Computer Weekly製品導入ガイド
ユーザーエクスペリエンス軽視が招く、収益悪化のスパイラル
劣悪な顧客エクスペリエンスがどのような結果を招くか、誰もが認識している。にもかかわらず、この問題の解決方法については社内でも意見が分かれている。
ユーザーエクスペリエンス(UX)は電子商取引や一般向けのWebサイト、アプリケーションに関連して目にすることが最も多い。だがもちろんそれ以上のものであり、ソフトウェアに限ったことでもない。あらゆる種類の物理デバイスにUXがあり、多くの企業がそれに多額の投資をする。その実例はAppleのiPodやソニーのプレイステーションに見ることができる。だが、それに比べてほとんど語られることのないのが企業内部のUXだ。
世界中の大企業はソフトウェアに依存していて、そのソフトウェアは社内の特定の用途のために社内で開発されることも多い。一般的な従業員は恐らく、その会社のニーズ専用に開発された膨大な数のアプリケーションを仕事で使う。そして多くの場合、そうしたアプリケーションがいかに使いにくく、生産性にどれだけ悪影響を及ぼすかを口にするだろう。
その理由はどこにあり、それほど膨大なリソースを持つ企業がなぜ問題を修正できないのか。
UX問題の露呈
第一の理由は、組織がUXを理解していないことにある。根本的な使い勝手の問題であるものが、特定の事業機能の問題と見なされている。企業がほぼ自律的なコストセンターの集合体として運営されていることを考えれば、問題がそうした見方をされても不思議ではない。
具体例を挙げよう。X社のコールセンターは、顧客が最初に接触してくる場だ。このコールセンターでは社内の開発チームが開発した多数のアプリケーションを使っているが、そのUXは悪く、長引く通話時間、顧客を待たせる未処理案件、顧客への誤った情報の提供、顧客からの苦情の増加につながっている。
X社はそうした問題を認識しながら、それを顧客サービスの落ち度と見なしている。だが、アプリケーションの変更を通じてこうした問題を解決できるのは社内の開発チームのみであり、顧客サービス担当者には解決できない。顧客サービス担当管理職は、電話をさばくためにコールセンター担当者の採用数を増やしたり、通話処理要員を助けるサポート要員を増やしたり、研修を増やしたりする。そのいずれもコストが掛かる。そうした組織では、本来は使い勝手の問題であることに対処するための小さな業界が形成されていることもある。
顧客サービスは出費が増えるだけでなく、真の意味ではこの問題に対応できていない。通話には依然として時間がかかり過ぎ、顧客満足度は低いままで、苦情はあまりに多い。X社が資金を注いでいるのは対症療法であって、根本原因に対してではない。
この例をさらに詳しく検討して、使い勝手の悪さが何をもたらすかを探ってみよう。不快な思いをさせられた顧客の反応は、販売に悪影響を生じさせ、その会社の評判やブランドにも響く。X社はコールセンター担当者に対するプレッシャーを強め、それが余分な人員の増加につながり、結果として人件費に連鎖的な影響が及ぶ。電話を受ける担当者のデータ収集基準がしっかりしていなければ、誤った事業戦略の決定につながり、コストや収益性に長期的な影響を与えかねない。ここまでくると、もはや組織の特定の機能に限られた問題ではなくなって、その組織の問題になる。
UXを担うIT
こうした問題は、それに対応する立場にあるIT部門にフィードバックが寄せられる公算が最も大きい。IT部門の意思決定者はもちろん、根本原因はUXのまずさにあることを認識し、それについて何か手を打つことを決めなければならない。そのために不可欠なのは、UXの重要性と、それが事業にもたらす価値についてのIT部門の認識だ。
IT部門は、クラウドサービスの台頭や、そうしたサービスをIT部門を介在させずに導入する部門の氾濫によって脅かされている。そのような行動に走らせる主な誘因の1つは、そうしたアプリケーションが提供するUXだ。従業員は私生活の中で、ソーシャルネットワーキングからインターネットバンキングに至るまで、素晴らしい使用感を提供するソフトウェアにすっかりなじんでおり、使い勝手の悪さに対する受容度が極めて低くなっている。
IT部門の管理職はこれを認識し、UXをコントロールしなければならない。そのためには会社にとってのUXの価値を理解して、私物端末持ち込みの文化をかわす必要がある。これが実現できたとして、次に来るのは何か。個々の機能が独自の予算を持つ独自のコストセンターとして運営されている中で、UXプロジェクトのコストは誰が負担するのか。IT部門は、自分たちが構築したアプリケーションは必要なニーズを満たしており、コスト上昇につながるUXプロジェクトへの出費は、たとえ顧客サービスの収益を上げるためであっても望まないと主張するだろう。これは特に、IT部門が事業部門へのサービスプロバイダーとして機能し、プロビジョニングコストを抑えなければならない場合に当てはまる。
解決策は、コストを分担するか、解決策の恩恵を受ける部門の予算に個別に割り当てる部門横断的なアプローチにある。X社では、顧客サービス、販売、人事、ITの全部門でUXの改善による好影響が期待できる。
UXの真価:プロセスの改善
では、この環境でそうしたプロジェクトを始動するためにはどうすればいいのか。
一般的に、最初の問題は組織内のUXに対する見方への対応だ。UXをクリエイティブサービスと見なし、マーケティングコミュニケーションといった機能にのみかかわるものと考える人があまりに多い。一般向けのWebサイトならそれでいいかもしれない。マーケティングコミュニケーション機能はデザインやクリエイティブプロセスとなじみが深く、主に売り上げやブランドの宣伝においてどう会社のためになるかもよく知られている。だがUXはデザインではない。社内ビジネスアプリケーションの用途では、その定義が重要だ。UXとはソフトウェア主導プロセスへと変更し、効率性や効果を向上させることだ(国際標準化機構のユーザビリティ国際標準9241-11の定義より)。
IT業界では、UXをビジネスプロセス改善サービスの提供と見なす必要がある。そうしたサービスの定義は、組織内部および周辺のプロセスの効率性と効果を引き上げることによって改善を目指すアプローチである。この用語は、UXプロフェッショナルならなじみがあるはずだ。
だが重要なのは、ビジネスアプリケーションとプロセスの仕組みがUXによってどれほど変わり、部門横断的な恩恵をもたらすかという点に目を向けることだ。UXは事業変革プロジェクトに変化をもたらし得る。それ自体が変化だという人もいるかもしれない。
UX主導の変化
現在のような市場の状況では、「変化」「事業変革」のレッテルを張ることのみが、新プロジェクトを始動させるための唯一の方法であっても不思議はない。大部分の業界で市場の成長レベルが低迷する中、企業はコスト削減と生産性向上のために、経営の在り方の変化を求めている。UXでは効果と効率性の向上および従業員と顧客の満足度向上を通じて、まさにそれが実現できる。
UXへの投資が複数の事業機能に横断的な見返りを実現し得ることは、X社の例ではっきりした。6対1以上という投資収益率は、どんな組織にとっても極めて魅力的なはずだ。
従って、企業のIT部門でUXの価値に目を付けた担当者が、変革プロジェクトに変化をもたらす存在としてUXを打ち出せば、IT幹部が必要とする上層部からの部門横断的な賛同を得る助けになるだろう。これはUXプロジェクトを始動させるため、そして特に組織内でのUXの成熟に伴って、より総合的なUX戦略を実行する上で不可欠になる。
クリス・ハワード氏はWebコンサルタント業を手掛けるHoward Bainesの共同創業者
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