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マイクロソフトのテレビコマーシャルの魅力IT変革力【第11回】

Web2.0において、CGMの活用の時代に必要なものは、ネット上の泣き笑いのドラマを理解することだと言われ始めています。IT技術論において、マイクロソフトは時代遅れのように言われていますが、同社のCMはWeb2.0で最も重視されているエクスペリエンス(体験や経験、自己表現)に主眼を置いているように思えます。では、時代の変化の中で同社のどこに問題があったのでしょうか。

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 自己を変え、企業を変革するための「ITマネジャーのための変革力養成」講座の第11回。IT技術論において、マイクロソフトは時代遅れのように言われていますが、同社のCMを見てみると、Web2.0で最も重視されているエクスペリエンス(体験や経験、自己表現)に主眼を置いており、IT革命の大きな方向性を理解しているように思えます。では、なぜマイクロソフトは時代に勝てなかったのでしょうか。IT革命の方向性を理解し、問題を考えていきましょう。

 Web2.0の議論の中で、ITの世界では技術論ばかりが先行して議論されています。しかし、大衆表現社会=CGM(Consumer Generated Media)の活用の時代には、実は圧倒的にネットの上の泣き笑い、すなわち人間関係の理解が必要だといわれ始めています。

 IT技術論の中でマイクロソフトは時代遅れの象徴のように言われていますが、筆者はWeb2.0で最も重視されているエクスペリエンス(体験や経験、自己表現)に主眼を置いた同社のテレビコマーシャルを、ネットの上の泣き笑いにつながるものとして非常に高く評価しています。時代の変化の中でマイクロソフトには一体、何が足りないのでしょうか。

エクスペリエンスに対するマイクロソフト、ビル・ゲイツ会長の理解

 皆さんは『思考スピードの経営』という書籍を覚えていらっしゃるでしょうか(思考スピードの経営―デジタル経営教本 (単行本)日本経済新聞社 1999年)。

 ゲイツ会長が書いたベストセラーですが、その中で彼はイントラネットを「デジタル・ナーバス・システム(神経系統)」と呼び「ウェブワークスタイル」という概念を提唱しています。

 またそれと同時に、一連のコンセプトとして本書の中で彼が主張したのが、ネット上でのマルチ・メディアを活用したリッチな表現の可能性=「エクスペリエンス」(社員一人一人の自己表現)でした。この名前は後にウインドウズの新しいバージョンであるWindowsXPへとつながってゆきます。このXPはWeb2.0議論の中の、中心議論の1つであるエクスペリエンスを意味するわけですね。XP=Experienceの略です。

 分かりやすく言えば「ゲイツ会長は、回線が太くなり、ユビキタス・ネットワークの時代になれば、コミュニティー、音声や動画表現により社員によるネット上での泣き笑いのドラマ表現が会社の活力の源となり、知識・情報共有の基礎となる。それが今後のナレッジマネジメントだ! マイクロソフトの技術はそのようなワークスタイルを支える」と語っていた訳ですね。これはまさしくWeb2.0の議論の中での創造的コモンズの議論であり、エクスペリエンスの議論そのものでした。

いつ見てもほれぼれするマイクロソフトのテレビコマーシャル

 ビル・ゲイツ会長の先見性は、マイクロソフト社のテレビコマーシャルに現れています。同社のコマーシャルのテーマはこの5、6年まったくもって不変であり、それは「エクスペリエンス」です。

 筆者の大好きな半年前まで流されていたバージョンで、テレビCMの筋書きを見てみましょう。そこには以下のようなシーンが登場します。小さな女の子が母親と学校の入り口で別れを告げ、教室へと向かう。物語の中へ、芸術の世界へ、新記録の瞬間、鳴り止まない拍手など、学校の色々なテーマの中で彼女がクラスメートや先生と演じるドラマが表現されている。そして女の子の自己表現や自己実現の結果、彼女自身が大きく成長する姿、先生、仲間との社交やコラボレーションという経験を通して変貌を遂げていく姿が描かれている。

 マイクロソフトは、いつもユーザーの成長のドラマに刺激を受けながらソフトウエアを作り続けています……。

- Your Potential (ネットでのあなたの持つ潜在力の可能性の開花)

- Our Passion (それを支えるマイクロソフトの情熱と技術)

- We See    (マイクロソフトはそれが見える、分かる会社)

 さすがに儲けた大金を惜しみなく社会貢献のために投資する=彼のノブレス・オブリッジ(貴者の義務)の中で、学校を重視するゲイツ会長の優しさが、見ている者達に沁みてきます。涙もろい筆者など何時見てもほれぼれするほど、出来のよいコマーシャルです。

 このコマーシャルの中に表現されたセンス(感性的経験)、フィ−ル(情緒的経験)、シンク(考える経験)、アクト(行動する経験)、リレート(社交経験)などのエクスペリエンスの要素(経験マーケティングの要素)をこれほどまでに理解しているIT経営者はビル・ゲイツをおいてはほかに存在しないだろうと思われます。

マイクロソフトはなぜ時代に勝てなかったのか

 会長のビル・ゲイツは十分IT革命の大きな方向を理解していました。その点は間違いありません。しかし、時代は彼の得意とするパソコンの世界から離れようとしている訳ですね。

 パソコンを前提としたネットワークで勝負させればマイクロソフトは、まだまだトップ企業だと思います。しかし、21世紀のITC革命がパソコン中心のネットワークを求めていないと考えたらどうなのでしょうか。ITC革命の方向は明らかにパソコンではなく、小さなサーバ群を中心としたネットワークです。エクスペリエンス即ち、経験の舞台=プラットフォームに地殻変動が起こった訳ですね。

 騎馬戦を得意とする武田が織田の鉄砲隊に負けたように、時代のプラットフォームは変わりつつあるようです。経験の舞台=プラットフォームが違ってきた訳ですね。Web2.0で最も重視されているエクスペリエンスの理解については、ゲイツ会長は素晴らしいと言えます。しかし、この理念がもはや大企業化したマイクロソフトの会社全体にどの程度浸透しているのかは明らかではありません。

 ゲイツ会長の唱えた「エクスペリエンス」は彼と共に去っていくのか、それともマイクロソフトは新しい舞台=プラットフォームで大衆表現社会=「エクスペリエンス」を支援するのか。いずれにしても同社の新技術「Live」によるネットワークや検索などの仕組みに期待しましょう。

(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)

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