ジャーナリストが追った闇の現場
「サイバー犯罪株式会社」に潜入 現地調査で判明した“犯罪者求人”の実態
英紙記者の現地取材で、東南アジアを拠点とする犯罪組織の企業化が判明した。豪華な施設と劣悪な寮が同居する現地拠点を取材し、浮き彫りになった国家機能まで巻き込む犯罪構造とは。
企業を狙うサイバー脅威は、単独犯から高度に組織化された多国籍犯罪へと構造的な変化を遂げている。現場のIT担当者は、従来の境界防御だけでは対処し切れない複雑なサイバー攻撃に直面している。
こうした中、英紙『The Economist』のジャーナリストであるスリン・ウォン氏は、東南アジアを拠点とするサイバー犯罪組織の実態を現地で調査した。セキュリティ企業であるInfobloxの調査結果によると、カンボジアの詐欺拠点から世界規模でマルウェア攻撃が展開されている。同社のソフトウェアを利用した悪意のあるクエリ数は、2025年3月から2025年4月の1カ月の間に、40万件から180万件へと急増した。
この数値は、経済誌『Fortune』が発表する企業の売上高ランキング「Fortune 500」に名を連ねる大企業を中心としたデータであり、実際の被害規模はさらに大きいとみられる。背後にはどのような犯罪エコシステムが存在するのか。
“サイバー犯罪株式会社”の内部はこうなっている
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大規模化するサイバー犯罪
2026年4月開催のセキュリティカンファレンス「Black Hat Asia 2026」のセッション「Inside Cybercrime Inc: Lessons From Covering the Global Fraud Boom」に登壇したウォン氏は、現地での綿密な取材を基に、サイバー犯罪の高度な組織化について解説した。
サイバー犯罪組織は独自の技術的アプローチとして、「Telegram」などのメッセージングアプリケーションを介してマルウェアを売買する「Malware as a Service」(MaaS)を採用している。チャットbotの統合やディープフェイクを活用した音声ツール、顔認識システムを回避する手段など、AI技術も攻撃の各段階に組み込まれている。
攻撃のプロセスは多層的であり、ISP(インターネットサービスプロバイダー)や通信事業者から始まり、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を経てメッセージングアプリケーションへと被害者を誘導する。「詐欺チェーン」が形成されており、各段階が細分化されているため、被害者が全体像を把握し、警察に通報することは極めて困難だ。背後にはカンボジアやフィリピンなどに構築された巨大な犯罪施設が存在し、巨大なプールや地下トンネルを備えるなど、物理的なインフラも堅牢(けんろう)に整備されている。
こうした高度な攻撃に対し、企業が自社の防御戦略を根底から見直す理由として、犯罪組織が多国籍企業のような構造を持ち始めている事実が挙げられる。現代の犯罪組織は、単独のボスが支配するピラミッド型ではなく、機能ごとに分散化されたネットワーク型組織として稼働している。内部には、有能な人材を世界中から勧誘する人事部門、資金管理を行う財務部門、最新の攻撃技術を研究するR&D(研究開発)部門が存在する。大卒で複数言語を操るといった優秀なスキルを持つが、仕事が見つからず苦しんでいる若者に対し、平均の数倍の報酬を提示してサイバー犯罪の実行役として雇用している。
実際にその脅威は、グローバルな経済システムに深刻な打撃を与えた。一例として、米国カンザス州の地方銀行では、CEO自身が東南アジアを拠点とする詐欺の手口に陥り、自身の銀行から4700万ドルを不正に流出させ、結果的に銀行を破綻へと追い込んだ事例がある。企業のIT担当者は、攻撃側が潤沢な資金と優秀な人材を擁する「Cybercrime Inc」(サイバー犯罪株式会社)として活動している前提に立ち、システム構成やインシデント対処計画を策定する必要がある。
従来のアプローチとの決定的な差異は、犯罪の主体が単独の攻撃者から、複数の業務ラインを並行して運営する分業制の犯罪シンジケートへと移行した点にある。従来のロマンス詐欺(偽の身分や架空のプロフィールを用いて標的に近づき、恋愛関係に発展してから金銭をだまし取る詐欺)や投資詐欺に加え、マルウェア部門を新設してマルウェア攻撃をさらに多角化、大型化している。
これらの組織は一部の国家機能を取り込む「詐欺国家」(Scam State)化を進めている。フィリピンの地方都市バンバンでは、アリス・グオ元市長の関与が疑われる巨大な詐欺施設が摘発された。この施設は高級プールや地下トンネルを備えたテクノロジーパークのような外観を持ち、数百人の人員が収容されていた。タイの国際空港における税関職員の買収や、カンボジアでのパスポート売買など、現地の政治やビジネスのエリート層を巻き込んだ腐敗ネットワークを利用している。単なるマルウェア攻撃ではなく、人身売買や資金洗浄を組み合わせた複合的な脅威を形成している点で、従来のサイバー攻撃とは技術的・運用的なスケールが大きく異なる。
先進国へと拡大する標的と、求められる抜本的対策
今後の展望として、攻撃の対象はさらに高度化かつ広範化するとみられる。ベトナムのサイバーセキュリティ専門家であるヒュー・ミノ氏の調査によれば、ある犯罪グループは標的のシステムにスパイウェアをダウンロードさせ、1日当たり50万ドルを盗み出している。税務署の新たな税制を装うなど、標的に合わせたテーラーメイド型のマルウェア攻撃により、個人だけではなく企業も直接的な標的となった。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)のジェレミー・ダグラス氏は、犯罪組織が途上国でマルウェア攻撃のテストと最適化を実施した後、より洗練された先進国市場へと標的を拡大すると予測している。当初は途上国で被害が目立っていたロマンス詐欺が、手法の完成とともに全世界へと拡大したのと同様の道筋をたどる可能性が高い。組織化され、AI技術やMaaSを駆使する犯罪ネットワークの拡大に対し、企業はあらゆるオンライン情報を潜在的な脅威と見なすゼロトラストセキュリティの構築に向け、対策の適用拡大が急務となっている。
本稿は、Black Hatが2026年8月14日に公開した動画「Black Hat Asia 2026 | Inside Cybercrime Inc: Lessons From Covering the Global Fraud Boom」を基に作成しました。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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