「新ツールは使わない」現場の抵抗を乗り越える
「紙とExcel」の山から脱出 情シス3人で3000人が使うシステムを動かす福山通運
全国から集まるExcelファイルの集計作業と、現場に残る紙の回覧。こうした「アナログの負債」は情報システム部門の時間を奪い続ける。福山通運は、わずか3人でこの負債をどう断ち切ったのか。
各地に拠点を持つ企業において、現場から上がってくるデータの集計は情シスや本社部門にとって頭の痛い問題だ。各拠点が独自のフォーマットで入力した「Microsoft Excel」ファイルが飛び交い、それを手作業で集約する作業は、膨大な工数を消費するだけではなく、経営の意思決定を遅らせる要因となる。
全国約400拠点で同様の課題を抱えていた福山通運では、営業活動の進捗(しんちょく)管理を、全国の拠点から送られてくるMicrosoft Excelファイルを手作業で集計、加工していたため、週次や月次でしか状況を把握できなかった。現場のフォークリフト乗務承認には紙の回覧と安全管理部の押印が必要で、承認まで約1週間のロスタイムが発生していたという。人手不足が叫ばれる物流業界において、こうしたアナログな運用による現場の稼働ロスは、企業の競争力低下に直結する。
この状況を打破したのが情報システム部だ。わずか3人の主要メンバーで、3000人規模が利用する新たなシステムを構築することに成功した。多額の外部委託費をかけず、彼らはどのようにして現場のニーズをシステムに反映し、短期間で定着させたのか。
「まず作ってみる」が現場を変える――情シス主導のDX戦略
福山通運は、ペーパーレス化と業務効率化を目的に、ジャストシステムのノーコードクラウドデータベース「JUST.DB」を採用した。2026年5月19日、ジャストシステムが発表した。全国約400拠点の情報共有をリアルタイム化し、意思決定の迅速化と現場の機動力向上につなげる。すでに主要メンバー3人で3000人規模が利用するシステムを構築しており、フォークリフトの乗務承認にかかる時間を7分の1に短縮するなどの成果が出ている。
福山通運は、全国約400の物流拠点を展開し、企業間物流を中心に貸切輸送や国際物流など多角的な事業を運営している。同社では、従来の紙ベースや手作業中心の運用が情報共有や業務のスピードアップを阻害していることが課題となっていた。中期経営計画(2024~2026年度)でDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を掲げる中、現場のアナログな運用を打破し、迅速かつ正確なデータ活用を実現するためのデジタル化が急務となっていた。
製品の選定に当たっては、2024年12月に検討を開始した。複数の製品を対象に約1カ月間のトライアルを実施し、使いやすさ、管理性、費用などを総合的に比較した。その結果、プログラミングの知識がなくても構築できる直感的でユーザーフレンドリーな操作性に加え、全国拠点での活用を想定した際に初期導入や保守にかかる費用を抑えられる同時ログインライセンスの料金体系が魅力となり、JUST.DBの採用を決めた。
2025年2月にJUST.DBの契約を締結し、同年4月に利用を開始した。開発は情報システム部の主要メンバー3人が中心となり、内製で進めた。従来の紙資料やMicrosoft Excelを用いた方法をそのまま再現するのではなく、デジタル化に適した形へと業務フローを見直しながら、段階的な導入とトライアル運用を実施した。週1回、ジャストシステムの担当者とWeb会議で画面を見ながら相談できるサポート体制を活用したことで、初期の試作は1カ月足らずで完了した。現場の課題解決に特化して開発したため、導入時の詳細な説明もほぼ不要だった。
導入後は、営業やロジスティクスの案件管理、契約管理、日報、端末・備品管理など多岐にわたる業務アプリケーションを展開している。特に2025年6月にリリースしたフォークリフト乗務上申アプリケーションでは、従来は紙の回覧や安全管理部の押印によって承認まで約1週間要していたプロセスが1日に短縮された。同年12月にはドライバー乗務上申アプリケーションの利用も開始し、月間数百件規模の申請処理を効率化している。これによって、技能を習得した社員が実稼働するまでのタイムラグを最小限に抑え、現場の機動力を高めている。
営業活動の進捗管理でも効果が上がっている。従来は全国400拠点から送られてくるMicrosoft Excelファイルを手作業で集計、加工していたため、本社の作業負荷が高く、状況も週次や月次でしか把握できなかった。JUST.DBへの集約後は、営業進捗がリアルタイムで可視化され、迅速な施策の共有が可能になった。集計作業から解放されたことで、現場の負担軽減や新たな気付きの創出にもつながっている。
2026年5月現在は約400拠点の約3000人がシステムを利用しており、他部署からも活用の要望が寄せられている。福山通運 情報システム部部長の石川 亮氏は、「ノーコードのスピード感で試行錯誤やカスタマイズができることが変化のきっかけになっている」と述べる。その上で、「売り上げ向上やコスト削減に貢献できる情報システム部門として、今後も活用の裾野を広げていきたい」と話している。同社は今後、申請業務などの対象範囲拡大や、現場主導でのアプリ構築を見据え、取り組みをさらに加速させる。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「福山通運、400拠点の物流業務を効率化 承認時間7分の1に短縮」(2026年5月19日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー