期待とリスクを探る
“一般開放”されたiPhone/iPadの「Touch ID」、次の大波となるか
Appleの「Touch ID」はiOSのネイティブアプリとサードパーティーアプリに組み込むことができるようになり、幅広い使い方が可能になった。これにどう対応するかは企業次第だ。
米Appleが「Touch ID」を開放し、アプリケーションで利用できるようにした。企業のモバイル戦略の一部としてTouch IDを検討すべきときが来ている。
指紋認証機能のTouch IDは、Appleから2013年後半に登場した「iPhone 5s」で導入された。だがこの当時のTouch IDの機能は、端末のロック解除とiTunesアカウントでの決済承認に限られていた。2014年9月に公開された「iOS 8」で、Touch ID利用の幅がネイティブアプリとサードパーティーアプリにも広がった。Appleは開発者向けに数千ものAPIオプションを追加することでこれを実現した。
Touch IDのセキュリティについてメリットとデメリットを検証する前に、最もありがちな誤解を解いておきたい。Touch IDはパスワードの代わりとなるものではない。基本的にはパスワードへのショートカットといえる。Touch IDを有効にする前に、ユーザーはまず、特定の端末やアプリケーション向けの認証情報を入力する必要がある。さらに驚いたことに、Touch IDは複数のユーザーが同じ端末を共有することを意図した設計にはなっていない。従業員1人1人に端末を購入してセキュリティ対策を施す余裕のない小規模企業にとっては、この懸念の方が大きいかもしれない。
Touch IDのセキュリティ
Touch IDはサードパーティーアプリへの統合が可能になった。この機能は社内アプリを開発するリソースのある企業では特に重宝されるだろう。Touch IDはまた、iOS 8で導入された「Apple Pay」の一部としても使われている。ユーザーは指紋のタッチで売買を承認できるようになり、小売取引の幅が広がった。
複数の企業がTouch IDの波に乗り、新しい開発ツールを使って自社のアプリにTouch IDを取り入れている。米Amazon Web Servicesは「1-Click」決済機能を更新し、Touch IDに対応させた。ただしAmazon Visaカードが要るという条件付きだ。一方、人気パスワード管理サービス「1Password」や文書に簡単にアクセスできる「Scanner Pro」、多要素認証サービス「Encap Security」なども、AppleのTouch ID機能を追加した。
以上は一般的な利用ケースだが、Touch IDの実用性はここで終わりではない。以下に実例を挙げる。私は前職で従業員の全チームを管理するエージェントと仕事をした。従業員が社外の顧客を訪問する際は大抵iPadを持っていく。わずかな金額でも無駄にはできない。従って複数のタブレットを買うのではなく、エージェントはiPadを1台買ってチーム全体で共有させた。だがこのやり方は、多くのモバイルセキュリティポリシーでは受け入れられない。高い地位にある従業員は大抵の場合、会社のデータに対する特権アクセスを付与されているからだ。
iOS 7までは、Touch IDでiPadに登録した従業員は誰であれ、そのタブレットに保存されたどんなアプリやデータにも幅広くアクセスできていた。だが、こうした状態は今は避けることができる。柔軟性が増して特定のアプリケーションにTouch IDを適用できるようになったからだ。IT部門はiPadをほぼオープンな設定にしておきながら、重要なデータを含むビジネスアプリをTouch IDを使って保護できる。
Touch IDにまつわるリスク
こうした使い方ができる一方で、どのようなリスクが考えられるのか。
承認されたユーザーの指紋をシリコンやグラファイトで複製してTouch ID経由で不正アクセスを果たしたケースもある。だが、これについてそれほど心配する必要はない。悪意を持ってこのようなことを実行している人の話は、まだ聞いたことがない。これまでの実例は全て、管理下の実験だった。
もう1つの問題は、それ自体が弱点というわけではなく、悪用されるかもしれない機能にある。Apple端末は登録した複数の指紋を記憶できる。だがiOS 8でもまだ、それぞれを区別することはできない。つまり、配偶者や子どもなどのアクセスをTouch IDで制限することはできない。もしその人物があなたの端末に登録していれば、自分の指紋を使ってTouch ID対応のどんなアプリにでもアクセスできる。iPhoneやiPadが業務用端末にも私物端末にもなるBYOD(私物端末の業務利用)ポリシーを採用している企業は、この点に注意が必要だ。
適切な使用事例
企業向けモバイル管理ツールはまだTouch IDの潜在的可能性の表面をかすり始めたにすぎず、新しいAPIによって今後も新しい使用事例が出てくるだろう。また、向こう数年でモノのインターネット(IoT:Internet of Things)がもっと普及すれば、これまで考えてもみなかった使用事例にも道が開けるかもしれない。
AppleのTouch IDのセキュリティ機能を使うメリットはまだ見え始めたばかりであり、Touch IDは企業でもすぐに普及するだろう。そして、モバイル端末管理(MDM)、モバイルアプリケーション管理(MAM)、あるいはアプリ開発の分野で次々と新しい使用事例が出現するはずだ。
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