【IFRS】ホントを知りたい! 話題の会計キーワード【第3回】
すいすい分かる!? 消費税増税
2014年にも予定されている消費税の増税。この増税は企業の経理処理にどのような影響を及ぼすのでしょうか。経理部の久保田君と橋本マネジャーが消費税の基本から「95%ルール」の変更まで分かりやすく解説します。
久保田祐都君の目の前の席は今日も誰もいません。経理部の先輩で、その席にいるはずの橋本奈保子マネジャーは先週から出張です。橋本さんはここ2年ほど海外子会社の立ち上げに関わっており、年に何回か海外に出張しています。その間、久保田君は橋本さんからの宿題を渡されるのです。今回は消費税。消費税が増税された場合に、どのように会社に影響があるのかいろいろと調べていました。
「消費税のポイントを理解できる資料……橋本マネジャー、何に使うつもりなのだろう」
「こんにちは」
そこに現れたのは、コートを手に持った橋本マネジャーでした。
「東京は暑いですね」
「いや、この冬一番の寒さなのですが……」
そういえば、橋本マネジャーは今回ロシアに出張なのでした。
「来月はブラジルですからねー。あっちは真夏ですね」
世界中を駆け回る橋本マネジャー、昨年の今頃はタイの洪水の対応で出張していたなあ……。でも、出張先の話は本題ではありません。久保田君は本題の消費税の話に戻そうと一言口をはさみました。
「消費税の宿題なんですけど……」
「初めての人にも分かりやすい、消費税の仕組みを説明する資料とのことだったはずですが、一度説明してもいいですか?」
「待って。その前に暑いからお茶を買ってきます!」
消費税の滝登り 〜消費税が地方自治体に着くまで〜
消費税は文字通り、消費した時に消費者が負担する税金です。買い物をする際に、買い物をしたお店に消費税を支払います。税金だからお店のとり分ではなく、お店は国に納税するのです。
さて、お店はどうやって納付するのでしょうか?
お店や会社は、単純にいえば、受け取った消費税から支払った消費税を差引した差額を納税しています。受け取った側の消費税の方が多ければ納付、支払った側が多ければ還付です。
この図のように、消費者に届くまでに関わる会社の納付額の合計値は、消費者から受け取った消費税と理論上は一致します。消費税は受け取ったお店や会社が全て納付するのではなくて、その過程に関わる会社それぞれが納付するのです。
「つまりは、各企業が少しずつ支払って累積されていくんですね。その結果、消費者が払った消費税と企業が納付する消費税が一致するのですね」
「この累積の様子、何となく滝登りみたいですね」
「厳密にいえば、消費者が払った税金を企業が代わりに集金しているのです。これは間接税と呼ばれる手法ですが、企業が業務を負担することになります」
「それでは、企業にとっては税務関係のコストが増えてしまっているのでは?」
「確かにそうなりますね。ただし、増加した人件費などのコストの分だけ利益が減少して法人税も減るので、多少は釣り合っているかもしれませんね」
消費税は還付されることがあります。この代表例は輸出物品を製造する際に発生する輸出免税です。消費税は、日本国内で消費された場合が対象となります。販売先が海外であれば、消費そのものが海外なので、日本の消費税の対象外となります。この場合は、売り上げに対する消費税は0となります。
その一方で、材料の購入などの際に消費税は支払います。先ほど述べた通り、受取った消費税から支払った消費税を差し引いた差額を納付するのですが、輸出物品の場合は差額がマイナスです。その場合は還付されることになります。
なぜ、輸出品には消費税を免税するのでしょうか?
それは海外でも同様の制度があって、輸出先で課税されるからです。日本でも課税して、海外でも課税したら二重で課税することになってしまいます。これを一般に二重課税と呼ぶのですが、課税は単一であるというのが税制の原則。それを避けるための制度です。
「輸出免税には批判もあるようですね。」
「ただ、輸出免税をやめた場合、輸出企業は海外での販売価格に消費税を乗せる必要があります。輸出先でさらに税が課されるとコスト競争という点で厳しくなってしまいます。対策としては工場を海外に出すというのがあります。それだと輸出品自体がなくなるので、それに対する消費税もなくなりますからね……」
「それだと日本から雇用がなくなりませんか?」
「その通りです。だからこそ、輸出免税も簡単ではないのです」
ちなみに、日本の消費税は、消費税と、地方消費税に分かれています。前者が国に納められます。さらに国に収められた消費税の使い道を見てみると、その一部は地方交付税などで、地方に配分されているのです。
それなら、最初から地方消費税の率を高めに設定しておけばよいのではないでしょうか。
もし、国に収める消費税の率を下げ、地方消費税の率を上げたとしましょう。
消費税を多額に納めるのは高所得者や消費が旺盛な世代と考えられますから、消費税を全て地方税にした場合、結局は高所得者や若い世代の多い都市部に集中することが予想されます。
交付金は所得の再分配という側面もありますが、地方消費税の率を上げたことで地方にいく消費税が減少してしまうのであれば、目的が果たされず失敗となってしまいます。
これに限らず、消費税の使われ方という視点も、消費税を払う側として理解しておきたいものです。
95%の衝撃 〜売り上げに対応する費用とは〜
さて、実際の消費税の納税に当たって、その計算はどう行うのでしょうか。先ほど述べた通り、大きくは受け取り側と支払い側の2つに分かれます。
まずは受取分の消費税の計算を見ていきます。
受け取り側の消費税は、企業の売り上げを以下の3つの区分に分けていきます。なお、この売り上げは消費税法における売り上げです。
- 課税……商品の販売やサービスの取引
- 課税対象外……海外での取引など
- 非課税……利息収入や土地の売却など
このうち、課税売上に該当する金額の本体価格に4%をかけて、国税分の消費税を計算します。
次は支払い側です。こちらは2種類の方法があります。まずは、難しい方から。こちらは個別対応方式と呼ばれるのですが、支払った消費税を3種類に分解します。
- 課税売上に対応する仕入れに対する消費税……(1)
- 非課税売上に対応する仕入れに対する消費税……(2)
- 課税売上・非課税売上両方に共通する仕入れに対する消費税……(3)
この3つに分けた後、以下の数式で計算します。
仕入税額=(1)+(3)×課税売上割合
もう1つは一括比例配分方式と呼ばれ、支払った消費税に課税売上割合をかける方法です。
仕入税額=支払った消費税[(1)+(2)+(3)]×課税売上割合
計算された結果を仕入税額として、受け取り側から差し引いて消費税の納税額を計算します。そして得られた消費税の納付額に25%、全体の1%を地方消費税として計算し、合わせて5%分を納付しています。
「ただし、この計算方法には特例があり、課税売上の割合が全体の95%を超える場合は、支払った消費税の全額をマイナスできるということができました。そのため、非課税売上に対応する仕入れに対する消費税の分は企業にとっての益税となっていました」
「理屈としては、正確に計算しても、結果の納付額にあまり影響がないことから、企業の事務負担の軽減を狙ったものですかね」
「恐らくは、そうだと思います」
久保田君はさらに説明を続けます。
「その95%ルールですが、対象範囲に大幅に制限が課されることになりました。課税売上が5億円超の会社は、この95%の対象外になったのです」
「その結果、そのままでは一括比例配分方式でしか仕入税額控除を計上できません。95%ルールの対象となる会社の場合、非課税売上は預金利息や土地の売却がほとんどで、その非課税売上に対応する仕入れの金額は売り上げに比べると小さくなってしまいます。仕入税額控除の金額が大きく減ることになるため、コストをかけてでも、仕入を区分することになりました」
「製造業や小売業といった企業の多くでは、仕入れ区分の必要がなかっただけに、仕入れそのものの分解や、会計システムの変更といった問題に頭を悩ませているようです」
「特に会計システムについては、現行の業務フローや、会計システムが95%ルールを前提にしていると、通常ルールに対応するには、業務フローや会計システムを変更する必要がありますね」
「そもそも変更の理由が税務対応であり、対応に手間をかけることそのものが、企業における負担になります。会社によってはシステムの予算を取るのに一苦労ということもあるようですね」
95%ルールの縮小は、必ずしも会計システムの変更を行うものではないのですが、システムの改修費用や新しい業務フローを作るという業務負担は大きいものと考えられます。
このように税制の改正によって、世の中の多くの企業が影響を受けるのです。
ただし、この95%ルールの縮小は、もともと課税売上の割合が低い業種、例えば銀行や不動産業の会社はあまり影響がなかったようです。これらの業種では、利息収入や土地の売買といった非課税の売り上げが継続的にあるために、課税売上割合が95%となることがありません。そのため、従来は通常ルールでの申告を前提に業務を組み立てていたからです。もっとも次の消費税改正では大きな影響が考えられています。
企業が負担する消費税 〜10%に苦悩する車いすメーカー〜
最初に述べたように、企業にとっては消費税の税率が変わっても、受け取りと支払いで消費税は相殺されますし、大きな影響はないと考えられます。ただし、それはあくまで課税対象の商品やサービスの場合です。これが、非課税となる商品やサービスを提供する場合には大きく変わってきます。
そもそも非課税の商品やサービスとは何でしょうか? 次に列挙していきます。
- 土地の譲渡および貸付け、住宅の貸付け
- 有価証券等の譲渡
- 預貯金の利子および保険料を対価とする役務の提供等
- 外国為替業務に係る役務の提供
- 郵便切手類、収入印紙、収入証紙、商品券、プリペイドカード等の譲渡
- 国等が行う一定の事務に係る役務の提供
- 助産、社会保険医療の給付等
- 介護保険サービス、社会福祉事業等によるサービスの提供
- 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供
- 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け
- 学校教育、教科書の譲渡
上記のように、金融や不動産、医療・福祉の分野に関わることが多いです。これらの項目は、消費税になじまない(利息や土地)、または政策的(医療や教育)で非課税となっています。
非課税取引の商品やサービスにとって増税はどのような影響があるのでしょうか? 車いすを例に、課税売上と非課税売上の双方の場合を比較してみましょう。
車いすの販売を課税売上とした場合、売り上げや費用は本体価格で計算することになります。また、消費税は課税売上と課税売上に対応する課税仕入れですから、受け取った消費税から支払った消費税を引いた差額を納税することになります。
車いすの販売を非課税売上とした場合は、その課税仕入は非課税売上に対応する仕入になるので、その消費税はそのままコストになってしまいます。
実際に車いすはどちらの扱いになるのでしょうか。最初に非課税取引として列挙した中に『一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け』とあります。車いすはこの中に含まれるのです。そのため、車いすは非課税売上となり、材料や経費にかかる消費税は仕入税額控除の対象にならず、現在はそのまま費用として認識されているのです。
ここで、消費税が5%から10%に上がったとしましょう。その場合に非課税取引の場合の変化をまとめたのが次の表になります。
まず、本体価格については消費税の前後で変化はありません。しかし、材料や経費といった仕入れに対する消費税は増税に伴い、金額は2倍になっています。そのため、非課税売上については、そのまま増税分はコスト増になります。
「ということは、車いすメーカーが製造原価をそのまま販売価格としていたら、消費税の増税で赤字になりますよね。その赤字分は車いすの販売価格に転嫁するのでしょうか?」
「メーカーも苦渋の決断でしょうね。車いすの値段を上げるしかないでしょう」
「消費税が関係ないはずの会社の製品が消費税増税で値上げ……」
「違和感があると思いますが、そうなるでしょうね」
同じようなケースは今後、銀行や不動産、病院などで増加することが考えられます。非課税の商品やサービスは、先に上げた通り、利息収入、土地の販売、医療サービスが対象になっているからです。
消費税を10%に上げる場合の企業に対する影響としては、スーパーマーケットやデパートのような小売業では、消費税増税により売り上げが減るという懸念は報道されていますが、それだけではなく、消費者からは見えないところにも影響を与えるのです。
「説明ありがとう。上手にまとめられています。なかなか楽しい内容でしたよ」
「お褒め頂きありがとうございます! でも、この資料は何に使うのですか?」
「この資料は引継ぎ用の資料ですよ。だって、久保田君、来月からシンガポールの子会社に出向でしょ?」
「えっ」
橋本マネジャーはしまったという顔をしました。
「まだ部長から聞いてなかったんだ……。ごめんね。でも、久保田君、マーライオンを見たいって言っていたので部長に推薦したんですよ」
「マーライオンは旅行で見るつもりで言ったのですが……」
「シンガポールはいろいろな会社の拠点が集まるビジネスの拠点ですよ。きっとキャリアにプラスになります!」
「それに、シンガポールの子会社には優秀な方がそろっていますし、財務部長は美人と評判……」
「そうですよね! 楽しみです!」
異動は突然でした。でも、久保田君はシンガポールを楽しみにしているようです。
橋本マネジャーと久保田君から知る「ホントを知りたい! 話題の会計キーワード」は今回で最終回です。彼らにまた会えるかもしれないその時まで、さようなら!
高野裕郎(たかの やすお)
事業会社経理、公認会計士試験合格者
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