読めば分かる! ERPのマスター管理・ワークフロー・権限管理:ERPを支える基盤機能を理解しよう
ERPの各モジュールを統合的に機能させる上で欠かせないのが基盤機能だ。マスター管理、ワークフロー、権限管理がキーになる。効率的な業務処理を実現する3つの管理機能を解説しよう。
マスター管理とワークフロー、権限管理は、財務会計や販売管理などERPパッケージの各機能を利用するための基盤機能だ。理解することでERP全体の導入や活用が容易になる。
統合的に管理できるERPのマスター
マスターとは取引データなどをERPに入力する際の基礎情報データを指す。例を挙げると取引先に商品を販売した場合、“販売した”という取引をERPに入力するためには取引先と商品のマスターを利用する。毎回新しい取引先が発生するのであれば、取引発生時に取引先の情報をERPに入力すればよいが、通常、取引は継続して行われる。そのため取引先の基本的な情報をあらかじめマスターとしてERPに登録しておくと、取引発生時に該当の取引先をマスターから選択するだけで処理できる。商品についても、販売できる商品をERPにマスターとして登録すれば、取引発生時に簡単に選べるし、管理も容易になる。
これまでの「読めば分かる! ERP」記事
- 読めば分かる! ERPの基本
- 読めば分かる! ERP導入の基本
- 読めば分かる! ERPの財務・管理会計
- 読めば分かる! ERPの人事・給与管理
- 読めば分かる! ERPのプロジェクト管理
- 読めば分かる! ERPの販売管理・購買管理
- 読めば分かる! ERPの生産管理・在庫管理
ERPだけではなく、部門ごとに構築されている業務システムにもマスターはある。しかし、業務システムのマスター管理は難しい。なぜなら同じようなマスターが複数のシステムで別々に管理されていることが多く、1つのマスター内容を変更すると複数のシステムを跨ってマスターを変更する必要があるからだ。例えば販売管理システムと会計システムが取引先マスターをそれぞれ持つ場合、その取引先が移転して住所を変更すると、それぞれのシステムの取引マスターを修正する必要がある。また、複数システムのマスター変更は、作業が大変なだけではなく、ミスや漏れが発生してシステム間でマスターの不整合が生じる危険がある。
ERPではマスターが一元的に管理されているため、このような重複した変更作業は不要だ。もちろんマスター登録は1回のみ。ERPを導入することでマスター管理業務の効率化が可能だ。次に主なマスターの内容や利用場面、機能などを見ていこう。
組織マスター
会社の組織体系を管理するマスター。組織マスターには社内の部門が階層構造でひも付けられている。取引データなどは部門単位で管理されることも多く、組織マスターを基に各種リポートを出力したり、部門別のリポートを確認できる。階層化されているため、上位階層レベルでのサマリー(集計)リポートの出力なども可能だ。
従業員マスター(社員マスター)
従業員のさまざまな情報を管理するマスターで、主に給与計算や人事管理などで利用される(参考記事:「読めば分かる! ERPの人事・給与管理」)。従業員マスターに原価情報が設定されていれば、製品やサービス、プロジェクトなどの原価に反映させることができる。また、後述する権限管理でも活用される。
取引先マスター(得意先マスター・仕入先マスター)
ERPの取引先マスターは取引先の基本情報(社名、住所、電話番号など)や、支払いで利用する銀行口座情報、取引先担当者情報などを管理する。ERPでは、受注登録や請求処理、購買発注、支払い処理など、取引先マスターを使用する場面が多い。「取引は支店ごとに管理したいが、請求は本社に一括して行ってほしい」などのニーズに対応するため、取引実態に合わせて管理機能を設定できることが一般的だ。
品目マスター
品目マスターは、販売管理や購買管理など、ERPのさまざまな機能で利用される。任意の分類や属性、価格、原価計算の方法(標準原価、平均など)、勘定科目などを設定する。生産が必要な製品については、部品構成表にひも付けて管理する(部品構成表については、「読めば分かる! 生産管理・在庫管理」を参考)。
勘定科目マスター
勘定科目マスターは会計の基本だ。財務会計から直接入力する会計伝票だけでなく、販売管理、購買管理、人事給与管理など他機能からも会計伝票が自動計上され、その際に勘定科目マスターが利用される。勘定科目単位で管理された金額情報は、財務諸表や経営リポートなどの元情報として活用される。
その他に倉庫マスター、銀行マスター、通貨マスターなどがERPでは管理されている。マスターは取引情報や業務情報を入力するための基本データ。マスターごとに社内に主管部署を決め、登録・更新ルールを整備し、またそれらのシステムログ(履歴)を取ることが求められる。
処理を自動化、効率化するワークフロー
ワークフローとは、業務の処理手順を規定し、その処理を自動化することだ。ワークフローが利用されるのは承認プロセスが多い(受発注や休暇など)。ワークフローの例として立て替え交通費の精算を説明しよう。一般従業員が立て替えた交通費をERPの経費精算画面に入力し、申請処理を実行すると、その従業員の上長に「部門メンバーから申請があった」という情報がメールで自動送信される。上長はERP上で申請内容を確認し、問題がなければ承認処理を実行し、後続処理へ進める。申請に問題がある際は差し戻し処理を実行して再入力・修正を促す。申請の結果は入力者にリアルタイムにメール送信され、入力者は必要に応じて対応する。
ワークフロー機能を利用しないのであれば、書面や口頭での処理が中心になるだろう。小規模の会社であれば、この方法でも問題ない。しかし、ある程度の規模以上の会社では問題が生じる可能性がある。例えば承認担当者の不在を知らずに申請が行われて、処理が放置されるケースが考えられる。もしERPでワークフローがシステム化されていれば、業務プロセスのストップが一定のタイミングで関係者に通知され、別の担当者に代理承認させるなどの対処が可能になる。ワークフロー機能には、このように業務の透明性を高める効果がある。また、ワークフローは自動で次の処理へ流れるため、口頭で指示を行うよりも業務プロセスの速度が上がる効果が期待できる。
ワークフロー機能を提供する単体製品は数多く存在するが、ERPのワークフロー機能は、申請額によって承認プロセスを自動で変更する、または多段階で承認するなどの高度な機能を持つことが多い。
ユーザー権限に応じて機能を制限
権限管理もERPの重要な機能の1つである。ERPには多くの機能が用意されているが、全機能を全ての人が同じように使う必要はない。権限管理機能は、ユーザーに対して担当業務範囲内の必要な機能だけを利用できるようにする。一般従業員は作業実績入力や経費申請の機能のみ実行でき、他の機能は利用できない。一方、購買部門担当者は作業実績入力、経費申請機能に加えて、購買機能も実行できる――権限管理機能はこのようにユーザーに応じた機能設定が可能だ。
さらに同じ機能であっても、実行できる活動(アクティビティ)をユーザーの権限によって詳細に設定できる。例えば、営業部門担当者は取引先マスターを閲覧できるが、登録や変更、削除は不可で、マスター管理担当者のみが実行できるという設定が可能だ。データへのアクセスについても同様。一般従業員は自分の登録した情報のみ閲覧できるが、部門長は自部門の社員が登録した情報を全て閲覧できる。ただし、他部門の情報は閲覧できない。経理部門は全部門の情報を閲覧できる――などと職責に応じた権限設定ができる。
権限やワークフローの設定は、業務に密接にかかわるため、ERP導入後の業務を詳細に設計した上で設定する必要がある。
ERPの基本を解説する本連載は今回が最終回。本連載では、ERPの主な機能の特徴を紹介してきた。取り上げた機能以外にもERP製品によって特色のある機能が数多く用意されている。また新しいサービスや機能も提供されているので、活用して経営基盤の強化に役立てていただければと思う。
木塚愛美(きづかめぐみ)
株式会社ビーブレイクシステムズ 営業部 広報・営業推進チーム リーダー
外資系ERPパッケージベンダーにて、会計導入コンサルタントとしてさまざまなERP導入プロジェクトに参画。その後、2005年にビーブレイクシステムズに入社。プロジェクト管理に強みを持つERPパッケージ「MA-EYES」を中心に企業にとって“使える”業務システムを広く提案している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.