【IFRS】経営財務トレンド【8】
経理に異動したらまず読みたい 「IFRS入門の入門」
上場企業の経理部であれば今後、向き合わざるを得ないIFRSのポイントを解説。IFRSが生まれた経緯やその特徴、IFRSで変化する経理部の仕事などを分かりやすく伝える。IFRSの読み方を知っていますか?
年度の変わり目は人事異動の季節である。この3月〜4月に経理部門に異動になった(なる)方も多いことだろう。新しい環境やフィールドで戸惑いがあるかもしれないが、持てるポテンシャルを最大限出して新年度も頑張っていきましょう。まずはエールを送りたい。
閑話休題。
昨今いろいろなメディアで取り上げられている「国際財務報告基準」。「国際会計基準」とか「IFRS」などとも呼ばれている。経理になじみのない方も一度は耳にしたことがあるだろう。これにまつわる皆さまの疑問はつきないと思う。そもそもこれっていったいなんなのか? やけに小難しいみたいだし、新聞やインターネットでも騒がれているようだけど、もしかしたらとても大変なことなの? そもそも『IFRS』ってなんて読むのですか? などなど。
初めに書いておく。あなたがもし経理部門(特に上場企業の経理部門)に異動になったのであれば、今後はIFRSの動向とは無縁ではいられない。日々忙しく時間を取りづらいとは思うが、ここで少しだけ頑張ってIFRSのポイントをかいつまんで押さえておこう。そして少しでもIFRSに興味がわいたら、ちょっとだけ自分で詳しく調べてみよう。
本記事では「IFRS入門の入門」と題して、経理部門に配属されたばかりの皆さまに向けたレクチャーを試みたい。ようこそIFRSの入口へ。
そもそも会計基準ってなんなの?
まず、国際うんぬんの前に「会計基準」というものが何かを押さえておこう。
「会計基準」とは、やや堅苦しく書くと
「経済事象を会計記録に落とし込むためのルール」
のことだ。会社の活動を数字に落とし込む作業といってもよい。
会社で行われる日々の取り引き(仕入、販売、生産など)は、一定のルールの下に会計記録(つまり数字)で表現される。そして会計期間(1年ごと、または3カ月ごと)が終わるときには、それまでの記録を集計して会社の通信簿=「決算書」にまとめる。これがずっと続くわけだ。
「会計基準」は、この記録を行うためのルールのこと。ルールなので誰かれ構わず好き勝手というわけにはいかず、一定の決まりごとを守らなければならない。このときの決まりごととして、過去の慣習や法律などに基づいて定着してきたルールが採用される。ここで使われてきたルールのことを「一般的に公正妥当と認められた会計の原則」という(この言い回しは頭に入れておくと便利)。この「一般に公正妥当と認められた会計の原則」を明文化したのが「会計基準」なのである。
なぜIFRSが登場してきたの?
さて、国ごとに風土や慣習や法律が違うことから、当然「会計基準」も国ごとに違いがある。日本では1949年に策定された「企業会計原則」を中心として、長年の間会計処理のルールが整備・運用されてきた(以下、このルールのことを「日本基準」と表記する)。
会計基準も長い間使われてくれば当然内容は陳腐化してくるし、世界各国の基準との違いも出てくる。そこで日本基準は細かな改訂を重ねつつ、1999年ごろからはいわゆる「会計ビッグバン」と呼ばれる大規模な改訂を行ってきた。いまのところ、日本基準と先進国が採用している会計基準との間で、大きな違いはなくなりつつあるのが現状だ。
一方で、企業の活動は多様化し、国をまたいでグローバルに取り引きが行われるようになった。そんな状況のなか、企業の通信簿(=決算書)は依然として各国独自の会計基準に基づいて作られていたが、決算書を利用する側(主に投資家)からすれば、会社の数字が各国の違うルールで表現されていると比較のしようがない。困る。そこで、1970年代から会計基準の国際化・調和の動き=「世界統一の会計基準を作ろう」という活動が進められてきた。この過程で作られてきたのが「国際会計基準」(International Accounting Standards, IAS)である。
会計基準の国際化・調和が本格的に進んだのは21世紀に入ってからだ。前述のグローバル化による「決算書の国際比較の要請」に応える形で、EU諸国を中心に「世界統一の会計基準を作ろう」という機運は一気に進んだ。そして国際的な活動を行う企業の財務報告を規定するための統一したルールとして「国際財務報告基準」(International Financial Reporting Standards, IFRS)が策定された。IFRSは2005年からEU域内の上場企業に強制適用されることで、普及が加速していったのだ。現在のところ、100カ国以上でIFRSが採用されている。
また、現在IFRSを採用せず自国の会計基準を使っている先進国でも、IFRS適用に向けた準備が進められている。米国では早くて2015年ごろに適用開始、日本でも2015〜2016年に強制適用するかどうかを、2012年ごろに判断する見通しだ。まだ日本でも適用することが確定しているわけではないので安心してよい。
特徴をざっくりいうと?
さてこのIFRS、いままで使われてきた日本の会計基準とは大きく違う点がいくつかある。代表的な違いについて触れておこう。
原則主義:日本基準は「細則主義」と呼ばれる考え方を基本に進化してきた。これは、会計処理の方法について事細かに記述し、それに従って処理する考え方。大半の会社は会計基準に定めた処理方法に忠実に従って処理していれば問題はなかった。
一方のIFRSは「原則主義」という考え方が基本になる。決算書を作るうえでの基本的な考え方だけが提示され、個別の処理については企業側で考えて処理するが求められる。解釈が入り込む分、処理や開示の方法が複雑になることが予想される。
資産・負債アプローチ:日本基準は「まず損益(=収益−費用)が決まり、これらに属さないものが資産や負債である」という「収益・費用アプローチ」の考え方。損益計算書重視の考え方だ。
一方のIFRSは「資産と負債が決まり、それらの前期と当期との差額が損益である」という「資産・負債アプローチ」の考え方。財産の価値を重視する考え方で、日本基準とは全く異なる。この「資産・負債アプローチ」になることで、損益の考え方をより厳密に規定しなければいけなくなるのが特徴だ。
公正価値アプローチ:日本基準では取得原価、すなわち財産を手に入れたときの金額で評価するのが基本だった。従って一度金額が決まればその後変動することは基本的にない。
一方のIFRSはそれぞれの財産について、期末における「公正価値」(ここでは、ざっくりと「時価」だと考えよう)を測定し、企業の財政状態を限りなくその時の時価によって表現しようとする考え方だ。これによれば期末ごとに財産の金額が変動するので計算も煩雑になり、手間も多くかかる。
経理部門の仕事はどうなるの?
日本基準と比べて、IFRSは大小さまざまな違いがある。経理の現場からすると、仕事のやり方や考え方ががらりと変わってしまうのではないかという不安にかられてしまいそうだ。
だが、まずは安心してほしい。IFRSへの対応準備は日本ではまだ始まったばかり。前述のとおり、2015〜2016年ごろからの適用開始に向けて検討が進んでいる段階だ(いまのところ、上場企業の連結財務諸表を対象として適用される方向で検討されているが、これも流動的)。
また現在、日本基準はIFRSへ収れん(コンバージェンス)される過程にあり、日本基準を継続的に改訂することでIFRSに徐々に近づけている。当面は日本基準の動向を追いかけていれば、特にIFRSを意識しなくても実務的には問題ない。
従って、大半の上場企業にとってはすぐ動くべき状況にはないといえる。当面は日々の業務には影響ないと考えてよいだろう(一方、「早期適用するのでIFRS対応いまやれすぐやれ」という指示が出てしまっている会社の経理部門に所属している方は誠にご愁傷様かつ大変申し上げにくいのだがいますぐやってください)。
さて、仮にIFRSの適用が強制されると、実務への影響もそれなりに大きくなる。大きなところでは次のような変化が予想される。
固定資産:再評価アプローチにより、固定資産の取得原価ではなく再評価価額に基づく評価をしなければならなくなる可能性がある。
収益認識:売上計上のタイミングが、たとえば「販売元が出荷した日」から「販売先に到着した日」に変更される可能性がある。
財務諸表の表示:決算書の構成や様式ががらりと変わる。従来の
- 「貸借対照表」
- 「損益計算書」
- 「株主資本等変動計算書」
は
- 「期末財政状態計算書」
- 「包括利益計算書」
- 「株主持分変動計算書」
となり、表示方法も変わってくる。
過年度遡及修正:日本基準では「一度確定した決算書はもう修正しない」という考え方が基本だった。
IFRSでは「会計基準を変えたときには、新しい基準に基づいて一度確定した決算書を修正する」ということが求められる。当然、作業負荷は増えてしまう。
これらの違いには、日本基準が改訂されていく過程で吸収されるものも含まれている。日本基準の動向には常に注意しておきたい。
これからどうすればよいの?
さて、あなたはすでにIFRSのさわりに触れてしまった。どうやらとんでもない変化に巻き込まれてしまうのかもしれないという実感が少し出てきただろうか。だが、もう後に戻ることはできない。明日からといわず今日から、IFRSの動向にアンテナを張っておこう。毎日勉強する必要はない。アンテナを張っておくだけで十分だ。
ステップ1:IFRSの入門書を入手する
IFRSの基本概念を解説した書籍が書店に広く出回っている。基本的な解説書を1冊手元に置いておこう。
ステップ2:IFRSの原典を入手する
IFRSの理解を深めるには、やはり原典に当たるのが近道である。こちらは少々高価だが一冊手元に置いておこう。2010年4月現在、日本語翻訳版(2009 IFRS)が出版されているが、なるべく英語版(2010 IFRS)に当たってほしい。翻訳では伝わりにくいニュアンス、IFRS特有の用語や言い回しを理解することが肝要だ。
(参考リンク)
- 国際財務報告基準(IFRS)2009 (日本語翻訳版)
- 2010 International Financial Reporting Standards IFRS as issued at 1 January 2010 (英語版)
ステップ3:メディアやネットのIFRS関連情報にアンテナを貼る
原典が手元にあれば、あとは日々のIFRSの動向をタイムリーにつかまえられるよう、アンテナを張っておくことだ。本連載が掲載されているIFRSフォーラムをはじめとするポータルサイト、ブログ、SNS、メールマガジンなど、情報ソースは世界中にあふれている。
(参考リンク)
- IFRS 国際会計基準フォーラム
- IASB (International Accounting Standards Board)
- eIFRS (会員制サイト)
- IFRSポータル.jp
- CESR/EECS執行データベース
アンテナを張るときのポイントは1つ。IFRSのソース情報は大半が英語である。なるべく英文のソースに当たろう。情報の量とスピードが違うし、翻訳を待っていてはIFRSの変化するスピードに取り残されてしまうからだ。
ところで、読み方は?
最後に、この『IFRS』という呼称について素朴な疑問を解消しておきたい。すなわち“『IFRS』と書いてなんと読めばよいのだろう?”ということ。
いまのところ、主に使われている読み方として
- アイエフアールエス
- アイファース
- イファース
- イフルス
などなど、さまざまな呼び方が混在している。IFRSの基準策定の中心に近い方、比較的早くからIFRSの動向にキャッチアップされている方の中では「アイファース」または「イファース」と読まれる場合が多いようだが、特に強制されているわけではないのでここでは普通に「アイエフアールエス」でよいだろう。
以上、IFRSの基本的なレクチャーをお届けした。読者の皆さまが少しでも会計基準の国際標準に関心を持たれることを望みたい。
原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社数社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。
「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。翻訳書およびメディアでの連載実績多数。近著は「図解 IFRSのきほんがわかる本」。
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