ERP導入事例:SuperStream
製品選定に6カ月をかけ、自社のニーズにマッチするERPを徹底研究
ERPは投資額や人的リソースへの負荷が大きいことから、導入プロジェクトは正しく慎重に進める必要がある。ここでは、既に成功を収めている企業担当者に、ERPの導入を成功へ導くための秘訣を聞いた。
企業がERPのアプリケーションパッケージを導入するきっかけは、さまざまである。「コンプライアンス対応に備えたい」「メインフレームのリプレース時期を迎えた」「ビジネスが成長して旧システムでは対応しきれなくなった」。あるいは最近なら、企業統合を機にシステムの一新を行うことも考えられるだろう。
アプリケーションパッケージの新規導入は投資額が大きく、場合によってはビジネスプロセスに変更が生じるなど、企業は大きな負担と変化を強いられることがある。そのため、導入プロジェクトを任された担当者は成功させるために多大な苦労をするはめになる。プロジェクトを成功に導くヒントは、一体どこにあるのだろうか。常に頼りになるのは先人の知恵だ。そこで今回は、既にパッケージ製品を導入し成功を収めている企業担当者に導入プロジェクト成功のための秘訣を聞いた。
人海戦術による過酷な業務環境を新システムで改善
東洋鋼鈑は、1934年に日本では民営企業初となるぶりきメーカーとして発足して以来、缶用材料のリーディングカンパニーとして活動を続けている。昨今は従来製品市場の成長鈍化もあって機能材料ビジネスにも注力しており、新たに化成品事業を立ち上げた。
新分野への進出に迅速に対応するためには、ITを活用したさらなる効率化が求められていた。しかし当時の東洋鋼鈑には、複数の関連会社が複数の工場を稼働させる企業ならではの苦労が立ちはだかっていた。
「本社人事に異動になった際、毎月21日は何が何でも出社してくるよう先輩社員にきつく言われました。21日は、徹夜してでも給与計算をやり遂げるのが当たり前という日だったのです」。そう語ってくれたのは、東洋鋼鈑の鈴木 誠氏だ。
同氏は、今から5年ほど前に旧システムで行われていた給与計算業務での苦労を次のように語る。「当時の勤怠管理は紙ベースで行われ、人事部門は給与計算日に各職場から管理表を集めて内容を確認するのですが、報告書の束が厚さ10センチほどありました。それを専任のキーパンチャーが一気に入力して人海戦術で読み上げチェックを行い、逐一確認するという流れです。当時の工場は勤怠管理項目数が非常に多かった上、さまざまな特殊手当も存在するなど作業は非常に困難なものでした」
給与システムはあっても、人事情報管理機能まで備えていなかったのも作業負荷を増した。異動があるたびに紙の名簿を修正し、新たな情報を給与システムに入れ直す必要があったのだ。そのため、「全社規模で部門ごとの人件費を把握したいという要望があっても、すぐには対応できませんでした」と鈴木氏は当時を振り返る。
個人に依存した状況から脱皮するためにパッケージ製品を選択
この状況を改善すべく、鈴木氏は自らシステムの構築に乗り出したという。それまで開発経験はなかったことから、独学でMicrosoft AccessやMicrosoft Visual Basicを学び開発を進めた。試行錯誤の末、幾つもの便利なツールが生まれ、やがては本格的なリレーショナルデータベースであるMicrosoft SQL Serverを用いたシステムへと拡大していく。
「実務を十分に知った人間が構築しているので、現場に合わせた使い勝手を実現でき、結果的には評判のいいものに成長しました」(鈴木氏)
とはいえ、この仕組みにもやがて限界がくる。連結会計の導入で東洋鋼鈑本体だけでなく関連会社のシステム統合が必要になったこと、鈴木氏が管理職となり、いつまでも現場のシステム構築に多くの時間を割くわけにはいかなくなったからだ。このときから、自らの負担を軽減するためにもパッケージ製品の導入を検討し始めたという。
最初に着手したのは勤怠管理システムで、そこで採用されたのはアマノの「TimePro-Get 就業」だ。導入を決める際には3製品で比較検討を行った。不採用となった製品もある程度定型化されていたり、小規模であれば利用に耐え得るものだった。しかし、東洋鋼鈑のように本社以外にも複数の工場があり、その独自で複雑な勤務体系を実現するには向いていなかったという。これに対しアマノのTimePro-Get 就業は、さまざまな利用形態において実績が豊富だったのが決め手になったという。
「交代勤務やさまざまな特殊手当など、工場の勤怠管理はかなり難しいものです。われわれが導入する際も、アマノさんのSEの方々がかなり詳細に工場でヒアリングを実施し、その結果複雑な勤怠管理の仕組みがパッケージ製品でも実現できました」(鈴木氏)
100点満点のパッケージ製品は存在しない
鈴木氏が独自に人事システムの開発を始めた1999年ごろ、実はパッケージ製品の導入も一度は検討したという。しかしながら、当時はパッケージ製品の導入に社内から疑問の声が上がっていた。その理由の1つは、当時検討されていたSAP/R3の数億円規模にも上るライセンス料および開発導入コストの問題だ。人事業務を行っている社員数は本社と工場を合わせても20人程度しかいない。その状況下で数億円ものパッケージ製品を導入しても人件費削減効果は期待できず、コスト回収には長い年月が必要とされた。だとすれば、システムにお金を掛けるよりも、むしろ人海戦術で対処した方がROIの面で優れているという判断に至ったのだ。
さらに理解を得られなかった理由がもう1つあった。当時のパッケージ製品には柔軟性がなく、業務をパッケージに合わせて変更する必要があったことだ。経営者層からは、「業務をパッケージ製品に合わせろとは何事だ」という厳しい声も上がったという。
とはいえ時がたち、2004年の秋にはこの考えにも変化が生じた。鈴木氏は、アマノの勤怠管理パッケージを導入した過程で、ほかにも幾つかのパッケージ製品に触れていた。それらを検証するうちに、パッケージ製品の進化に気が付いたのだ。
「パッケージ製品も進化していることが分かったので、これらでわれわれの業務をシステム化できそうだと感じました。しかし一方で、複雑でばらばらな関連会社の仕組みを考えると、オープン系システムで安定した運用ができるのかといった不安があったのも事実です」(鈴木氏)
鈴木氏は、この不安を解消するために徹底的にパッケージ製品を調査することにした。7社から6つの製品の提案(2社は同じ製品を提案)を受け、評価、検証を行い細かく比較を行ったのだ。それまで鈴木氏にはERPパッケージの導入経験はなかったため、あえてじっくりとこの過程に時間をかけ、製品選定にはおよそ6カ月を費やしたという。
以下は、“2004年時点”での検証結果だと前置きした上で、鈴木氏は各製品に対するコメントをくれた。鈴木氏が製品選択の際、どのような点をチェックし評価していたのかを知る上での手掛かりとなるだろう。
・アドオン開発を抑えられるか
ブレイニーワークス「STAFFBRAIN」――人事業務という面からは操作性がよく使いやすい点は高い評価だった。しかし汎用性が乏しく、自社要求を満たすとなるとアドオン開発が増え、その分コストが掛ることが予想された。
・複雑な人事制度に対応できるか
NEC「EXPLANNER」――500~600人規模の会社が単独で利用するにはいいものだと思った。しかしながら、工場などで複雑な人事制度を有する自社には力不足に感じた。
・データベースは公開されているか
オービック「OBIC7」――セキュリティ面での評価が高く、ログがきちんと残る点が魅力的だった。とはいえ、データベースが非公開ということで採用には至らず。
・人事以外にも業務範囲を拡張できるか
カシオ計算機「ADPS人事統合システム」――人事の細かい部分や帳票関連など、かゆいところに手が届く印象で好評価だった。人事担当者としては強く引かれるものがあった。しかし、人事のみの対応がマイナス評価となった。
・連結会計に対応しているか
富士通「GLOVIA」――親会社からまとめて子会社を検索・分析対象とするような連結会計への対応が遅れていた。
・汎用性は高いか
エス・エス・ジェイ「SuperStream」――帳票出力、操作性には弱みがあった。しかし、人事以外の領域へ将来的に拡充できた。データベースが公開されていた。連結会社に対応していた。項目数に制限が少なく汎用性が高い点で評価が高かった。
個々の製品の評価以外にも、提案時のベンダーの姿勢について鈴木氏は次のように感じたという。「ベンダーが製品を直接売り込んでくる場合、自社製品がとにかく一番だと言って提案してくることがあります。そうくるとこちらとしては、むしろあらを探したくもなりますよね。一方ある企業は、『御社にとって100点満点のパッケージ製品はありません』とはっきり言ってくれました。これはむしろ信用できると感じましたね」
汎用性の高さが選択の決め手
結果的に東洋鋼鈑は、エス・エス・ジェイのSuperStreamを採用した。採用のポイントは、汎用性の高さが第一に挙げられた。自社のニーズに100%合致するパッケージ製品はないのだから、ある程度は自社に合わせたアドオン開発が必要になる。その際、パッケージ製品の標準機能でどこまで開発ができるのか、製品の中核に影響を与えるような開発はどの程度必要なのかを見極める必要があった。SuperStreamの場合は、多くの要求を標準機能のカスタマイズでアドオン開発可能な点がコスト的に有利だったという。さらに、標準機能の上でのアドオンであれば、将来的なバージョンアップ時も苦労は少ないと判断された。
「現状、SuperStreamではグループ企業8社の管理を行っています。関連会社への出向者がいる場合、出向者の給与、賞与の一定割合を出向先会社へ請求する処理が必要なのですが、これをSuperStreamではアドオン開発することなく標準機能のカスタマイズで組めたのです」(鈴木氏)
もう1つの評価ポイントは、データベースが公開されている点だ。東洋鋼鈑の場合、既に自社開発の経験があり、ある程度のことは自分たちで対応できると分かっていた。そのため、データベースが公開されていれば、SuperStreamの帳票機能が多少弱くても解決できるとの判断があったのだ。現在は、ウイングアーク テクノロジーズのBIツールである「Dr.Sum」を導入し、帳票出力そのものを減らして対応しているという。このような他パッケージ製品や外部システムとの連動性も製品選択の際の重要なポイントだ。
もう1つの選定ポイントが、将来的な拡張性だ。この時点で欲しかったのは人事管理のパッケージ製品だったが、将来的には会計分野にもパッケージ製品を導入する計画を持っていた。その際にばらばらなパッケージ製品を導入してしまうと、データ統合や連携に手間が掛かることになる。そのため、統合的なERPパッケージ製品の選択が望まれていたのだ。
ERPパッケージ導入がゴールではない
東洋鋼鈑では、結果的にグループ会社のシステムを廃し、関連会社の人事管理をSuperStreamを用いてシェアードセンター化することに成功している。これにより、各社に配置していた汎用機のメンテナンス要員や各社で必要だったハードやソフトウェアのライセンス費用は削減されている。さらに、グループ全体の人件費情報を把握するといった、経営の意志決定に直結する情報の提供も瞬時に行えるようになった。
また、今回のSuperStream導入に際し、幾つかのビジネスプロセスの整理が行われた点も見逃せない。
「SuperStream導入のためにということではなく、これを機に無駄を減らしシンプルなプロセスになるよう業務の整理を行いました」(鈴木氏)
長い年月業務を行っていると、過去からのいきさつ上、合理的ではないプロセスが出来上がってしまうことがある。また、特に問題が発生するわけでもないので根本的にメスを入れるとはなかなかならない。パッケージ製品の導入は、そういったものの洗い出しと整理のいいきっかけとなったようだ。
鈴木氏は、ERPパッケージ製品の導入経験が少ないのであれば、複数製品を評価することは大切だという。最初は評価ポイントすら理解できていなくても、幾つもの製品に接していく過程で方向性が定まってくる。さらに複数製品の評価を経験すれば、パッケージ製品に過剰な期待をしなくなるという。昨今、ERPをすぐに導入できるというベンダーのうたい文句をよく耳にする。確かに、単に導入して動かすことはできるかもしれないが、事前にどのような製品を選択し、どういった使い方をするのかを時間をかけて検討した方が、結果的にはうまくシステムを使いこなせるようになるのだという。
また、避けては通れないアドオン開発の見極めも重要だ。作り込むアドオンの数も問題だが、そのアドオンがパッケージの中核部分に影響を与えるのか。影響を与えるものが何本あるのかを明確にすることも重要だという。パッケージ製品の根本に影響を与えるアドオンは、その開発にもコストが掛かる上、バージョンアップ時の互換性がなく将来的なコスト増にもつながる。
「ERPパッケージ製品を入れるのがゴールではありません。導入作業の負荷が高いので、ともすると導入自体がゴールのような錯覚を起こしやすいのですが、新たに導入するシステムで何を実現したいのかが重要です。システムは道具にすぎないので、これをきっかけにどのように組織変革を行っていくのかが重要です」(鈴木氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
IT製品の導入に関するアンケート「サーバ&ストレージ」編
-
9
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
10
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー