数百の流通業企業が対応する次世代EDI「流通BMS」のメリット:もはや「次世代」とはいえない!?
流通業界における新しいEDIの標準「流通BMS」。既に数百の流通業企業が対応しているが、その実態は意外と知られていない。流通BMSの特徴とメリット、対応製品を紹介する。
はじめに
本稿をご覧の諸氏は、流通業のユーザー企業でIT部門に所属しているか、ITベンダーやシステムインテグレーターで流通業向けのシステムを提案、構築する組織に所属しているかのどちらかだと思う。「流通ビジネスメッセージ標準(以下、流通BMS)」というキーワードは、このような立場の方々であれば一度は耳にしたことがあるだろう。しかし、さまざまな啓蒙活動が行われているにもかかわらず、その実態は意外と知られていないのではないだろうか。
日常のシステム開発業務と新しい技術のキャッチアップに忙しい技術者が、業界単位の新しい標準化になかなか関心と時間を割けないことは、筆者も技術者の端くれなのでとてもよく分かる。また、業務システム一般やシステム基盤を担当する技術者が、流通BMSに接する機会も少ないかもしれない。
流通BMSとは、流通業の企業のIT部門を「楽にする」ものだ。また、製造から卸、小売を経由しての一般消費者までのサプライチェーンという観点から見ると公共のインフラであり、国民生活に貢献するという非常にやりがいのある仕組みである。
本稿では、流通業企業のITマネジャーやITベンダーのみならず、流通業に少しでも関係のある読者に、「流通BMSの基本」をできる限り分かりやすくまとめてみたいと思う。
流通BMSとは何か
流通BMSの概要
流通BMSを別の言葉で表現すると「流通業向け次世代EDI(Electronic Data Interchange:企業間電子商取引)」となる。既に多くの企業が対応しており、普及状況だけを見れば「次世代」というにははばかられる気もするが、分かりやすさを優先してまずはこの表現としてみる。
この「次世代EDI」という言葉はさまざまな業界や局面で使われているが、初心に帰ってみると「EDI」という単語自体、正確に理解している方は意外と少ないようだ。釈迦に説法になるかもしれないが、まずはEDIの定義を少々古い資料から紹介する。
EDIの定義
「異なる組織間で、取引のためのメッセージを、通信回線を介して標準的な規約(可能な限り広く合意された各種規約)を用いて、コンピュータ(端末を含む)間で交換すること」
出典:通商産業省「電子計算機相互運用環境整備委員会」(1989年度)
EDIに似た言葉にEOS(Electronic Ordering System)がある。EOSが受発注のみで、EDIが受発注を含む企業間のやりとり全般(出荷情報や請求など)と考えていただければ間違いないだろう。
「流通BMS=流通業向け次世代EDI」をEDIの定義と比較すると、以下のようになる。
流通BMSの定義
「流通業に所属するさまざまな関係者が集まり、業界の中で精いっぱい広く合意して、受発注を含むさまざまな企業間のやりとりを、現代の技術水準に合わせて一から作り直した、コンピュータで使用するメッセージとそれをやりとりするためのルール」
ポイントは「さまざまな関係者が集まり、業界の中で精いっぱい広く合意して」と「現代の技術水準に合わせて一から作り直した」の2つである。流通BMSはできる限り国際標準にのっとった技術をベースに標準化することを前提としており、そこから生み出された特徴は大きく3点ある。
流通BMSの特徴
- 通信回線にインターネットを使用すること
- メッセージについてはフォーマットだけでなく、使い方にまで踏み込んだこと
- データフォーマットにXMLを、コード体系に国際標準(GTIN、GLN)を採用したこと
このうち1と2は、通信回線にまつわるコスト削減や個別仕様の抑止など既にかなりの成果を挙げているが、3の前段「データフォーマットにXMLを使用」に関しては、本稿執筆時点で直接的かつ目立った成果は上がっていないようだ。これからの新しいソリューションの登場に期待したい。
従来型EDIの問題点と流通BMS
流通BMSの定義のカコミで、あえて「現代の技術水準に」と書いた。なぜこのようなことを書くかというと、現在流通業の一般的なEDIで使われているテクノロジーは「現代の技術水準」からあまりに懸け離れているからだ。システム構築の現場でも、新人に限らず若手技術者がEDI構築に携わる場合、まず「TCP/IP以外のプロトコルの存在」を説明するところから入る。これに対する「基礎知識・業界知識の習得状況に問題がある」という意見は否定しないが、これが実態である。しかし、裏を返すとそれだけインターネットベースの通信技術が一般的になっているということであり、これを利用しない手はないということもいえる。
では、従来型EDIが「現代の技術水準」から懸け離れているとはどういうことか。本稿は流通業向けに記述しているので、JCA手順(※)をベースに考えてみよう。
(※)JCA手順:日本チェーンストア協会(JCA)が開発した取引先データ交換標準通信制御手順。流通業界における標準的な通信手順として広く利用されてきた。
従来型EDIが「現代の技術水準」から懸け離れているわけ
- 電話回線(ISDN回線含む)で通信しているため、高価な専用機器が必要
- 電話回線(ISDN回線含む)で通信しているため、通信速度が遅く、従量課金のものは通信費用が掛かる。インターネットを使用した場合と比較するとかなりコストが掛かる
- データが固定長のため、仕様変更が困難
- 仕様変更が困難であり、通信速度が遅いことも相まって、漢字を送ることができないなど制限が大きい
- バッチ型の処理のため、都度処理ができない(企業間をまたがってジョブを設計しなければならず、システム面での縛りが大きくなる)
- 今となってはTCP/IP以外の通信プロトコルはニッチで、技術者の数も多くない
上記以外にもさまざまあるが、これらの問題を一挙にまとめて解決することを目指したものが流通BMSであり、実際に問題点のほとんどすべてをクリアするポテンシャルを持っている。
流通BMS導入のメリット
流通BMS導入によって得られるメリットは多くあるが、どのメリットも「流通BMSの特徴」で挙げた1および2に起因する。それぞれ現時点で明確かつ代表的なメリットを抜粋して紹介しよう。
なお、3の「メッセージ形式としてXMLを利用することに起因するメリット」があるが、これはシステム側の都合なので今回は割愛する。
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