不評のモバイルアプリを「使いたい」と思わせるたった1つの工夫:モバイルUXが生産性向上の鍵
スマートデバイスの効果的な導入に苦戦する企業は少なくない。従業員に自社のモバイル戦略を受け入れてもらうために、IT部門がなすべきこととは何か。
モバイル化の時代が到来し、全盛期を迎えている。コンシューマーがスマートフォンやタブレットを使用するのには理由がある。スマートフォンやタブレットが、さまざまな方法で私たちの生活を楽にしてくれるからだ。効率性を求めるこうした欲求は、従業員に生産性を向上する方法を教えたいという、企業のリーダーの欲求にもつながる。
企業はモバイル化によって、端末と従業員をターゲット市場やターゲット顧客のより近いところに配置することが可能になる。モバイル化がビジネスにメリットをもたらすことは間違いない。だが企業はなぜ、BYOD(私物端末の業務利用)などのモバイル戦略の導入に苦戦しているのだろうか。
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「モバイルUX」の重要性
原因は幾つかある。企業が強固な管理能力や標準、ポリシーを用意していない場合、モバイル端末は制御不能になるからだ。またアーキテクチャとインフラの堅牢性が十分でない場合は、システム全体で問題が発生することになる。
企業のモバイル戦略成功の鍵を握るのは従業員だ。どんなにモバイル管理技術を準備万端に整え、最善の組み合わせを使用していたとしても関係ない。特に導入するアプリは、従業員のニーズを満たし、十分なエクスペリエンスを提供するものでなければならない。
カタログを見て、街の向こう側にある販売店から品物を購入するアプリをインストールしたとしよう。アプリのユーザーエクスペリエンス(UX)がお粗末な場合、ユーザーは他の選択肢を検討するだろう。例えば、そのアプリをアンインストールして、別の販売店のアプリを試すかもしれない。また、街の向こう側にある販売店まで車で行って、必要な品物を購入し、店員にアプリの文句を言うことも考えられる。
企業は、多数の新しいモバイル端末を支給して、従業員が新しい水準の売り上げや生産性を達成するのに役立つ各種アプリを提供できる。IT部門は業務命令として、従業員にアプリの使用を命じることも可能だ。
導入されるアプリは多くの場合、単なるデスクトップPC向けレガシーアプリケーションの応急版にすぎない。こうしたアプリには、モバイル端末向けのクリーンなユーザーインタフェース(UI)や優れたUIは欠落している可能性がある。各種ハードウェアやOSサポートの欠如については言うまでもないだろう。
ITのコンシューマライゼーションにより、仕事とプライベートのどちらで端末やアプリを使用するときも、従業員は同じ便利なUXを期待できる。上述の例のように、期待するレベルのUXがないビジネスアプリは、従業員の関心が低下し、使用されなくなるという問題に直面することになる。また、未許可アプリの利用といった問題も抱えることになるだろう。
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企業がモバイルエコシステムを成功に導くには、その企業の従業員が、使用を義務付けられたアプリを自主的に使用する状況にしなければならない。こうしたアプリを使いたいと思わない従業員は、アプリの使用を最小限に抑えることになる。また、アプリを使用しても、せいぜい会社の期待に応えるためだけだ。会社支給の端末とBYODプログラムへの参加についても同じことがいえる。
この問題の解決策は、コンシューマー向けアプリを準備するのと同じ方法でアプリの開発や導入に取り組むことである。エンタープライズモビリティの大変化に直面した場合に、スムーズに対処できるようにするための投資対象と考慮事項を以下に示す。
ユーザーエクスペリエンスの分析と設計
企業は、熟練したモバイルUX設計チームを雇用/育成したり契約した上で、従業員の行動や操作を調査してドキュメント化する必要がある。設計チームは、従業員の作業方法を完全に理解することで、従業員の職務を妨げないUIを構築できるようになる。
熟練したモバイルUX設計担当者は、アプリの機能とUIの適切な組み合わせにマッチしたユースケースを作成できる。IT部門はそのユースケースに従ってモバイルアプリを導入すれば、従業員によるアプリの使用を促進するための有益なUXを提供できる。
アジャイル開発手法
急速に変化する今日のモバイル環境では、従来の製品管理手法やプロジェクト管理手法は通用しない。スクラム設計やリーン手法といったソフトウェアのアジャイル開発手法を採用すると、アプリケーション開発チームと製品管理チームは、従業員が求める基本的な初期リリース機能を搭載した最小要件を満たすアプリを開発できる。
その後、数週間単位という短期の更新リリーススケジュールを設定できる。ウォーターフォールモデルのような長期サイクルの手法では、ツールの差し替えや再学習が必要になる。だが短期のリリースを繰り返すアジャイル開発手法なら、更新は小規模なので、ユーザーが各リリース後にこうした対応をする必要はない。更新パケットのサイズも小さく、リモート端末への配布に便利である。
モバイルアプリのパフォーマンス監視
優れたモバイルアプリをグローバルな従業員基盤にうまく導入することと、必要なときに最適な水準で必ずアプリを実行できることは、全く別の管理課題である。例えば、アプリがテスト環境で問題なく動作し、米国において99.99%の稼働率で動作するからといって、遠くの国で同じ稼働率が達成されるかどうかは分からない。
アプリの動作水準を知る唯一の方法は、モバイルアプリのパフォーマンス監視システムを実装することである。パフォーマンス監視システムでは、生産性の向上方法に関する洞察が得られる。アプリがいつどこで使用され、どのようなサービスのボトルネックが発生し、トランザクションの呼び出しでどのようなエラーが発生したかを特定できる。また、コード中の問題の原因となり得るセクションまで正確に特定することも可能だ。
パフォーマンス監視システムが出力するこうしたデータを使用すると、管理者は問題に迅速に対処できるようになる。また、UXの設計者やアプリの開発者は、今後のリリースで変更すべき点を十分に理解できるようになる。
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継続的な向上
適切なモバイルUX設計の手法に従い、スクラム設計手法またはリーン設計手法を使用して、モバイルアプリの動作水準について理解することで、企業はUXや使用率を継続的に高めることができる。
もちろん、ユーザーによるアプリの採用を促進する方法は他にもある。例えば、ゲームの要素を生かす「ゲーミフィケーション」によって、実際に従業員の興味を引き付けて、標準アプリの新しい使用方法を見つけたり、革新することもできる。
企業のモバイル化計画は、重要なアプリケーションの特徴に注目しつつ、新しい水準の満足感を促進する有益なエクスペリエンスを従業員に提供するものでなければならない。従業員が満足すれば、従業員は顧客を満足させることができる。そして、最終的には収益が増加するのだ。
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