調査で判明
AIツールのせいで無駄になっている業務時間は年間何日?
WalkMeの調査によると、企業の巨額なAI投資とは裏腹に、従業員はシステムを使いこなせず無駄な業務時間が発生しているという。
「生成AIを導入したのに、現場が思ったほど使ってくれない」「AIツールを増やしたのに、生産性向上の実感が薄い」――。こうした悩みを抱える企業は少なくないようだ。
SAP傘下でデジタルアダプションツール(業務用アプリケーション定着支援ツール)を展開するWalkMeは2026年5月15日、「デジタルアダプションの状況 2026」を公開した。調査によると、企業のAI投資は過去最高水準に達する一方で、従業員はAIツールから離れつつある実態が明らかになった。
同調査は、従業員1000人以上のエンタープライズ企業を対象に、14カ国3750人の経営層と従業員へ実施したものだ。
AI投資しても「現場は使わない」 その理由は?
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「シャドーAI」のリスクと対策
調査では、テクノロジーの使いにくさや運用上の混乱によって、企業が従業員1人当たり「年間51営業日分」の時間を失っていることが分かった。これは2025年比で42%増加しており、過去3年間で最悪の水準だという。
調査によると、過去30日間で54%の従業員が「AIツールを使わずに手作業で業務を完了した」と回答した。さらに33%は「AIを全く使っていない」と答えた。
企業側はAI導入を急速に進めているものの、現場では必ずしも受け入れられていない。背景には、経営層と従業員の間で広がる「認識ギャップ」がある。
例えば、「AIを重要な意思決定に信頼できる」と回答した割合は、経営層では61%に達した。一方、従業員ではわずか9%だった。両者の差は52ポイントに上る。
「従業員に十分なツールを提供できている」と考える経営層は88%に達したが、同意した従業員は21%にとどまった。さらに経営層の81%が「AIによって生産性が大きく向上した」と回答した一方で、従業員は毎週7.9時間を“デジタル上のフラストレーション対応”に費やしている。
つまり、経営層は「AI導入は成功している」と考えているのに対し、現場は「ツールが増えただけで、むしろ負荷が増えた」と感じている構図が浮かび上がる。
「AIの問題」ではなく「運用の問題」
WalkMe共同創業者兼CEOのダン・アディカ氏は、「問題はAIそのものの性能ではない」と指摘する。
同氏によれば、本質的な課題は、AIに対する信頼不足やガバナンスの曖昧さ、そして「誰が、どの範囲で、どのようなルールの下でAIを使うのか」が整理されていない点にある。
AIツールは急速に進化する一方で、企業側のルール整備や教育、業務フローの再設計が追い付いていない。結果として、現場では「どのAIを使えばいいのか分からない」「使っていい範囲が不明」「結局手作業の方が早い」といった状況が発生している可能性がある。
特に情シスにとっては、この“認識ギャップ”は無視できない問題だ。なぜなら、AI導入の成否は単なるツール選定ではなく、「現場に定着するかどうか」で決まるからだ。
シャドーAIが拡大、「禁止」だけでは止まらない
調査では、「シャドーAI」の拡大も明らかになった。少なくとも45%の従業員が、過去30日間に会社未承認のAIツールを利用していた。そのうち36%は、機密データを扱う業務にも未承認のAIツールを利用していたという。
経営層の78%は「シャドーAI利用に対して懲戒措置を取りたい」と答えた。しかし、AI利用ポリシーについて警告を受けた経験がある従業員は21%にとどまった。回答者の34%は、「自社が承認しているAIツールを把握していない」と回答した。
つまり企業側は「禁止したい」と考えている一方で、そもそもルールが十分に共有されていない実態が浮かび上がった。
興味深いのは、経営層の62%が「シャドーAIのリスクは過大評価されている」と答えた点だ。むしろ、「AIを十分活用できていないこと」の方を問題視していることも分かった。
調査会社The Futurum Groupのキース・カークパトリック氏は、シャドーAIを単なる規則違反ではなく、「現場の業務ニーズが満たされていないサイン」と捉えるべきだと指摘する。従業員は、承認済みツールでは実現できない効率化や業務改善を求め、自発的に外部AIツールを使っている可能性があるからだ。
AI時代に情シスへ求められる「運用設計」
今回の調査結果は、「AIを導入しただけでは成果は出ない」ことを示している。
情シスやIT部門に求められるのは、単なるAI導入ではなく、「どの業務で、誰が、どのAIを、どのルールで使うのか」を整理し、現場へ浸透させる“運用設計”だ。
特に今後は、AIエージェントや自律型AIの普及によって、従業員が直接触れない形でAIが業務に組み込まれていく可能性がある。そのとき重要になるのは、「AIを導入したか」ではなく、「従業員が安心して使える状態を作れているか」だ。AIへの投資額の規模ではなく、「現場の信頼」をどのように構築するか。そこに、今後の企業競争力の差が表れ始めている。
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