【IFRS】経理業務とExcelの深い関係【第1回】
私たちがExcelをこれほど使う理由
経理といえばExcel。「Microsoft Excel」は私たちの業務の中心に陣取っている。これほどまでにExcelが使われている理由は何なのか? 本連載ではIFRS(国際財務報告基準)との関係も含めて、経理業務とExcelとの深い関係を解き明かす。
財務経理といえばExcel、Excelといえば財務経理。といっても過言ではないぐらいに財務経理業務と「Microsoft Excel」に代表される「表計算ソフトウェア」との関係はゆかりが深い。
この深い関係はいつから始まったのか? 財務経理業務へのスプレッドシートの活用はこれからも続くのか? 近い将来に到来するIFRS(国際財務報告基準)への対応も踏まえ、経理業務とExcelの関係について概観する。なお、以下の文中における見解は特定の組織や団体を代表するものではなく、筆者の私見である。
表計算ソフトの定義とその歴史
「表計算ソフト」(または「スプレッドシート」)とたずねられたら、まず想像するものはなんでしょうか? このような答えが予想できるのではないでしょうか。
「Excelでしょ」
「Excelだよね」
「Excel以外思いつかない」
表計算ソフトといえばExcel。Excelといえば表計算。そのぐらいポピュラーに使われている表計算ソフトが、Microsoft Excel(以下、Excel)です。
表計算ソフトウェア(またはスプレッドシート)の定義はさまざまですが、ここでは
「さまざまな数値の入力・集計・分析を行うためのソフトウェア」
と定義します。財務数値をはじめ、さまざまな定量データを入力・集計し、多面的な視点から分析するための多くの便利な機能を持っています。
また、単に集計・分析するだけではなく、Excel特有の機能であるマクロやVBA(Visual Basic for Applications)を活用して簡易な情報システムとして利用することも可能です。このような汎用性や拡張性の高さから、初心者からエキスパートまで広く利用されているのがExcelの特徴です。
Excelの歴史の始まりは1980年代にさかのぼります。オフィスにPCが普及し始めた時期に連動して、当時ビジネスアプリケーションの世界で主流となっていたのが、Lotus(当時)が発売する「Lotus 1-2-3」でした。一方で米マイクロソフトはExcelの前身となる表計算ソフト「Multiplan」(マルチプラン)を発売していました。その後Windowsを中心とするGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)のOSが普及する流れに乗り、グラフィカルな表計算ソフトが多く発売されます。当初Macintosh(Mac)向けに発売されていたExcelはWindows版も発売され、爆発的に普及して多くのビジネスユーザーを獲得しました。Excelの爆発的な普及は、当時発売されたWindows95にMicrosoft Officeをプリインストールして販売した効果が大きかったのですが、これは後に独占禁止法に触れることになり係争が続きました。そして現在に至るも表計算ソフトの代表格として、そしてWindowsアプリケーションを象徴するソフトウェアにもなっています。
Excelは発売時期によって異なるバージョンがあり、Windows環境では以下のバージョンが主に利用されています。大きく分けて「2007以前のバージョン」「2007以後のバージョン」で使い勝手が大きく変化しているのが特徴です。
- Excel 2002
Microsoft Office XPに同梱
- Excel 2003
2003 Microsoft Office Systemに同梱。XMLドキュメントに対応した
- Excel 2007
2007 Microsoft Office Systemに同梱。Office Open XML形式に対応し、ワークシートファイルの拡張子がそれまでの「.xls」から「.xlsx」に変更され、リボンUI(ユーザーインタフェース)を採用。またスプレッドシートの制限(行列の上限など)が大幅に拡張されるなど、操作性がそれまでのものから大きく変化した
- Excel 2010
2010 Microsoft Office Systemに同梱。プロダクトキーの入力など、ライセンス認証が強化された
Excelは現在も表計算ソフトウェアの代表格ですが、現在入手可能なその他のソフトウェアとしては
- OpenOffice.org(OOo) Calc(オープンソースの表計算ソフト)
- Kingsoft Spreadsheets(キングソフト)
- 三四郎(ジャストシステム)
- Symphony Spreadsheets(IBM)
- Numbers(Apple)
などがあります。表計算ソフトの業界標準がExcelであることから、これらのソフトの多くはExcelとの互換性を保つように設計されています。
近年では、Googleドキュメントの機能の一部としてクラウドサービスで表計算ソフトの機能を実現する「Google Spreadsheets(グーグル スプレッドシート)」も出現しています。データをPC内部でなくインターネット上に保存するため、高い利便性と保全性を実現しているのが特徴です。
経理業務にとってのExcelの重要性
さて、Excelは財務経理業務(ここでは日々の取引記録と決算報告資料作成を中心とする制度会計業務を想定します)と非常にゆかりの深いツールとなっています。財務報告資料は一部の例外を除いて大抵はExcelで作成されますし、会計システムと連携した場合でもExcelとのインターフェイスを持っており、出力したデータをExcelで加工するケースが日常的に起きています。
なぜExcelがそこまで多用されてきたのでしょうか? これは財務経理業務が持つ特性として
- 集計や分析の用途が限定的で、四則演算が基本
- 様式が定型化されており、ワークシートにひな型を定義しやすい
という特徴があり、この結果Excelによる集計・分析処理との親和性が高くなるためです。
まず、財務経理業務は「四則演算のかたまり」といっても過言ではありません。財務経理や簿記の世界は「四則演算」が基本となっています。いわゆる加減乗除以上の複雑な算式は求められることが少ないのが特徴です。
また、管理会計業務の場合は管理ニーズによって集計・分析の用途は多岐にわたりますが、財務会計業務の場合は報告様式が会計基準などにより定型化されていることが多く、複雑な解析計算などを求められる機会は少ないことから、定型的なワークシートのレイアウトに展開しやすいという特徴があります。
Excelには基本機能に加えて、多くの便利な関数(SUM、SUMIF、SUBTOTALなど)が用意されています。四則演算を基本とする業務にこれらの関数は相性がよく、財務経理業務で活用しやすい特徴があります。さらに、定型業務の比重が高いことからマクロやVBA(前述)の活用場面が多くあり、これも財務経理業務にExcelを活用する大きな利点となっています。
また、Excelはエンドユーザーでも使いやすいインターフェイスを持っています。これにより、財務経理部門では担当者レベルでも高度なデータ処理を行うことが可能となりました。
これらの要因がからみあった結果、財務経理業務にExcelを最大限活用する通称「Excel使い」が現れ、多くの財務経理部門で活躍するようになりました。さまざまな関数やマクロを自由自在に使いこなし、ときには本人以外中身を解読できない困ったワークシートを作ってしまうこともあるExcelの達人。あなたの職場にもいませんか?(どういう意味で困ったことになるのかは、第2回で解説します)
さて、Excelは今後も財務経理業務に使われ続けるのでしょうか?
この問いに対しては当面「Yes」と答えることができます。Excelはデファクトスタンダード(事実上の標準)な表計算ソフトとしてすでに多くのビジネス現場で浸透し、今後も使われ続けることが予想できます。オープンソースソフトウェアやクラウドでの表計算ツールが台頭してきたといっても、Excelを現場から駆逐するには至っておらず、仮にそうなるとしても数年の歳月を要することでしょう。
Excel使い倒しのテクニック
Excelは長年にわたりユーザーを獲得してきた歴史もあり、多くの利用ノウハウが蓄積されています。書店に行けばExcelの活用テクニックを解説した書籍を多く見つけることができます。ここでは、財務経理業務のように大きな表を作成・編集する使う上で覚えていると便利なテクニックをいくつかご紹介します。
(1)ショートカットを活用しよう
Excelを活用する上で、マウスの代わりにキーボードの組み合わせを使った操作(ショートカットキー)の活用は欠かせません。マウスから手を離す頻度が下がることから入力や編集の効率が大きく向上します。
Ctrl-X(カット、切り取り)
Ctrl-C(コピー)
Ctrl-V(ペースト、貼り付け)
Ctrl-Z(元に戻す)
といった基本ショートカットに加えて、大きな表を活用する業務においては
Ctrl+PageDown(次のシートを表示)
Ctrl+PageUp(前のシートを表示)
Ctrl+End(最後のセルにジャンプ)
Ctrl+Enter(複数セルに同じデータの入力)
なども活用すると便利です。
(2)ワークシートの拡張性を確保する
編集作業の途中で1行(タテに増やす)または1列(ヨコに増やす)ことは頻繁に起こります。ここで行や列を単純に増やした場合、けい線などの書式情報を維持できず後で書式の修正をする手間が増えることがあります。このような結果にならないように、行や列を拡張する可能性のあるワークシートは「遊び」の空行や空列をあらかじめ設けておくと、書式情報を編集する作業を軽減できます。
(3)「Excel方眼紙」はあるべき姿か?
Excelの編集作業では「1セルに1情報」が基本です。数式や値は1つのセルで1つの情報を表現しておくのが、加工を容易にする上での大事なポイントになります。表示の面では「セルを結合」で例外的に「複数セルに1情報」を表現できますが、行や列の追加に対して柔軟に対応することが難しくなります。
文字の入力については文章の長さによって使うセルのサイズを考える必要がありますが、極端に長い文章を1つのセルに入力すると視認性に問題が出てきます。かといって、文章情報を複数のセルに分割して入力していくとその後の加工作業に支障が出てきやすいため注意が必要です。
極端なケースになると、原稿用紙のように細かくセルを分割してあたかも方眼紙のようにワークシートを使うことがあります。いわゆる「Excel方眼紙」です。
この「Excel方眼紙」、筆者の周りでも愛用するユーザーが少なくないのですが個人的にはお勧めしません。なぜなら、
- セルサイズを実質的に変更できないため加工が不便
- ワークシートのレイアウトに制約ができて拡張性が損なわれる
といった問題が出てくるからです。
1つのセルにどこまでの情報を盛り込んでいくべきか、あらかじめガイドラインを決めてから作業するのが望ましいでしょう。
(4)シート間参照は不整合の原因?
1つのワークブックファイルに複数のシートを作成することが多いかと思います。この場合、ワークシートに設定している値や数式をワークシートに参照する(いわゆる「シート間参照」)というテクニックが多用されています。
この「シート間参照」は使えば使うほど便利なものですが、あまり多用しすぎるとデータと数式の関連を把握することができず、ワークブックファイルがブラックボックス化してしまうことがあります。またワークシートの値を修正した結果が他のシートにおよび、数式の不整合を起こすケースもあり得ます。便利なテクニックでも、過度に頼りすぎないように注意しましょう(Excelのブラックボックス化の問題点について、詳細については第2回で解説します)。
以上、経理業務とExcelの関係について概略を説明しました。
連載第2回では
- Excelがブラックボックス化する理由
- Excelベースの業務をどう最適化するか(属人化からの脱出)
- スプレッドシート統制の向上と内部統制の関係
- 表計算ソフトで実現するIFRS対応
を取り上げ、財務経理業務におけるExcelの活用について解説します。
原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役 公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
大手監査法人にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識と会計/IT領域の豊富な経験を生かしたコンサルティングに多数従事する。著書「IFRSのきほんがわかる本」をはじめ、翻訳書やメディア連載実績多数。
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