被害額52億円の教訓

なぜアスクルは狙われた? AI時代の攻撃から身を守る「ゼロトラスト」移行術

2025年にアスクルを襲ったランサムウェアは甚大な損失をもたらした。その初期侵入を許したのは、高度なハッキング技術ではなくMFAが設定されていないアカウントだ。EDRだけでは防ぎ切れない脅威にどう対抗すべきか。

 サイバー攻撃のスピードが劇的に変化している。セキュリティベンダーSophosが、2024年に扱ったインシデント事例413件のデータを分析してまとめた「2025年版ソフォスアクティブアドバーサリーレポート」によると、攻撃者が企業ネットワークに侵入してから滞留する時間の中央値はわずか2日だ。ID・アクセス管理システム「Active Directory」の権限を奪取するまでに11時間、データ窃取まで約3日という短期間で被害が拡大する。この背景には、AIツールを活用した攻撃プロセスの自動化がある。

 企業のセキュリティ対策の主流であるEDR(Endpoint Detection and Response)ツールも万能ではなく、攻撃者は無効化ツールを用いて容易に監視をすり抜けてしまう。サイバーセキュリティ教育や侵入テストを手掛けるトライコーダで代表取締役を務める上野 宣氏は、「100%の防御は不可能だ」と指摘した上で、「『割に合わないターゲット』になることが最良の防御」だと説く。

 ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)の被害に遭えば、事業の全面停止や数十億円規模の特別損失を計上する事態に発展しかねない。多層的な防御を構築して攻撃者の時間と労力を増大させ、「この企業は狙う価値がない」と攻撃者に判断させることが重要だ。既存業務への影響を最小限に抑止しながら、どのような手順で防衛網を再構築すべきか。

“MFA未設定のアカウント”から広がる攻撃

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