低価格路線のガストが1000円以上のメニューを提供した理由
驚きの費用対効果1万%を実現した、すかいらーくのデータ活用基盤とは
すかいらーくは、全国展開する「ガスト」でモバイルアプリとクラウドを用いたマーケティングとデータ活用の仕組みを構築した。その導入背景や製品・サービスの選定理由、導入効果について解説する。
すかいらーくは、「ガスト」や「バーミヤン」「ジョナサン」「夢庵」などファミリーレストランチェーンを全国展開する外食企業だ。その中でも、全国に約1300店を展開するガストは、すかいらーくグループの主力ブランドとなっている。
ガストは「幅広い客層・利用動機に対応できるファミリーレストラン」をコンセプトとし、洋食を中心に多様なジャンルの料理を提供する「お値打ち感」を重視している。あらゆる年代に対応したメニューを展開。30~40代女性を含むファミリー層を中心に、学生、1人客、シニアなどの幅広い客層をターゲットとしている。
すかいらーくでは現在、新聞広告をはじめとしたマス中心のマーケティングから、顧客中心の個別マーケティングへと重点を移している。その際に重要な役割を担ったのが、モバイルアプリとデータ分析基盤だ。
本稿では、すかいらーくが構築したオンラインマーケティングの仕組みとそれを支えるデータ分析基盤について解説する。
ガストアプリの利用状況から顧客ニーズや消費行動を把握
「従来のマーケティング施策では、新聞の折り込み広告がメインでした。しかし、新聞購読層の高齢化といった要因などから、若者へのリーチが難しくなっていたのです」。こう振り返るのは、すかいらーく マーケティング本部 インサイト戦略グループ ディレクターの神谷勇樹氏である。インターネット広告をはじめとしたさまざまな広告媒体によるマーケティング施策の展開も検討したものの、費用対効果が見込めず本格的な導入には至っていなかったという。
こうした課題を解決すべく、モバイルアプリの開発に着手した同社は、2014年10月に公式アプリ「ガストアプリ」をリリースした(図)。iOS版、Android版が利用可能で、アプリ限定のお得なクーポンや店舗検索、メニューの閲覧、フェア情報などの機能を備えている。また、店舗チェックイン、SNSでのアプリ紹介など、指定の行為によりポイントがたまる仕組みとなっている。
ガストアプリの導入をきっかけにして、すかいらーくでは、スマートデバイスの普及率の高い若年層と家族層へのリーチを拡大しただけでなく、アプリの利用データなどを解析することで、顧客のニーズや消費行動を迅速かつ正確に把握できるようになった。
神谷氏によると、ガストアプリのダウンロード数は取材時点で200万ダウンロード、将来的には3000万ダウンロードを目指しているという。
データ活用基盤をクラウドで構築
ガストの各店舗から集まるPOSデータ、アプリから生成されるログデータなどは年間で数億件のペースでレコード数が増えており、その勢いは加速を続けている。すかいらーくでは、そうした大量の情報を収集、保管、分析するためのデータ活用基盤をクラウドで構築した。
具体的には、データ管理プラットフォームにAmazon Web Services(AWS)のデータウェアハウス(DWH)サービス「Amazon Redshift」とトレジャーデータのデータマネジメントサービス「トレジャーデータサービス」を導入。また、分析プラットフォームにはSAPのデータマイニングソフトウェア「SAP InfiniteInsight」とTableau Softwareのビジネスインテリジェンス(BI)ツール「Tableau」を利用している。
トレジャーデータサービスは、特にガストアプリのビッグデータ分析ツールとして導入した。アプリ利用者のログデータ分析とキャンペーンの効果測定を短期間で行える点を評価した。また、前述の通り、アプリ利用者数の拡大によって収集するデータ量が今後大幅に増加することを想定し、需要に応じた臨機応変なシステム運用が可能なことも選定理由の1つだった。
「ログの処理方法やAmazon Redshiftとの連動に関しては、既に多くの先行事例がありました。グリー、良品計画でのユースケースや他社での導入実績など大きな判断材料でした。アプリ利用者の成長速度も未知数だったので、費用をできるだけ抑え、スモールスタートしたかったという狙いもあります」(神谷氏)
さらに、ガストアプリの提供を急いでいたこともあり、バックエンドの仕組みにはできるだけ時間を費やしたくなかった。同氏によると、データ処理基盤の構築に要した期間は1カ月ほどだったという。
目を疑う驚きの費用対効果の高さ
すかいらーくでは、モバイルアプリの提供にはじまり、データ分析基盤の構築に至るまで幅広いテクノロジーを駆使することで、顧客のニーズや消費行動に合わせたアプローチ手段を確立した。では、この一連の取り組みによって、実際にどのような成果が得られているのだろうか。
「ガストアプリの提供を開始してから1カ月後に効果測定した時点で、アプリ利用者数は新聞購読者数の10分の1の規模であったにも関わらず、クーポン利用者数は新聞広告の1.5倍という結果が出ました。その費用対効果は新聞広告の1万%に達します」(神谷氏)
アプリの行動データや店頭のPOSデータなど、膨大な量の顧客データを解析することで、「どのクーポンをどのタイミングで、誰に出せば効果が高いか」というように各種キャンペーンやクーポン施策の精度の向上と効率化を図った。その成果がクーポン利用率の高さに現れているといえる。
すかいらーくは従来、メールマガジンや携帯電話向けの会員に向けて、同じ内容のクーポン情報を画一的に送っていた。「お客さまによって来店したタイミングは違います。昨日食べたものと同じ商品のクーポンが送られてきたとして、今日も食べたいと思う人はそう多くないでしょう」と神谷氏は指摘する。
より精度の高いマーケティング施策を実現するためには、データの解析からモデリング、施策実行、検証までのPDCAサイクルを高速で回す必要がある。すかいらーくでは現在、SAP InfiniteInsightを用いることで、分析担当者のスキルレベルに依存せず、精度が担保できる仕組み作りを進めている。
また、データ分析に基づく意思決定について、神谷氏は次のようなユニークな成果例に挙げた。
昨今、「プチぜいたく」という言葉に代表されるように“ちょっと良いもの”を求める消費者層が増えてきている。その一方で、消費税の増税や景気の先行き不安などから外食を控える傾向がみられた。“外食は極力減らしたいが、せっかく外に食べに行くのであれば、ちょっと良いものを食べたい”というトレンドを仮説としてデータ分析から導き出し、低価格路線のガストであるにもかかわらず1000円以上のメニューを提供したところ、大好評を博したのだという。
これは副次的な効果といえるかもしれないが、アプリのリリース以降、ガストの業績はすかいらーくグループ全体を上回るようになったという。アプリの提供とデータ活用の取り組みは「ブランド価値の向上にも役立っています」と神谷氏は強調した。
以前に事例として取り上げたことがある良品計画(参考:ネットもリアルも「無印良品」 消費者の心をつかむ良品計画のO2O施策とは)でも、同じようにモバイルアプリを中核としたマーケティング施策やデータ活用の仕組みを構築していた。インフラの部分にクラウドサービスを利用している点も共通している。小売、流通、外食業界では今後、すかいらーくと良品計画の2つの事例のような導入モデルが増えてくるのかもしれない。
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