医師の54%が仕事をつらいと感じている
電子カルテで疲弊する医師の燃え尽き症候群をいかに減らすか、医療ITベンダーの挑戦
米国の医療業界では、医療の質に関する報告義務、過剰な仕事量、そして「EHR(電子カルテ)疲れ」が、医療従事者の「燃え尽き症候群」の原因になっている、と専門家は考えている。
米国では電子カルテ(EHR)が、医師の燃え尽き症候群(注1)の大きな原因と見なされている。
※注1 強い使命感や責任感を持って、献身的に業務などに取り組んだ人が、期待した結果が得られなかったことに徒労感や欲求不満を覚え、極度の疲労と感情枯渇の状態に陥ること。
EHRベンダーathenahealthのCEOジョナサン・ブッシュ氏は、医師の燃え尽き症候群と過労の問題を親身になって考えている。だが、当然かもしれないが、ブッシュ氏はその原因がEHRにあるとは考えていない。
医師の燃え尽き症候群は、医療現場が大規模な医療ITシステムに丸ごと飲み込まれてしまうことで自律性が損なわれ、医師がフラストレーションを溜め込むことが主な要因だと同氏は考えている。
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変化する人事管理テクノロジーのトレンド
athenahealthのCEOが問題視する「医師の燃え尽き症候群」
2018年5月6~9日に米国ラスベガスで開催したヘルスケアのイベント「HLTH:The Future of Healthcare conference」の基調講演で、ブッシュ氏は次のように語った。「これは大きなテーマだ。特に弊社にとっては、事業利益と医師の境遇の双方にメリットをもたらす重大なテーマだ。医療現場をシステムに売り渡した時点で、日常業務の多くの仕事に医師の自由裁量権がなくなった」
ブッシュ氏をはじめ、医師の燃え尽き症候群に注目するメンバーは、政府から膨大な量の医療品質管理報告書の提出義務が一度に振りかかることも大きな要因の1つに挙げている。多くの場合、こうした報告書は有意義に利用されており、現在はMIPS(Merit-based Incentive Payment System、注2)のようなプログラムでも活用されている。医療データの相互運用性が弱まると、こうした活用も難しくなる。
※注2 メディケア(高齢者と体が不自由な人を対象とした米国の公的医療保険制度)における、成果型報酬支払制度。診療上のパフォーマンスをスコアリングし、支払額に加算または減算をする。
EHRとエンゲージメントの欠如が引き起こす疲弊
もう1つの要因として、テクノロジーの変化が急激過ぎると医師が感じている事実がある。その結果、athenahealthなど数社のEHRベンダーが、医師の重圧を和らげるためにEHRのユーザーインタフェース(UI)とワークフローを再設計する計画を打ち出している。だが、問題の根源にEHRの存在自体を指摘する専門家も少なくない。
従業員エンゲージメント(組織への関わり)に関するソフトウェアの主要ベンダーLimeadeは、燃え尽き症候群の原因は医師のエンゲージメントが欠如していることではないかと関心を寄せている。人事(HR)テクノロジー分野から発足した同社は、医療従事者の燃え尽き症候群に関するコンソーシアムを結成している。
athenahealthの主力市場が医療現場であることから、業界再編をけん引するブッシュ氏の立場は利己的と見なされるかもしれないが、著名な医学研究者も同氏と同じ見解を抱いている。
HLTHでブッシュ氏は、医師の54%が仕事をつらいと感じているというMayo Clinicの調査結果を何度も引用した。
医師の燃え尽き症候群に関するMayo Clinicの専門的取り組み
医学博士リスロッテ・ダイビー氏は、Mayo Clinicで熟練の研究者として、医師の燃え尽き症候群に関する独自の研究に携わっている。同氏は「医師は自律性の欠如を自覚している」というブッシュ氏の見解に同意した上で、EHRにも原因があるとしている。
「職員の50%が実際に燃え尽き症候群の症状を抱えている。これは事実上、システムレベルの問題を反映している。EHRは間違いなく1つの要因だ。医師は患者と1時間向き合うたびに、EHRに2時間費やすことになる」(ダイビー氏)
「EHRは本来、医療請求システムから発展しており、そもそも臨床医への適用には無理がある」とダイビー氏は指摘する。
ただし同氏は、athenahealthのように問題点に注意を払っているEHRベンダーを称賛している。EHR業界の競争は有益であり、医療分野のユーザーにとって本質的な改善につながる可能性があると話す。
医師の燃え尽き症候群を引き起こすその他の要因としては、過剰な仕事量や、慢性疾患を抱えるベビーブーム世代の患者が症状や複合的な合併疾患に敏感になっている問題が挙げられる。
「医療現場での仕事量、仕事の需要、効率に問題がある」(ダイビー氏)
Mayo Clinicはこれまで、医師の健康チェック指標アプリなど、問題に対処するためのさまざまな戦略やツールを開発してきた。
医療ITシステムをターゲットにするHRテクノロジーベンダー
医療の市場で大規模組織に従業員エンゲージメントと健康管理ソフトウェアを販売するLimeadeのCEOヘンリー・アルブレヒト氏は、「医師の燃え尽き症候群という課題にはビジネスチャンスが潜んでいる」とHLTH会議で話した。
「大規模な医療ITシステムや、病院が直面する一番の課題は、医療従事者の燃え尽き症候群だ。燃え尽き症候群は世間が注目するトピックだが、医療分野ほどこの問題が深刻な現場はない。問題は、医療従事者が燃え尽きてしまった結果、患者の予後に影響を及ぼすことだけではない。医療分野を完全に去ってしまうことこそが問題だ」(アルブレヒト氏)
Limeadeではコンソーシアム活動に加えて、最近では、エンゲージメントダッシュボードツールに燃え尽き症候群リスクのインジケーター機能を導入した。医療従事者の燃え尽き症候群、不信感、非効率にみる仕事関連のストレスと、燃え尽き症候群のマニフェストを示した研究結果を発表した。
Limeadeの「燃え尽き症候群グラフ」では、機械学習ベースの動向調査から得られるデータを基に、燃え尽き症候群リスクを抱えるエンゲージメントの高い医療従事者の人数を計算し、リスクが最も高い者をフィルターで抽出する予測分析を採用している。
Limeadeのシステムではさらに、リスクが最も高い医療従事者向けに、睡眠状態、ワークライフバランス、健康促進アクティビティーに関する情報を提示する。
アルブレヒト氏は、医師の燃え尽き症候群を引き起こす要因としてEHRやテクノロジーを重要視してはいない、しかし一方で、創業間もないあるEHRベンダーは、医師の燃え尽き症候群リスクを認識し、クリックや入力を最小限に抑えたUIをビジネスモデルの基本としている。
新しいベンダーが売り込む、より使いやすいEHR
「Modernizing Medicineは医療業界に特化した企業で、当社のクラウドおよびモバイルベースのEHRは、表示画面を追う目の動きのトラッキングなど、医療従事者の仕事のやり方を分析して開発している」と語るのは、ユーザーエクスペリエンス(UX)を監修したアンドリュー・シャール氏だ。
従来のEHRには「UXの負の遺産」が散見される。システムを更新しても、既に不要になった古い機能やナビゲーションボタンが表示され続けるというのがシャール氏の見解だ。
EHRベンダーが使いやすさやユーザーエクスペリエンスに注目するのは、当然ながら、ユーザー中心の設計が現代の潮流にあるためだ。このアプローチは、決して医療分野に限ったことではない。
「だが、従来の医療では事実上、ユーザー中心の設計手法は採用されてこなかった。残念ながら、ほぼ開発中心の手法を採用していた」(シャール氏)
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