【IFRS】コーポレートガバナンス再構築【第3回】
一歩踏み込んで考える企業の統制力強化
コーポ―レートガバナンスの強化は容易ではない。企業ごとにさまざまな要因があり、それに伴って対策も変わる。本稿ではこれまでの連載を参照しながら企業の統制力を強化するために考えるべき具体的な方策を紹介する。
これまでの2回の記事「調査報告書で読み解くオリンパス失敗の本質」「大王製紙で考える『創業家』とガバナンス体制」を通して、自社におけるコーポレートガバナンスを有効に機能させるための障害が多くの局面で見ることができることがご理解いただけたと思う。特に、自社でもガバナンスの体制を構築しているにもかかわらず、その運用が形式的であるか否かと問われれば、頭を抱えてしまう場合も多いのではないか。
実際にコーポレートガバナンスの有効性を高めるための方策をどのように考えるべきなのか、もう一歩踏み込んだ議論をしてみよう。
有効なコーポレートガバナンスの体制と機能
組織の枠組みを考えた際に、経営者をどのようにモニタリングするのかは非常に難しい課題である。特に内部統制として経営者に対するモニタリングの議論があるが、内部統制は経営者が構築するものであることを鑑みても、経営者に対する牽制機能やモニタリングを有効に機能させるのは、大変難しい問題であることが分かる。
そのような中で、最も重要性が高いのは良好な統制環境の構築と醸成であり、経営者の高い倫理観から発生し、会社あるいはグループの構成員の意識を変えていくこと、そして流通する情報を透明化することである。そのような目に見えない努力の積み重ねが、結果的に優れた統制環境の醸成につながり、有効な内部統制の構築につながっていくものと考えられる。
この前提を踏まえて、監査役や内部監査部門の独立性および機能の強化、外部監査人の有効な活用、取締役会を独立的に監視する機能の設置等が体制面では考えられる。また、人材の硬直化は組織の硬直化を生みだすことにもつながるため、グループ内での人材の流動化を促進することも必要である。
a. 監査機能を有する組織と独立性
一般に監査機能は、監査役と内部監査部門に期待されている。
監査役は本来的に取締役の職務の執行を監査することが求められている。しかしながら、実質的に経営者が監査役を指名する場合が多く、経営者に対する独立性をどの程度確保できるのかが大きな問題である。
監査役候補者の決定には監査役(会)の同意が必要となっているが、それだけではなく、例えば監査役(会)設置会社であっても指名委員会に類する組織を設置することが考えられる。
一方で内部監査部門は、経営者の観点から業務執行が問題なく行われていることを各部門から独立した立場で検証することが期待されている部門である。そのため、監査役と内部監査部門とでは期待されている機能が全く異なることに注意しなければならない。経営者の業務執行を監査するという観点で、監査役が業務執行の状況を検証することは当然あるため、また上記のように監査役と内部監査部門に期待されている機能が異なるために、両者が協力して効率的・効果的な監査を実施することは非常に有効である。
しかしながら、そもそも目的が異なっていること、内部監査部門の任命権者は経営者であり、監査役の選任は株主によるという点に十分留意する必要がある。
オリンパスの第三者委員会による調査報告書(オリンパスサイトへのリンク)の中では、監査役は監査を実施しているが、監査役にスタッフがいないという指摘があった。現実的に、監査役監査を支援するスタッフを割り当てている会社はそれほど多いわけではないと思うが、監査に必要な作業量を考えた場合には検討すべき事項であると思われる。しかし、そのスタッフ機能を内部監査部門に求めることは、目的の違いからも分かるように不適切なのである。
b. 取締役会に対する監視機能
取締役会は、監査役が出席することにより継続的にモニタリングされている。また取締役会で事案を審議すること自体も取締役間での牽制機能が期待されている。しかし、取締役会に出席しているメンバーが経営者に意見できない状況であるならば、その牽制機能は全く機能しない。従って経営者に対して率直な議論を行うことができるような環境の構築を前提として、社外取締役等を有効に利用すべきである。
取締役会等で実質的な審議をする場合に、審議する内容についてはあらかじめ出席者に配布しておくことも重要である。当日の配布資料を取締役会開催中に検討することは難しいため、開催前に準備する時間を十分に与えることが実効性のある議論を導き出すために有効である。やむを得ず資料の配布が当日にならざるを得ない場合には、十分な説明と議論が重要である。
また、取締役会に出席する社外取締役や社外監査役に対して、その他の取締役や監査役との情報の非対称性があってはならない。適切なモニタリング機能を発揮させるためにも、情報の提供レベルは同一にする必要がある。
c. 外部監査人の有効な利用
コーポレートガバナンスの体制を検討する際には、外部監査人の位置付けを整理することが必要である。外部監査人は会計的な側面から監査を実施しており、例えば監査役監査においては、監査役監査の機能の一部として外部監査人の監査結果を確認したうえで用いることが一般に行われている。また、内部監査部門においても特に会計的な判断については、外部監査人に依存している場面は多い。
しかしながら会計不祥事が発生する局面においては、監査役や内部監査部門における会計的な知識の欠如が指摘されることが多い。外部監査人に対して会計的な判断に関する適切性の判断をある程度委ねることは、その期待されている機能からしても問題はないと考えるが、外部監査人の監査結果を形式的に判断したり、何の疑いもなく受け入れるのではなく、それぞれの機能としての判断を行うことが求められる。そのため外部監査人の監査結果と、監査役監査や内部監査を実施した結果との間で、考慮すべき事項の有無に関する実質的な検討ができる程度の会計知識を有するメンバーを選任することが今後は特に求められていくと考えられる。
d. グループにおける人材の流動化
特に本社のスタッフ部門については、専門性が高いと判断される場合が多く、経理や人事、総務、情報システムといった部門については、特定の担当者が長期にわたって任されている場合も多い。
ジョブローテーションをどのような方法で実施するのかについては、会社それぞれの判断になるものの、現業部門と本社スタッフ部門との間での人材交流を実施している会社も多い。それによって部門間の業務の相互理解につながる効果や、業務改善を行うための有効な情報を入手したり、部門間のコミュニケーションが増加したりといった効果に通じることも多く、それがグループ全体としてのガバナンスの有効性につながると考えられる。
子会社に対する統制機能
子会社の管理方法についても、検討すべき点は多い。親会社がある程度の支配権を有しているところについては、監査の権限を用いて子会社に対して監査を実施するケースは一般的であると考えるが、あまり強い支配権を有していない子会社・関連会社等に対しても、社会的な要請から親会社としての監視機能の強化が求められている。
子会社の中には、親会社を頂点としたグループの中で特定の機能を担っている場合もある。そのような場合には、グループの体制に組み込まれ、実質的に一体となった企業活動が行われていることも多い。従って監査を実施するに当たっても独立した会社ではなく、グループ内の一部門として監査を実施することが有効である場合は多い。
しかしながら、ある程度独立して業務を行っている子会社も多く、そのような場合には子会社独自の監査機能の強化も必要であり、親会社としての管理をどのように実施するのかを検討する重要性が一層高まるとも考えられる。
一般には、子会社を管理する部署を親会社内に設けた上で、当該部署が中心となって子会社の状況をモニタリングすることによって、子会社管理の有効性を高めているケースが多い。また、実際の状況を把握することも必要であるため、当該部署と親会社の内部監査部門が協力して子会社における業務の状況を定期的に検証している場合も多く見受けられる。
しかしながら、特に支配権のあまり及ばない子会社や地理的に遠い子会社に対する実地検証を行う場合には、特に効率的な「監査手続」を実施するための工夫を行っている会社が存在しており、この点については後述する。
監査を実施する際の手続きと方法の再検討
監査役監査や内部監査において監査を実施する際に、担当者に対するヒアリングのみにとどまっているケースがある。内部統制報告制度の開始時に特に指摘されたような形式的な書類の有無の検証を行う必要はないと考えられるが、ヒアリングした結果の裏付けについては、何らかの形で入手することが必要である。それが書類として残されている場合もあるし、あるいは状況として存在している場合もある。ヒアリングした結果を全てそのまま真に受けるのは、ヒアリング対象者の誤認等も含めてリスクが高いため、監査する側としては留意しなければならない。
また、最近は業務執行の結果がデータとして社内に保管されていることが大変多くなってきた。会計データや業務データに限らず、稟議に関するデータや出退社の時刻まであらゆる活動結果がデータとなって保存されている。これらのデータを監査の実施に有効に活用することが今後は求められると考えられる。監査にデータを用いる技法は、一般的にはCAAT(Computer Assisted Audit Techniques:コンピュータ利用監査技法)と呼ばれており、以前から存在する方法であるが、監査人が使用するコンピュータの高性能化や会社で保有しているデータ量の増大に伴って、各段に高い有効性が期待される状況になってきた。
CAATは、保有しているデータを監査人の立場で分析検討し、監査の有効性や効率性を高めるために実施される。従来のような取引サンプルを基礎とした検証ではなく、保有するデータを網羅的に検証対象にすることができるため、監査の精度を高めることが可能になることに大きな特徴がある。
CAATの実施は、従来の「監査手続」の適用とは異なり、データを直接扱わなければならない。そのため、情報システムに関するある程度の知識が要求されることになるが、ACL等の汎用監査ツールと呼ばれるものも存在するため、実施のハードルはそれほど高くはないと考えられる。手続きの対象としてどのように利用するのかについては、会社ごとにリスクの所在や保有しているデータが異なるため、各社で検討していかなければならない。例えば同じパッケージソフトウェアを利用している場合であっても、会社ごとにおかれている状況が異なるため、実質的に有効なCAATの手続きは試行錯誤しながら決定することが求められる。とはいえ、例えば次のような場合には、一般にCAATを用いることによって「監査手続」の効率化が図れると考えられる。
- 特定の条件に一致する取引の抽出。例えば、決裁権限を越えて承認された取引の抽出や、ワークフローにおいて正規の承認順序になっていない案件の抽出など
- 滞留債権リストのような情報システムから出力される帳票の正確性検証
- 通常発生しないと考えられる仕訳の抽出による不正の兆候の発見
- 与信限度額を超えていないことについての継続的なモニタリング
- 情報システムによる処理方法の正確性検証
- 子会社等への往査前の分析に基づく高リスク項目の識別による監査対象の明確化と絞り込み
おわりに
このシリーズを通して、オリンパスや大王製紙における報告書をベースに、会社やそのグループにおけるガバナンスの在り方や、組織に求められる機能等について検討してきた。これらの会社ではコーポレートガバナンスの欠如から不適切な事象が発生したが、その原因を探ってみると、日本にある会社のなかでは一般的と考えられる状況も多いのではないかというのが筆者の感想である。
昨今、会社法の改正が進められているところではあるが、体制のみ構築しても運用が形式的であれば、実質的なコーポレートガバナンスの有効性を図ることは不可能である。そのため、ある程度有効な牽制機能やモニタリング機能を組み込みながら、最終的には組織を運営する人が、それぞれの役割や与えられた責務を認識することによってのみ、有効なコーポレートガバナンスの構築が可能になると考えられる。
中原 國尋(なかはら くにひろ)
株式会社レキシコム代表取締役 公認会計士/システム監査技術者
青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 客員教授
中央大学大学院商学研究科博士前期課程修了。大手監査法人を経て、株式会社レキシコムを設立し、現在に至る。経営者や管理者をはじめとした情報利用者に価値のある情報をいかに提供するのかに焦点を当てながら、公認会計士としての専門知識や経験を生かし、業務改善コンサルティングや内部統制報告制度対応支援、会計制度への対応を含めた情報システムのサポート業務などを中心に展開している。IFRS、内部統制、情報システムなどをキーワードに、講演・執筆活動の実績多数。日本公認会計士協会IT委員会専門委員。
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