検索
特集/連載

既存アプリをSaaSへ移行するには? マルチテナント化への難題パブリッククラウドはレガシーアプリに適するか?【後編】

社内アプリケーションをクラウドで利用する手段はさまざまだ。最近注目されているマルチテナント型は、シングルテナント型に比べ、維持管理の面で大きな効果を発揮するという。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena

 前編「古いアプリケーションもクラウドへ、米酒造メーカーの取り組み」に続き、クラウドにレガシーアプリケーションを移行させる方法やユーザー事例を紹介する。

マルチテナントの混乱

 企業でSaaS(Software as a Service)アプリケーションの利用が盛んになっているが、普及当初は米Salesforce.comCRM(顧客関係管理)アプリケーションや米Workdayの人事・給与管理サービスなどの利用が中心だった。しかし最近では、社内アプリケーションについても同様に、クラウドホスティング型マルチテナントアプリケーション、いわば“プライベートSaaSアプリケーション”という形で再構築することを検討しているIT部門がある(関連記事:SaaSと自社内運用、本当に得なのはどっち?)。

 例えば、ある自動車メーカーが全米の独立系ディーラー向けの融資アプリケーションを開発したとする。このアプリケーションは、ディーラーのシステムにインストールし、ディーラーのIT担当者が維持管理を行うシングルテナント型アプリケーションとして作成されたとする。当然ながら、このモデルではディーラーがアプリケーションの管理や障害対策で苦労することになる。

 このアプリケーションがクラウドホスティング型マルチテナントアプリケーションに改造され、メーカーが運用管理、メンテナンス、アップデートを行い、自動車ディーラーはログインするだけで済むようになれば、利便性が大いに高まるだろう。

 オンプレミス型ソフトウェアとSaaS型ソフトウェアの両方を提供している独立系ソフトウェアベンダーによると、マルチテナント方式への移行の動きは、ベンダー各社のビジネスにとって大きなプラスになっているという。

 「マルチテナントこそが目指すべき方向だ。目標は保守コストを最適化することだからだ」と話すのは、大学向けに在籍者管理ソフトウェアを提供している米EMAS Proのアンドレイ・サーグリーブ上級副社長だ。「要するに、SaaSベースのツールは、プロバイダーとユーザーの両方にとってインストールと維持管理が非常に簡単だということだ」

 さらにサーグリーブ氏によると、SaaSのおかげでユーザーはこれまでコスト的に手が出なかったような高度な機能を手に入れることができるという。

 EMAS Proはオンプレミスソリューションの開発を何度か試みた後、「Retention Pro」というSaaSベースのツールの提供を最近開始した。これは、退学の恐れがある学生を特定するサービスだ。Apache Tomcat、ルールエンジン、ビジネス分析/リポーティングエンジンなどのモジュールで構成され、各モジュールは緊密に連係している。

 「多数のコンポーネントが含まれており、これらをオンプレミスで動作させようと思ったら、それぞれに対してライセンスが必要になるため、大きな出費になってしまう」とサーグリーブ氏は話す。同氏によると、企業におけるプライベート・マルチテナント型SaaSアプリケーションの利用形態としては、さまざまなものが考えられるという。

 残念ながら、従来のシングルテナント型アプリケーションをマルチテナント型アーキテクチャに改造するのは、それほど簡単ではない。

 「これは途方もない作業だ」と話すのは、システム管理ソフトウェアプロバイダーの米LANDesk Softwareの主任プロダクトマネジャー、ブライアン・ホプキンズ氏だ。LANDeskではこの3年間、自社のサービスデスクツールを“SaaS化”する作業に取り組んでおり、現在はシステム管理製品とセキュリティ管理製品でも同じ取り組みを進めている。

 「従来のオンプレミスアプリケーションの多くがそうであるように、LANDeskの製品もWindowsコンソールを中心に構築されており、アプリケーションレイヤーやデータベースレイヤーへの直接呼び出しを頻繁に行う」とホプキンズ氏は説明する。この方式はSaaSプラットフォームでは使えないため、同社ではこれらの呼び出しが全てWebサービスを経由するようにプログラムを書き直さなければならなかった。

衝撃を緩和する

 上記のような大規模な開発プロジェクトを推進するつもりはないという企業の場合は、レガシーアプリケーションのマルチテナント方式への移行を簡素化する技術を提供している米Apprendaや米Corent Technologyなどの新興企業を検討するのもいいだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る