MetaやMicrosoftも直面
「恥を知るべきだ」 AIデータセンター反対運動を招いた事業者の秘密主義
新たなAIデータセンターの建設に伴う電力浪費や騒音への懸念に対して、データセンター事業者の説明不足や秘密主義が批判を浴びている。失われた信頼は取り戻せるのか。
これまで目立たない存在だったデータセンター業界が、各地で巻き起こる建設計画を巡る対立を通じて、思わぬ政治的注目の的になった。施設の拡張や新設が計画されている自治体の住民は、冷却用水の大量消費や非常用発電機による大気汚染、騒音、二酸化炭素の排出に懸念の声を上げる。電気料金の値上げへの不安や、データセンターが地域に長期的な雇用をもたらすのかを疑問視する見方も根強い。
新設推進派からは、データセンターがもたらす税収が自治体財政を潤すという主張や、AI開発で中国などの競合国に後れを取る危機感も訴えられている。しかし、建設の阻止や規制を求める住民運動の圧力は強まる一方だ。
なぜ数十億ドル規模のインフラ投資が「たった1つの地域の反対」で頓挫するのか。データセンター事業者やアドバイザーが明かす、「地域の許諾」を巡る生々しい現実と失敗談を取り上げる。
秘密主義を貫く事業者は「恥を知るべき」
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データセンター業界の動向
2026年9月に開催されたカンファレンス「Yotta 2026」のパネルディスカッションでは、データセンター事業者やアドバイザーが集まり、この課題について議論を交わした。セッションの進行役を務めたiMiller Public Relationsの創業者兼CEOのイリッサ・ミラー氏は、議論の口火を切って次のように指摘した。「AIインフラの制約は、電力や土地、資金、設備だけではない。地域の許諾こそが制約であり、業界はそれを自ら勝ち取る努力を怠っている」
セッションでは、パネリスト4人全員が「データセンター業界は地域住民への適切な働き掛けを怠ってきた」との見解で一致した。
ITインフラ業界の非営利団体Infrastructure Masons(iMasons)でCEOを務めるシル・メルセデス・キニョネス氏は、「従来の姿勢のままではこの苦境を打開できない」と訴える。同団体は2021年にデータセンターの持続可能性に関する指針を公表し、2022年には気候変動協定「iMasons Climate Accord」を立ち上げた。
キニョネス氏は、業界の主張を一方的に押し付けるのではなく、住民と真摯(しんし)に向き合う重要性を説く。「時間をかけて謙虚に耳を傾け、双方が恩恵を得られる道を共に探る姿勢が不可欠だ」(同氏)
データセンター事業者を支援するAppleby Strategy GroupでCTO(最高技術責任者)兼マネジングパートナーを務めるダニエル・ゴールディング氏は、「秘密主義を貫く事業者が事態を悪化させている」との見解を示す。特に自治体の首長に秘密保持契約(NDA)の署名を迫る事業者の手口は極めて悪質だと同氏は糾弾する。
「自治体を威圧して密室での画策を疑わせる行為は、データセンター業界全体に損害を与える。恥を知るべきだ」(ゴールディング氏)
飛び交う「誤情報」の霧を晴らせるか
パネリストは、自治体のリーダーが反対運動の圧力に屈して建設計画を規制・阻止する前に、データセンターがもたらす恩恵を考えるべきだと主張した。誤解や誤情報が原因で頓挫する計画が見受けられるためだ。
経済アナリスト企業Mangum Economicsの創業者兼CEO、フレッチャー・マンガム氏は、誤情報の払拭が急務だと指摘する。データセンターは税金を払っていないと思い込んでいる住民は珍しくなく、コミュニケーションの溝を埋めなければいけない。現実は住民が思っているのとは正反対で、地方自治体に固定資産税をもたらすデータセンターは貴重な財源になり得る。
マンガム氏によると、バージニア州北部ではデータセンター企業が2025年だけで13億ドルの地方税収を生み出した。ルイジアナ州リッチランド郡ではMeta Platformsのデータセンター建設に伴う増収を原資にして、2026年初頭に公立学校の教員に1人当たり5万ドルの特別手当てが支給された。バージニア州南部のメクレンバーグ郡でも、Microsoftのデータセンター建設によって同様の恩恵が生じている。
データセンター事業者は、データセンターがもたらす経済効果を、自治体幹部や地域住民に分かりやすく伝え、直接届ける必要があるとマンガム氏は訴える。同氏は「反対派による宣伝工作に惑わされ、データセンターやAIインフラが国内総生産(GDP)をけん引する主要因である事実を見失ってはならない」と強調した。
全てのデータセンターはエネルギーを大量消費しているのか
セッション後の取材で、マンガム氏とゴールディング氏は「データセンターが一律に大量の電力を浪費して水を使い果たしている」という見方に反論した。マンガム氏によれば、データセンターは事業予算の半分近くを電気代に充てているという。「電気や水を消費するからこそ事業者は節減に努めており、効率化の先頭に立ってきた」と同氏は話す。
ゴールディング氏も、データセンターによる大気汚染が周辺住民の健康被害を招いているという一部地域の主張に疑問を呈する。同氏は「非常用発電機に使われるガスタービンは自動車と比べても排気がクリーンで、健康被害を示す客観的な調査結果は存在しない」と反論した。
一方で、米国立衛生研究所(NIH)やコロラド州をはじめ、複数の政府機関や研究機関が影響のさらなる調査を求めているのも事実だ。米国電気電子学会(IEEE)が2023年に発表した研究では、データセンターが公衆衛生に及ぼした金銭的影響は、同年では60億ドルと算定。AIインフラの需要拡大に伴い、2028年までに健康被害に関わる費用負担は200億ドルに達すると試算した。
水や電力の消費量にも懸念は残る。ローレンス・リバモア国立研究所の2025年の調査では、施設ごとに水使用量に大きな格差があり、節水を達成する単一の解決策は存在しないと結論付けられた。McKinsey & Companyは2026年9月に発表したエネルギー予測レポートにて、OECD(経済協力開発機構)加盟国で電力消費の伸びが最も著しいデータセンターは、2030年までに世界全体の電力消費量の10~15%を占めると予測した。ただし2030年以降は、AI技術がエネルギー効率を最適化することで、増加ペースが変化する可能性もあるという。
インフラ整備費用を自前で負担する動き
AI向けクラウドサービスを提供する新興企業のLambda Labsは、2026年に米政府が主導した「電力消費者保護誓約」に署名した企業の一社だ。この誓約は、AIベンダーにデータセンターの建設や運用で必要な電力を自ら調達・発電・購入し、エネルギーやインフラの費用を全額自己負担するよう求めている。
Lambda Labsはオクラホマ州ショートーなどの地域でデータセンターを新設する際、送電網の増強費用や光熱費を自前で負担している。同社の共同創業者兼CTOであるスティーブン・バラバン氏は、別セッションで自社の取り組みをアピールした。「当社は電力を自ら持ち込んでいる。送電線や変電所の新設に加え、発電能力の増強費用も自ら負担している」
ただし、無許可の非常用発電機を稼働させて2026年に100万ドルの罰金を科されたData Oneのように、法令違反を起こすデータセンター事業者が存在するのも事実だ。データセンター開発会社Verrusでエネルギーおよび政策責任者を務めるジェフ・ブレイデン氏は、地域再生に寄与する事例もあると指摘する。
ブレイデン氏が挙げたのは、ウィスコンシン州ジェーンズビルの事例だ。同地域では自動車工場の跡地に残された有害廃棄物の浄化を、データセンター事業者が名乗り出て引き受けた。20年間放置されていた汚染土壌を浄化した事業者もいる。「データセンター業界自らが襟を正し、悪質な行為と健全な取り組みの違いを示すべきだ」と同氏は述べる。
「雇用の創出も地域への大きな恩恵だ」とマンガム氏は語る。Mangum Economicsは北部バージニア技術評議会向けに、データセンターの影響調査を2年ごとに実施している。2026年初頭に公表された調査結果によると、バージニア州内だけでデータセンターが直接ないし間接的に生み出した雇用は5万5000人に達した。
「データセンターの建設自体は避けられない。問題はどこに建てるかだ。地域全体で冷静に対話して、責任ある決定をもって前に進まなければならない」(マンガム氏)
対話の失敗と残された時間
技術的な選択に伴う自然への負荷やエネルギー消費のトレードオフを、一般住民に分かりやすく説明するのは容易ではないとバラバン氏は考える。冷却水を削減する空冷方式や密閉循環式を採用すると、電力効率を示す指標「PUE」(電力使用効率)が大幅に悪化する。同氏は「地域のテレビ番組のわずか30秒の枠でPUEを分かりやすく説明しようとしてもうまくいかないだろう」と語る。
パネリストは、データセンターの利点と課題を地域社会に正しく伝える責任は、最終的には地元の政治指導者が負うべきだとの認識で一致した。しかしブレイデン氏によれば、住民の反発が強まり過ぎた結果、データセンター業界に理解を示す首長が「業界の手先」だと見なされる事態も生じている。
ペンシルベニア州ヘイズル郡区の事例では、データセンター建設計画に伴って、事業者が全住民に1人当たり1万ドルの分配金を支払うことを提案した。経済誌『The Wall Street Journal』によれば、一部の住民はこれを「買収工作」と受け取った。
調査会社Moor Insights & Strategyのアナリスト、マット・キンボール氏は住民が抱く根深い不信感を指摘した。「不安に耳を傾けて透明性を高める代わりに、事業者が提示するのは図表と短期間の雇用計画ばかりだ。これでは信頼は得られない」
対立がここまで深まった今日、「地域社会との対話を進めても手遅れではないか」と、ゴールディング氏は危機感をあらわにする。「本来なら2024年に開催すべきパネルディスカッションだった。着手が遅れ過ぎた結果、業界は窮地に立たされている。この危機を乗り切れるかどうかは未知数だ」(同氏)
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