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ユーザー企業におけるIT人材の育成はどうあるべきか?IT変革力【第10回】

ユーザー企業におけるIT人材の育成は、多岐に渡る難しい問題です。ドットコム系の企業では経営者をはじめとしてITに精通していますが、伝統的な企業では一部の技術関連部門に留まります。両者にはIT習得における心理的な開きが生じています。それには、伝統企業に残る風潮などが影響しています。どのように解決したらよいでしょうか。

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 自己を変え、企業を変革するための「ITマネジャーのための変革力養成」講座の第10回。ユーザー企業におけるIT人材の育成は、さまざまな難しい問題を抱えています。その背景には、ITに対する古典的な問題や伝統企業に残る風潮があります。また、経済産業省が発表したITSS(ITスキル標準)は、それらの企業にとって十分な指標になるのかという問題が残ります。日本企業のIT人材を取り巻く環境を理解し、どのように問題を解決するかを考えていきましょう。

多岐にわたる複雑な古典問題

 ユーザー企業におけるIT人材の育成は、一言で言うと非常に多岐にわたる難しい問題だといわれています。例えば電子通販の支援などが中心的な事業である、いわゆるドットコム系の企業では、基幹的な業務を担う社員はすべからく深いITスキルを持っており、経営者もITに精通していることが要求されています。一方、伝統的な流通業や金融業、メーカーなどで深いITスキルが要求されるのは、情報システム部門(今は多くの企業でIT企画部と呼ばれていますが)と一部の技術関連部門だけでしょう。

 昔、情報システム部門に配属された多くの銀行員の方々が嘆かれていたのを筆者はよく覚えています。「同期の連中は、今頃支店で法人営業やリテール営業を担当している。それなのに、俺はこんなところで主流を外れてITシステムなどやっていてよいのか?」

これは文科系の学部を出て2、3年目にたまたま情報システム部門に配属された方々の嘆きでした。情報システム部門は銀行の主流ではなく日が当たらない部門であったため、同期の方々から出世が遅れてしまう可能性が高いので、ITスキルの習得に身が入らないという訳です。

 しかしIT人材の問題へのアプローチは、過去にも他の分野において類似する事例があったことを、まず想起すべきであると筆者は考えています。優れて古典的な問題だと考えられます。

 例えば、かつてわが世の春を謳歌していた時代の多くの商社では、新入社員の多くをまず経理部門に配属して簿記の考え方を徹底的に叩き込みました。昔は、経理や会計部門は勘定方と呼ばれていました。そこで多くの商社マンたちは、理系出身者も文系出身者もお金に関する考え方の基本を教わった訳ですね。それが将来、商社の本流である営業部門に配属された時、非常に効果を発揮しました。しかし、いつまでも営業に配属されない一部の商社経理マンからは、銀行において情報システム部に配属された若手と同じような嘆きがよく聞かれたものでした。「俺たちは会社で二流の人材かもしれない」

 このように考えればユーザー企業におけるIT人材の育成問題は、極めて古典的な課題であることが分かってきます。

 確かに最近では仕事上の職務記述(ジョブ・ディスクリプション)がだいぶ明確化し、欧米的になったとはいえ、まだまだ正社員をジェネラリストと考える風潮が日本的な伝統企業には色濃く残っています。

経済産業省のITSS(ITスキル標準)はユーザー企業にとって十分な指標となるか

 2002年12月、経済産業省がITSS(ITスキル標準)を発表したことはまだ皆様の記憶に新しいと思います。ITスキル標準

 これはユーザー企業の情報システム部門を含むITサービス企業、高等教育機関を含む各種教育・研修サービス提供機関、プロフェッショナルな個人や行政が対象となるとされています。

 そして経済産業省傘下の独立行政法人、情報処理推進機構内のITスキル標準センターなどで検討された内容がITSSユーザー協会を通して広く民間への普及が呼びかけられています。これを作成するに当たっては、ITサービス企業におけるプロフェッショナルといわれる人材をロールモデルとして、その人材の持つスキル(米国ではコンピテンシーと呼ぶ)を抽出してモデル化するという標準的な手法が活用されていると考えられます。

 果たしてITSS(ITスキル標準)はIT人材としての社員育成のための十分な指標になりえるのでしょうか。これは明らかにITのプロフェッショナル育成を前提としたプログラムです。

 確かに職業教育を企業ではなく社会が行う米国流の職務記述の下では、ユーザー企業における情報システム部門においても、全員がITのプロフェッショナルであることを前提にビジネス・プロセスが組み立てられており、業務が回っています。

 日本では人材の流動が当たり前であり、IT技術が本業のドットコム系企業はともかく、いまだにわが国産業の主流である伝統企業において正社員である人材は、掛け声はプロフェッショナルと呼べども、まだまだジェネラリストの色彩が色濃く残っており、大なり小なり異なる部門間での人事異動の対象となっています。

 経済産業省のITSS(ITスキル標準)は、確かにITのプロフェッショナル育成目的から見れば、ある程度参考になるでしょう。しかし、本業を含む他部門などに将来異動する可能性のある人材、情報システム部門におけるビジネス人生をサラリーマンの一ステージ(通過点)と考えている半分の方々にとっては、明らかに不十分です。

 またITSS(ITスキル標準)はあまりにもIT技術の視点寄りであり、業務分析など一般的なユーザー側のスキルが軽視されているという印象がぬぐえない点が危惧されます。(ITサービス企業のコンサルティング・セールス・スキルなど、ユーザー企業には無用です。)

情報システム部門や人事部門の立場からどうすべきか

 確かに最近ではユーザー企業でも電子通販の部門やIT技術を活用したもの作り(商品開発、生産管理)などが相当広まり、銀行でも情報システム部門経由のトップが出現するなど、IT理解の重要性が高まり、その応用分野が広がり始めました。そのため、上述した若手銀行員の悩みも大分少なくなってきました。

 筆者はユーザー企業のIT人材育成は、ITプロフェッショナルコース(場合によっては情報子会社コース)と異動型の旅人コースに分けて考えられるべきだと考えています。

 例えば政府の電子政府構築計画(電子政府推進計画に衣替えが検討されている)においてもEA(システム化計画の標準技法)設計のためのITスキルを一般職員がマスターすることを前提に政府の内部ガイドラインが作成されています。しかし、彼らは2年程度で異動してしまうジェネラリストです。この点は伝統企業の旅人コース社員にも当てはまると考えられます。

 このような方々には異動後の他部門でも活躍できるスキルをマスターしていただく必要があります。例えば調達における内部牽制の視点、業務分析の視点、ユーザー企業の場合にはITのマーケティング活用のための分析視点などです。 

 現在、筆者は情報システム部門に不足しているのはITスキルよりも、むしろユーザー部門と十分対話できるためのこのようなビジネス・アナリストのスキルだと思いますが、いかがでしょうか。

(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)

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