【IFRS】コーポレートガバナンス再構築【第2回】
大王製紙で考える「創業家」とガバナンス体制
コーポレートガバナンスを考える連載の第2回は元会長に対する巨額の貸付金問題で揺れている大王製紙と、その創業家について考える。強い指導力と影響力を持つオーナー経営者、創業家の下で適切なコーポ―レートガバナンス体制を構築するには何を考えればいいのだろうか。
前回はオリンパスにおける第三者委員会報告書から、会社の機関設計と設計された組織に求められる機能の有効性を中心に検討した(参考記事:調査報告書で読み解くオリンパス失敗の本質)。今回は大王製紙における調査報告書から、グループ管理にも視点を当てて検討をしたい。また、大王製紙は非常にオーナーの影響が大きい会社であることが明らかになっているため、影響力のあるオーナー会社におけるコーポレートガバナンスの在り方についても併せて検討したい。
大王製紙における調査報告書
(1)コーポレートガバナンスの状況
大王製紙は、2011年10月27日に大王製紙元会長への貸付金問題に関する特別調査委員会によって「調査報告書」が公表されている(リンク)。大王製紙は上場企業であるが、非常にオーナー色の強い会社であり、その点でコーポレートガバナンスにおける独特な状況が存在すると考えられる。実際に調査報告書を参考にして、まずは大王製紙におけるコーポレートガバナンスの状況を明らかにしていきたい。
大王製紙では「創業家」と呼ばれる、創業者から続くオーナー一族の影響力が非常に大きく、グループ全体の経営権を実質的に支配している状況にある。そのため創業家からの指示は絶対的であり、その指示に対してその他の構成員が疑うこともない状況にあったといわれている。
特徴的なのは、グループ会社の位置付けである。一般には、親会社を中心として、親会社から各子会社に対して出資が行われ、それによってグループが支配されることが多い。しかしながら大王製紙グループにおいては、グループを構成する子会社や関連会社のうちの多くが、親会社の持ち株比率は50%未満であり、その他の株式は創業家が保有しているという状況にある(図参照)。
調査報告書によれば、このような資本構成となった背景として、従来、各地の紙製造会社を買収する際、創業家一族が主たる株主となり、大王製紙自体は15%前後の少数株主にとどめることが通例であったことが挙げられている。
実際、連結子会社は2011年3月期時点で37社存在しているものの、有価証券報告書の関係会社の状況に記載されている子会社の状況によると、チリにある子会社に90%出資しているが、その他の子会社については20〜40%程度の出資比率にすぎない。調査報告書の別紙1には、調査対象となったグループ会社7社の状況が記載されており、ここでも大王製紙の持ち株比率は10〜25%であり少数株主となっている。
また別紙5には大王製紙と連結子会社の関係が記載されているが、大王製紙が50%超保有しているのは3社にすぎず、20%未満の子会社が23社であった。これらのグループ会社は実質的な支配が行われているという判断にから大王製紙の連結子会社となっているが、実質的な支配は創業家による株式の保有に基づく。すなわち、国内連結子会社35社(他に海外連結子会社2社)のうち、創業家が役員として参画しているのは延べで70人であり、平均して1社当たり2人が関与していることになり、それが連結子会社とする判断に紐付いていた。
このような状況において、大王製紙社内においてはこれらの子会社等を管理するために関連事業部が設置され、月次で報告を受けることなどにより継続的に管理している。しかしながら当該報告書については、日常的に参照されることはなく、何かの事象が発生した時に参照する位置付けで保管されていた。
(2) 体制上の問題点
グループの中心が親会社たる大王製紙ではなく、株主としての創業家であることが最も大きな特徴である。このような状況において、グループ内では親子会社間で普通に出向などによる人事異動が行われているが、これはグループ各社に対する経営責任者の立場で連結子会社の役員等を選任できるのではなく、個人としてそこの支配株主であるが故に、大王製紙の社員を役員に就任させることができていると調査報告書でも指摘されている。
このように、親会社が子会社の議決権の過半数を有していないグループの支配構造は脆弱で不安定であり、すなわち今回のような事象が発生し創業家が大王製紙の経営者でなくなった場合に、親会社の経営と子会社の資本が分離してしまい、親会社を中心としたグループ経営が困難になる可能性が想定されるのである。
親会社の子会社に対する支配力が乏しい場合、子会社で問題が発生した際に親会社からの指示が行き渡らず、グループガバナンスが有効に機能しないことが想定される。そのため、仮に親会社において子会社を管理する部署が設置されていたとしても、万一のときに有効に機能しない可能性がある。実際、今回の事案においては、子会社の経営権を巡って親会社と創業家が激しく対立する状況になっており、グループとしてのガバナンスは喪失していると考えざるを得ない。
上場している会社の場合には特に、創業家が継続的に代々経営者を引き継ぐことができない場合も多分に想定される。そのためグループとしてのガバナンスを有効に機能させ続けることができるような体制の構築が望まれるところである。
一方、大王製紙社内においては、創業家への忠誠心が非常に高い状況にあり、創業家の指示や行動に対して疑念を感じるような組織風土にはなっていなかった。また、調査報告書においては現在の顧問は創業二代目であり大王製紙の取締役ではないが、大王製紙の他、グループ各社からも報告がなされていたと指摘されており、実質的なレポーティングラインとなっていたことが伺える。このような状況からも創業家の大王製紙グループにおける絶対的なポジションが見て取れるのである。
またコンプライアンスへの取り組みについては、過去に発生したいくつかの問題を踏まえて、問題点が発生した時には関係部署に対して迅速な報告がなされる体制が構築されており、コンプライアンスに係る基本的な制度、ルール(規程)、仕組みの整備はできており、その見直し、改善も適時になされていたと認められている。しかしながら、「創業家に対する権限乱用を防止するという観点からは特段ルール(規程)整備や監査は実施されておらず、そのような問題意識も希薄であった」と指摘されている。
(3)オーナー経営者の下でコーポレートガバナンスを実効性あるものにするためには?
オーナー経営者の存在感が大きい会社は、特に非上場の会社には多いと思われる。強いオーナーは、その存在が象徴的になり、会社全体が1つの方向に一致団結して向かう場合に非常に強い推進力を得ることが多く、実際、オーナー経営者の存在が好業績につながっている場合も多い。
しかしながら一方でオーナー経営者が不適切な意思決定をしてしまった場合のブレーキが効かないことが、このような会社における弱点になり得る。大王製紙の場合は上場会社であるため、非上場の会社と同一視することはできないが、オーナー経営者が不適切な意思決定をした場合のチェック機能は、取締役会における審議や監査役監査を通じたガバナンスの体制として機能させるような体制を構築する必要があるし、また、オーナーが経営者でなくなった場合のグループ全体の統制をどのようにするのかについても視野に入れながら、グループにおけるガバナンス体制の構築を検討する必要がある。
また大王製紙グループにおいては、子会社の状況を親会社で把握できていない現状がある。すなわち、親会社は少数株主であり、子会社の資本構成すらつかめていないとのことである。そのような状況では、子会社に対する支配力を維持することは困難であり、子会社の株主であるオーナーに依存せざるを得なくなる。そのため、調査報告書でも指摘されている通り、子会社の支配権を実質的に親会社に集約させる方向で株主と継続的な協議を行う必要があり、それをもって子会社への支配権を獲得したうえで、親会社を中心としたグループマネジメントの体制を構築する必要がある。
今回発生している経営の混乱により、現在行われているグループが一体となった取引スキームを維持できなくなる恐れがあり、それにより企業価値が毀損することも考えられる。その場合、経営者が既存株主からの追及を受ける可能性も否定できない。
子会社の内部統制は、グループ全体で考えた場合には親会社の統制環境下で統制活動を行っているという側面がある。そのため、親会社における統制環境を充実させることによって、子会社のマネジメントをモニタリングするのではなく、オペレーションをモニタリングするという位置付けで、日常的なモニタリングの体制を有効化させることが可能になると考えられる。
おわりに
大王製紙の報告書においては、まずオーナーの影響の大きさ、そして子会社に対するガバナンスの欠如が指摘されている。オーナーの影響が大きい会社は、特にオーナーに対する有効なモニタリングを行うことは難しい。また、オーナーが経営者でなくなった場合の親会社の管理を検討しなければならない。
会社ごとにおかれている環境が異なるため、ガバナンス体制はそれぞれ工夫が必要であるものの、組織における各機能が果たす役割を果たす役割を各人が認識したうえで体制を構築していくことが求められるのである。
中原 國尋(なかはら くにひろ)
株式会社レキシコム代表取締役
公認会計士/システム監査技術者
中央大学大学院商学研究科博士前期課程修了。大手監査法人を経て、株式会社レキシコムを設立し、現在に至る。経営者や管理者をはじめとした情報利用者に価値のある情報をいかに提供するのかに焦点を当てながら、公認会計士としての専門的知識や経験を生かし、業務改善コンサルティングや内部統制報告制度対応支援、会計制度への対応を含めた情報システムのサポート業務などを中心に展開している。IFRS、内部統制、情報システムなどをキーワードに、講演・執筆活動の実績多数。
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