【IFRS】月刊IFRSフォーラム【10】
8月:他社のIFRSプロジェクトから学べること
伊藤忠商事、大阪ガス、サントリー、シャープの各社が進行中のIFRSプロジェクトの概要を説明しました。プロジェクトを進める中で見えてきたIFRS適用の課題とは何でしょうか。
今春以降、IFRS適用プロジェクトが企業内で始まったという話を聞くことが増えました。任意適用を想定していない企業でも、2015年、または2016年の強制適用開始を見越して、すでに動き出しているようです。今月の月刊IFRSフォーラムでは、9月3日に開催されたIFRSコンソーシアム主催のセミナー「IFRS CONSORTIUM 2010 Sep」で報告された、IFRS適用プロジェクトの実態をお伝えしましょう。
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4社が自社のプロジェクトを説明
IFRSコンソーシアムの「委員会メンバーのIFRS取組状況について」というセッションでは、伊藤忠商事、大阪ガス、サントリー、シャープという4つの企業のIFRS担当者が自社の取り組みを説明しました。
伊藤忠商事の経理部 経理企画室長 松井紀雄氏、大阪ガスの財務部連結管理チーム兼IFRSプロジェクトチームマネジャーの片岡達哉氏の報告によると、伊藤忠と大阪ガスはともに2010年4月にIFRS適用プロジェクトチームを立ち上げました。それぞれ、プロジェクトチームが立ち上がる前に経理部門内の勉強会や事前の影響度調査を実施し、自社へのインパクトを把握していました。メンバーは経理部中心の専任メンバーのほか、経理部門、IT部門などの兼任メンバーなどで構成します。大阪ガスの片岡氏は「予備調査で専任者の確保が必要と判断した」と説明しました。
金融商品取引法の継続開示会社であるサントリーも2010年3月にプロジェクトを立ち上げました。サントリービジネスエキスパートの経理センター部長 石川一志氏によると、メンバーは10数人で、財務・経理部門とIT部門で組織。全員が兼務です。「内々のプロジェクト」としていますが、「9月末にインパクト分析と経営課題の抽出が終わる予定」と説明しました。
シャープは海外子会社のIFRS対応が先行していて、2008年から海外子会社ではIFRS対応をしています。シャープの経理本部経理部IFRSグループチーフ 戒能眞介氏によると、これから対応を進めるのは本社と国内子会社。2009年10月から本社、2010年2月から国内子会社のギャップ分析を開始し、2010年6月にプロジェクトチームを立ち上げました。現在は専任者が3人で、全体では20人程度が関わっています。
長期的な固定資産管理をどうするか
実際にIFRS適用のプロジェクトを回してきてさまざまな課題が浮上しているようです。工場などに設備を持つ大阪ガスやシャープからは固定資産管理が課題に挙がりました。大阪ガスの片岡氏によると、大阪ガスは総資産のうち56%が有形固定資産。「その減価償却をどう考えるか。IFRSは非常に短期的な視点の会計なので、長期的な固定資産管理をどうするかは悩ましい」と話しました。大阪ガスはIFRSの任意適用は行わない方針で、「2010年度には会計基準の暫定版を策定する予定」(片岡氏)としています。
シャープの戒能氏は固定資産の減価償却について企業間比較の難しさを指摘しました。液晶パネルの工場設備に2000億円の投資をした場合、シャープが仮に耐用年数5年で償却、サムスン電子が仮に4年で償却すると、「年間100億円くらい違ってくる。企業間比較はどうなるのか、という問題もある」と話しました。シャープは「2014年度の適用を前提に進めている」(戒能氏)ということです。同社はギャップ分析で38のテーマを抽出。今後は10のチームに分けて個別テーマの検討を進めていく予定です。
そのほかのテーマでは伊藤忠の松井氏が会計方針の統一、決算期の統一の問題を取り上げました。「原則主義なので会計方針の策定が最も重要。グループ内の決算期を3月期に変更するのが原則の方針で、これから進める」。2010年度は、専任組織を中心に会計方針の策定に注力。IFRS導入を推進するメンバーを通じてグループ会社、海外子会社の対応を進めるとしています。適用時期については「2013年度、2014年度のIFRS適用を目標に社内でロードマップを策定し、進めている」(松井氏)と明かしました。
IFRSは管理会計になじむのか
一方、サントリーの石川氏は「適用時期は未定。早期適用もできるようにゴールは(強制適用の)前に置いている」と述べたうえで、「重要なテーマは管理会計にIFRSが使えるのかどうか」と話しました。「財管一致が一番効率的だが、IFRSが管理会計になじむのか」。石川氏は連結財務諸表の作成についても課題と指摘しました。基本的には連結子会社すべてをIFRS対応させていく方針と言い、今回のIFRS適用を機にグループのレポーティング態勢を整備したいとしています。すでに国内グループ会社のレポーティングのインフラは統一していると言いますが、「海外子会社は連結へのレポートをMicrosoft Excelで行っている。これをどうにかしたい」ということです。ただ、グループでの統一会計基準の策定では、「海外の子会社はどう考えても苦労する。憂鬱な気持ちになっている」と心配しています。
4社の話を聞いて思ったのは、固定資産や人材、グループ子会社との関係など各社で共通の課題があるということです。IFRSコンソーシアムをはじめとする団体ですでに始まっていますが、企業間で課題とその解決の情報を共有できるような機会が増えると作業の効率化ができるでしょう。自社の課題を抽出するためにも早期のIFRS適用プロジェクトの立ち上げが重要と思いました。
8月掲載記事のランキング
それではIFRSフォーラムで8月に掲載した記事のランキングと、ニュース記事のランキングを紹介しましょう。
これからIFRSの適用を目指す日本企業に影響が大きいと考えられる会計基準のポイントと業務プロセスへの影響、ITシステムの対応方法を解説する連載の2回目です。今回からは固定資産管理についてです。固定資産を考える場合、日本基準とIFRSだけでなく、税法との関係も考える必要があり、企業側の負担になることが考えられます。記事ではそのポイントを明確に解説します。ITシステムの対応を解説した記事も併せてお読みください(無償の会員登録が必要です)。
IFRSや米国会計基準で導入されていて、日本基準にもコンバージェンスされた包括利益。包括利益は日本企業の経営をどう変えるのでしょうか。この記事ではコーポレートファイナンスの視点から包括利益が与える影響、そしてその背景にある思想について解説します。
企業はこの10年ほど、「コンプライアンス」という言葉に追い立てられているように思います。法令順守の考えが浸透し、違反をした企業が市場から退場したり、倒産することも珍しくなくなりました。記事ではそのコンプライアンス、そして内部統制に関係する用語をコンパクトに解説します。
IFRS会計基準を解説する連載の12回目です。今回のテーマは「株式報酬取引」。身近な株式報酬取引としてはストックオプションがあります。ストックオプションの基本、IFRSでの会計処理、日本基準との違いなどを分かりやすく解説します。
ニュース記事ランキング
8月のニュース記事ランキングは以下です。注目したいのは2011年にIFRSの強制適用が始まる韓国の状況を解説した2位の記事。あらた監査法人の担当者は「IFRSプロジェクトの核になるのがマニュアル。マニュアルがなければ、IFRSの適用はできないし、メリットは得られない」と述べました。
- 1位:「財務会計士」のパブリックコメント募集開始、金融庁
- 2位:IFRS任意適用がすでに42社——韓国企業から何を学ぶか
- 3位:内部統制報告書「有効でない」が減少、その理由は?
- 4位:IFRSで浮上する子会社のITガバナンス問題
- 5位:IFRSの金融商品会計に対応、SASが金融機関向けソリューション
それではまたお会いしましょう!
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