情報を考える2つの視点、客観性と主観性:IT変革力【第20回】
情報の受け手の立場が微妙に異なる状況での情報共有には、情報の持つ意味背景や価値観などが異なるため、受け手の立場によって微妙に違う情報提供が求められます。つまり多くの受け手に共通する普遍的・客観的な情報提供と、個々の受け手に対する主観的な情報提供のバランスが重要になるのです。
最近気が付いたのですがITに関わりを持っている方々は、意外に情報というものの本質的な見方を理解されていないように思えます。これが今後、ITシステムの構築の成否にかなり大きな影響を与えるようになるのではないかと筆者は危惧しています。情報の本質をしっかり理解して作り上げられたITシステムは活用しやすいものですが、そうでないITシステムはとても使いづらいものになっています。
なぜなら、情報の理解の仕方には明らかに哲学の視点があるからです。
情報は客観的なものか主観的なものか?
情報を最もよく研究している学問に記号論があります。記号論はフランスのフェルディナンド・ソシュールと米国のチャールズ・サンダーズ・パースが創始者です。
ソシュールは情報を記号とその意味という対応可能な客観的なものと考えており、彼の理論に基づいてIT通信理論の基礎となるシャノン流の通信理論が発達しました。これは情報の伝送時に送信側で元の情報を一定の対応規則に従って2進数というコードに変換し、受信側で同じ対応規則に従って復号するという理論です。こうすれば、「送信者も受信者も全く同じ、正確な情報(情報の客観性の保証)を手にすることができるではないか」という訳です。
一方、パースはソシュールの情報理論に解釈者という「主観を持った登場人物」を付加しました。解釈者による情報の意味解釈=主観的な判断が重要だと考えた訳ですね。サッカーの試合の結果は、勝者にとっては勝利を意味する喜ばしい情報となり、敗者にとっては悲しい、屈辱的な情報という全く異なる意味があります。
さらに情報に関する理論にはノーベル賞受賞者の米国人ハーバード・アレキサンダー・サイモンの研究があります。彼は情報に基づく意思決定を考えるに当たって、「事実前提」と「価値前提」という2つの概念を提示しました。
まず「事実前提」を分かりやすく説明すれば、経験的にまたは科学的に検証が可能な客観情報という意味であり、「価値前提」とは科学的に立証できる類のものではなく、主観的な情報という意味だと理解されます(ここは筆者が非常に簡潔に説明しすぎていますので誤解のないように)。
非常に荒っぽい説明をすれば、「事実前提」とは検証が可能な「客観的な情報」であり、「価値前提」とは必ずしも明確に説明できない、担当者の勘、組織のビジョンという意味や価値判断を含む「主観的な情報」と考えられます。
データウェアハウスを例に考えてみる
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