紹介する。
フィデリティ・インベストメンツは先ごろ、「購買決定に際しては、オープンソース製品とプロプライエタリ製品の両方を平等に検討する」というポリシーおよびガバナンス構造を確立し、企業によるオープンソースソフトウェアの採用に弾みをつけた。
フィデリティの応用技術センター副社長チャールズ・ピッケルハウプト氏によれば、同社は現在、十数種類以上のオープンソースパッケージを有しており、ほぼすべてのアプリケーションでオープンソースの選択肢を積極的に検討している。また同社は、ライセンス方針の選択肢を検討するための新たな審査委員会も設置している。ライセンスをめぐる問題は、同社にとってオープンソースに関する最大の懸念の1つだ。
オープンソースの最も魅力的な特徴はスピードだ、とフィデリティの幹部らは最近のプレゼンテーションで語っている。オープンソースはいまや、「構築するか購入するか」というおなじみの判断に3つ目の選択肢をもたらしたという。再利用可能なソフトウェアは、フィデリティの開発戦略において「錨(いかり)」の役割を果たしているのだ。
「きっかけはMozilla Firefoxブラウザだった」と同技術センターに勤務するマイク・アスキュー氏は語っている。同氏によると、FirefoxとInternet Explorer(IE)を綿密に比較してみたところ、セキュリティの脆弱性はどちらも同じ程度であることが分かったが、「脆弱性の修正にかかった時間はFirefoxの方がはるかに短かった」という。この経験を境に、フィデリティはオープンソースをより熱心に検討するようになった。
フィデリティだけではない。ガートナーのオープンソースアナリスト、ニック・ゴール氏は、フォーブス誌の「Global 2000」に名を連ねるIT企業は、2010年までにインフラ向けのソフトウェア投資の80%、そして事業向けのソフトウェア投資の25%にオープンソース製品を採用することになると予測している。同氏によれば、こうした導入の大半はレガシーシステムのリプレースよりも、新規プロジェクトにおいて行われることになる見通しという。
今のところは、フィデリティがこうした動きの先頭を切っていると言えるかもしれない。投資信託大手の同社はまず1995年に、オープンソースツールのtclスクリプティング言語を導入した。同社は現在、Apacheのほか、Apache関連の多数のツールを使って自社のWebサイトFidelity.comを運営し、1日当たり約3000万件ものページビューを集めている。
新たにオープンソースを導入する際の評価プロセスは、次のように進められる。オープンソースの選択肢を見つけたユーザーは、それをオープンソースの審査委員会に提示しなければならない。ピッケルハウプト氏によれば、この審査委員会の主要な役割は、ライセンスの問題に関する判断を下すことだという。「訴訟では、一番大金を持っている人が狙われるものだ。フィデリティは格好のターゲットになる可能性がある」と同氏。審査委員会は、法的な問題に関して賛成か否かの判断を下す。その後、そのオープンソースを採用するかどうかは企業内ユーザーの選択に委ねられる。
ライセンスの問題は大きい。現在ほとんどのオープンソースソフトウェアをカバーしているのはGeneral Public License(GPL)というライセンスだが、このライセンスには、コミュニティーへの還元義務に関する厳しい制限があるため、フィデリティは公開を制限したいと考えている。審査委員会はライセンスを評価するだけでなく、フィデリティがソフトウェアに加える改良点を配布する際にコミュニティーとどのように協力関係を築くべきかに関するポリシーも定めている。
フィデリティの幹部によると、コミュニティーとの関係は重要だ。フィデリティのインフラのコア要素となりそうなソフトウェアが見つかった場合、同社の開発者は改良点を配布し、そのプログラムの重要性を維持すべく、率先してオープンソースコミュニティーと協力することになる。「その製品が確実にサポートベースを維持し、長持ちするようにしたい」とピッケルハウプト氏は語っている。
オープンソース開発の一部の側面に関しては、依然として課題の多い状態が続いている。なかには1日に1度といった高頻度でアップデートされるプログラムもあるため、最新の状態を保つためにフィデリティも社内のリリーススケジュールを適応させなければならなくなっている。同社は承認済みソースコードのリポジトリを独自に保守し、自社のバージョンを一般に出回っているバージョンとの間で定期的に同期化している。
フィデリティの幹部らは、企業に好都合なソフトウェアリリース方法を採用しているとして、Eclipseツールのフレームワークを監督しているグループのやり方を高く評価している。企業というものは予測可能な改良スケジュールに従って物事に取り組むことを好むものだ、と同社の幹部らは語っている。
既にオープンソースはフィデリティのサーバインフラにおけるコアコンポーネントとなっているが、OpenOffice.orgなどのデスクトップパッケージの採用については、同社はそこまで積極的ではない。アスキュー氏によれば、同氏は以前、マイクロソフトがOfficeのファイルフォーマットに改訂を加えた際、その対応に苦労した経験があり、そうした移行作業を再び行うことを正当化するほど十分な魅力はまだOpenOffice.orgにはないという。
だが、オープンソースコミュニティーとの共同作業は概して、商用デベロッパーとの共同作業よりも、より良い経験となっているようだ。「プロジェクトに従事し、そのプロジェクトに直接の影響力を持つ人と仕事を進められる。大手ソフトウェア企業よりも、そうした人たちとの方が、はるかに緊密な関係を築ける」とアスキュー氏は語っている。
ガートナーのゴール氏はフィデリティのこうした動きを、企業向けソフトウェア分野における象徴的な傾向ととらえている。同氏は、オープンソースがソフトウェア市場で占める割合は現在の3%から、2010年には11%に増加すると予測している。引き続き市場全体の成長も見込めるため、そうなれば、この間のオープンソースの売上高は700%増加することになる。
本稿筆者のポール・ギリン氏は技術ライター兼コンサルタントで、TechTargetの元編集人。同氏のWebサイトは、www.gillin.com。
(この記事は2006年1月3日に掲載されたものを翻訳しました。)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー