進化する医療機関向けアプリケーション【キュア・アップ編】
薬の代わりにアプリで禁煙? 薬事承認を目指す「ニコチン治療用アプリ」とは
医療ITベンチャーのキュア・アップが薬事申請した「ニコチン依存症治療用アプリケーション」。処方薬以外の治療法に道を開く可能性がある、このアプリケーションの実力と現状を探る。
PCやスマートフォンで利用する、医療機関向けアプリケーションの開発が進んでいる。背景には薬事法の改正(詳細は後述)や、パブリッククラウドで医療情報を扱う際のセキュリティ基準について定めた3省3ガイドラインの制定など、法制度の整備がある。パブリッククラウドは医療用途の機能やセキュリティ対策を充実させており、アプリケーションの開発環境も整いつつある。
本連載「進化する医療アプリケーション」では、こうした背景から生まれた医療機関向けアプリケーションを紹介する。1回目は、医療ITベンチャーのキュア・アップが薬事申請の承認を目指す治療用アプリケーションと、治療用アプリケーションを取り巻く動向について解説する。
用途:禁煙指導のためのスマホアプリ
将来、薬の代わりにスマートフォンアプリケーションが「処方」されるようになる可能性がある。キュア・アップは、同社が開発した禁煙治療のための「ニコチン依存症治療用アプリケーション」(本記事では「ニコチン依存症治療用アプリ」と表記する)を、2019年5月に薬事申請した。現状のニコチン依存症治療用アプリは薬事未承認だが、同社は薬事承認を経て、2020年春の診療報酬改定で「保険適用の医療機器」として利用できるようにすることを目指している。2014年11月の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)施行に伴い、診断や治療などを目的とした単体プログラムが医療機器に含まれることになった。
製品の特徴:「行動変容」のアプローチが可能に
キュア・アップが開発するニコチン依存症治療用アプリは、患者が日常の行動を記録する機能と、医師が記録を確認する機能を搭載している。特徴は、医師が「患者は日常的にどのように行動しているか」を観察するのに役立つ点にある。
ニコチン依存症治療用アプリは、患者が入力したその時の気分や呼気CO(一酸化炭素)濃度を解析し、それに合わせた行動療法の指針や、服薬管理の情報などを自動で配信する機能を搭載する。例えば患者が「タバコを吸いたくなった」旨を入力すると、ニコチン依存症治療用アプリは「ガムをかみましょう」といった禁煙につながる具体的なアドバイスや、「どうして吸いたくなったのですか?」という質問を画面に表示する。
キュア・アップ代表取締役社長の佐竹晃太氏は、ニコチン依存症治療用アプリのメリットとして、患者の生活習慣を望ましい形にする「行動変容」を促す治療が効果的に実現できることを挙げる。
基本的に医師と外来患者の接点は、診察室で対面する時間に限られる。そのため診察室以外の患者の行動に対して変化を促すことは難しい。医師はニコチン依存症治療用アプリを利用することで、患者の生活習慣をリアルタイムでモニタリングでき、個別のアドバイスも配信できるようになる。
ニコチン依存症治療用アプリを保険診療に利用できる期間は、禁煙治療を保険診療として算定できる期間である12週間(3カ月)。キュア・アップによると、国内第III相試験(注1)の結果、治療開始から9週~24週目の継続禁煙率は、治療にニコチン依存症治療用アプリを利用した患者が63.9%で、利用していない患者(対照群)の50.5%を上回ったという。佐竹氏は「患者の生活習慣に影響を及ぼすため、アプリケーションを利用する治療期間中だけでなく、治療期間後も効果の継続が期待できる」と話す。
※注1:開発中の新しい薬や医療機器、治療法が薬事承認を得るために実施する臨床試験は、第I相試験から第III相試験までの3段階の試験が必要になる。第III相試験は多数の患者に対して臨床試験を実施し、既存の医薬品や治療法と比較して、第I相・第II相試験までに検証した有効性や安全性を証明するのが主な目的となる。
仕組み:アプリケーションとIoTデバイスを利用
ニコチン依存症治療用アプリは、正確には単体のアプリケーションではなく、複数の製品から成る製品群だ。患者用のスマートフォンアプリケーションと医師用のPCアプリケーション、呼気のCO濃度を計測するIoTデバイスで構成されている(画像1)。
医師用のPCアプリケーションは、患者の呼気COや入力記録を表示する機能を持ち、服薬の管理や禁煙指導の補助に利用できるという。
開発の背景:薬事法の改正
ニコチン依存症治療用アプリの開発は、前述の通り薬機法の施行によって「医療機器」の定義に単体プログラムが加わったことが背景にある。ニコチン依存症治療用アプリのような治療用アプリケーションも薬機法の承認対象になり、健康保険の適用が可能になった。
佐竹氏は薬事承認に向けた懸念として、国内には現時点で薬事承認されている治療用アプリケーションが存在しない点を挙げる。佐竹氏は、保険点数は「治療用アプリケーションの普及率を大きく左右する」と予想するが、どの程度の保険点数が付くのかは定まっていない。
ニコチン依存症治療用アプリについて佐竹氏は、万が一薬事承認が下りなかった場合は「自費診療としての用途で提供することを検討する」と言う。キュア・アップはニコチン依存症と同様に行動変容のアプローチが有効な、高血圧と非アルコール性脂肪肝炎の治療用アプリケーションも開発中だ。治療用アプリケーションが薬事承認を受けることができれば、国内の医療用モバイルアプリケーション開発に弾みがつく可能性がある。同社の今回の取り組みは、その試金石となるだろう。
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進化する医療機関向けアプリケーション
医療の分野では、薬事法の改正や3省3ガイドラインの制定など、PCやスマートフォンで動作するアプリケーションの利用を視野に入れた法制度が整備されつつある。これに伴い、人工知能(AI)やクラウドといった先端技術を取り入れた医療用アプリケーションの開発が進んでいる。本連載では、このような背景から生まれた医療機関向けアプリケーションを紹介する。
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