CIOの役割は「現場力をAI時代の競争力へと翻訳する人」へ
CEOの28%が「AIによる中抜き」を警戒 ガートナーが説く「マシンカスタマー」への向き合い方
AIは単なる効率化の手段を超え、企業の存在意義を再定義する触媒へと進化した。8割のCEOが能力の抜本的見直しを急ぐ中、浮上するのはAI同士が取引を行う「マシンカスタマー」という新市場だ。既存の収益モデルが崩壊するリスクを回避し、情シスが「現場力」を武器に自律型ビジネスを主導するためのポイントとは。
「AIで業務を効率化せよ」という上からの指示に、どこか冷めた感情を抱いてはいないだろうか。既存のワークフローにAIを継ぎ足すだけの「デジタル化」の延長線上に、自社の未来はないかもしれない。世界の経営者たちは今、AIを単なるツールではなく、企業の存在意義そのものを書き換える「触媒」と捉え、既存の収益モデルが崩壊する未来に戦慄(せんりつ)している。
本稿では、ガートナーが実施した最新調査から、AIがもたらす「自律型ビジネス」の正体と、CEOの28%が懸念する「収益モデルの消滅」というリスクを浮き彫りにする。さらに、日本企業の情シスが、守りの運用から脱却し、独自の「現場力」をAI時代の武器へと翻訳するための具体的な生存戦略を提示する。
「何をするか」から「どうするか」の変革へ
ガートナーが世界中の469人のCEOおよび上級経営陣を対象に、2025年第4四半期までの3四半期にわたり実施した「CEO and Senior Business Executive Survey(CEO/上級経営陣向けサーベイ)」によると、CEOの80%が、AIによって企業能力に中程度以上の高いレベルの変革が求められると予測している。同社は、従来のデジタルビジネスから、AIエージェントを活用した「自律型ビジネス」への移行が加速すると指摘する。
ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストのドン・シャイベンライフ氏は自律型ビジネスについて、「自己学習型のソフトウェアエージェントやAIエージェントが意思決定を下し、アクションを起こし、組織に新しいタイプの価値を創出する戦略だ」と定義する。デジタルビジネスが組織の「何をするか」に変化をもたらしたのに対し、自律型ビジネスは価値提供のプロセスである「どのようにするか」を根本から変容させるという。
2028年、自動化は「限定的タスク」を脱する
同調査では、自動化の現状と未来のギャップが鮮明になった。現在、CEOの54%が「自動化は特定のタスクへの限定的な導入にとどまっている」と回答しているが、2028年末までこの水準にとどまると予測するCEOはわずか13%にすぎない。
代わって浮上するのが、より高度な自律性だ。CEOの32%は、人間の意思決定を支援する自己学習型・適応型のAIエージェントを導入予定だと回答。さらに27%は、主に人間の介入なしで組織が運営されるようになると予測しており、自律型ビジネスエコシステムへの移行が現実味を帯びている。
ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストのデイヴィッド・ファーロンガー氏は、「CEOはAIが単なる自動化のレイヤーではなく、企業そのものを再構築する触媒であることに気付き始めている」と分析する。仕事の進め方や価値提供の方法を優先する「ケイパビリティファースト(能力優先)」のマインドセットが、これからの経営に必要になるという。
CEOの28%が警戒する「中抜き」のわな
自律型ビジネスへの移行は、効率化という恩恵をもたらす一方で、既存の収益構造を破壊する脅威にもなり得る。CEOの28%は、AIによって最もリスクになり得るのは「収益」だと回答した。
この背景にあるのは、AIエージェントによる「中抜き」だ。AIが購買、価格設定、交渉を自動化することで、これまで取引手数料などでカバーしていた余分な工程や非効率性が排除されてしまう。ファーロンガー氏は、「CEOは利益損失を回避するために、継続性がある顧客成果ベースの収益モデルへの転換を迫られている」と警鐘を鳴らす。
「現場力」をAI時代の武器に翻訳せよ
AIによる変化は、顧客の定義さえも変えようとしている。ガートナーは、2026年末までに「マシンカスタマー(人間ではなく、自律的に取引を行う機械の顧客)」市場へのアクセスを目的とした専任組織を持つ大企業の数が、2024年比で2倍になると予測する。
この潮流に、日本企業の情シスはどう向き合うべきか。ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの松本良之氏は、日本企業が持つ「現場力」こそが最大の資産になると指摘する。
「日本企業の多くは人間顧客を前提とした設計にとどまっているが、自律型ビジネスは、各現場にAIエージェントを実装し、機械同士が自律的に取引する基盤が整って初めて成立する。正確なオペレーションデータと品質管理の伝統は、マシンカスタマーの基盤を築く最大の資産となる。CIOは『システムを守る人』から『現場力をAI時代の競争力へと翻訳する人』へと、大きく転換していく必要がある」と松本氏は強調する。
不可避な自律型の未来に向け、情シスにはオペレーション基盤の再構築と、人材・資産・財務構造の再設計を主導するリーダーシップが求められている。
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