移り気なあなたのための「クラウドアプリ乗り換えガイド」:エンドユーザーの操作性がビジネスを左右
発展を続けるモバイルおよびクラウド市場では、エンドユーザーがビジネスの意思決定を大きく左右する。クラウドポータビリティがエンドユーザーの操作性にどう影響するかを見てみよう。
クラウドアプリケーションのポータビリティ(乗り換えやすさ)には、ツールや契約オプションなど、クラウドサービス事業者に依存するポータビリティと、アプリケーションおよびデータ、そしてクラウド事業者のサービスの全体的な相互運用性向上によって実現されるデータのポータビリティが含まれる。相互運用性やポータビリティが高いアプリケーションコード、データ、クラウドサービスツールに対応したサービスを構築し、それを提供することが、クラウドアプリケーションを通してエンドユーザーの操作性を向上させる鍵を握っている。
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エンドユーザーの操作性は、ユーザーと特定のアプリケーションとのやりとり(インタラクション)に伴う使用感であり、これに影響する要因にはハードウェア、グラフィックスに加え、速度と機能の両面におけるアプリケーションの体感的なパフォーマンスが含まれる。クラウドポータビリティは、ダウンタイムリスクの軽減やパフォーマンスレベルの向上を目的に、アプリケーションを異なるクラウド事業者間で移行できることを指す。
ポータビリティが確保された高パフォーマンスのアプリケーションを開発し、舞台裏で頻繁に行われる改良作業の影響がエンドユーザーに及ばないようにすることを目指す必要がある。アプリケーションはモバイル化が進むとともに、途切れなく動作することが求められる。ユーザーは、アップグレードやメンテナンス関連作業に伴うアプリケーションの停止を我慢してくれないからだ。
以下では、クラウドポータビリティについて、そしてエンドユーザーの操作性向上にこのポータビリティがもたらす効果について解説する。この効果は、前もってポータビリティと障害対策を考慮して設計を行うことと、クラウド事業者から顧客に提供されるオープンソースツールの充実によって実現される。
ポータブルなアプリケーションの設計
今後のアプリケーション開発では、クラウドポータビリティを考慮してアプリケーションを設計することが必要になる。それはなぜか。エンドユーザーの操作性がビジネスを左右するからだ。企業はクラウドサービス事業者に、適切で柔軟なオプションの提供を求めるが、クラウドポータビリティを考慮したアプリケーション設計は、エンドユーザーの操作性向上の第一歩になる。
クラウド用のアプリケーションを設計するに当たっては、オンプレミス型の展開に即した従来のコード作成方法を踏襲してはならない。各種のクラウドアーキテクチャを利用できるようにアプリケーションを設計する必要がある。CPUやデータストレージの管理に使われるアルゴリズムは、さまざまなクラウドインフラモデルで動作することを主眼に作成しなければならない。
さらに、クラウド用のアプリケーションは、データベース、ストレージ、帯域幅、自動スケーリングを考慮して設計する必要もある。これらは、クラウドアーキテクチャの中核をなしており、そのためにアプリケーション設計において従来よりも重要になっている。
また、クラウドはデータ処理速度が全てではないが、エンドユーザーが高いパフォーマンスを感じる操作性を確保する上で大きな役割を果たしている。ただし、アプリケーションは、高い機能的パフォーマンスを提供するように設計する必要もある。
データ転送に関しては、コーディングや管理の新しい方法が利用されており、その改良も急速に進んでいる。その一例がエンタープライズサービスバス(ESB)だ。ESBは、システムがデータのやりとりやアプリケーションの連係をタイムリーに管理できるようにする。ESBの仕組みでは、Webユーザーインタフェース(UI)アプリケーションによるデータの収集や、アプリケーションのUIを使用するエンドユーザーの操作が、使用可能な任意のCPUで処理される。クラウドアーキテクチャにおけるESBの機能は、CPUを最大限に活用できるようにすることにある。
CPUを最大限に活用するようにアプリケーションを設計すれば、エンドユーザーにとってのアプリケーションパフォーマンスも最大化される。CPU使用の管理は、このようにエンドユーザーにとってのアプリケーションパフォーマンスにプラスの影響を与えると同時に、企業にとってコスト低減につながる。ほとんどのクラウド事業者は従量課金制を採用しているため、企業は必要なCPUだけを使用すれば、費用を削減できるからだ。
ESBはデータを処理することで、つまりデータのポータビリティを高めることで、システムの全体的な相互運用性に影響を与える。ESBがクラウドでアプリケーションのポータビリティを向上させるのは、データのシステム間でのポータビリティと相互運用性を確保できるからである。
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障害に備えた設計:エンドユーザーに迷惑を掛けない
クラウドポータビリティを実現する設計のもう1つの側面は、エンドユーザーに迷惑を掛けないためのフェイルオーバーオプションやコーディングオプションを考慮して設計することだ。アプリケーションが提供されていないときや、機能していないときは、エンドユーザーに迷惑を掛けることになる。通常、こうした事態が発生するのは、システムのアップグレード時や、アクシデントまたはメンテナンスでシステムがダウンした場合だ。
モバイル化が進んだ現在では、システムのダウンタイムはあってはならず、エンドユーザーが許してくれない。エンドユーザーはアプリケーションの稼働を当然のこととして要求し、停電時はその例外になり得るが、それでもバッテリーが確保されていれば、電力が回復するまで、アプリケーションの稼働を継続させることができる可能性がある。
そこでクラウド用のアプリケーションでは、障害に備えたプログラミングが不可欠になる。ハードウェアを管理しているのはクラウドの事業者だからだ。これまでのオンプレミスのアプリケーションでは、自社のIT部門がハードウェアについて責任を負っていた。だが、クラウドのアプリケーションについては、クラウド事業者がその責任を負う。これは、アプリケーションの設計で対応する必要がある重要な変化だ。
クラウドを使用するSaaS(Software as a Service)のアプリケーションは、絶えず変更が加えられている。にもかかわらず、いつでも利用できるように設計されており、「常時オン」となっている。クラウドベースのSaaSアプリケーションのコーディングにおけるメリットは、何かを実際に試して動作を確認できることだ。システムを停止してエンドユーザーに影響を与えることなく、迅速にコードを変更することが可能だ。システムを停止せずに、クラウドアプリケーションの設計とコーディングが行えるようになっている。
クラウドポータビリティも考慮すべきポイントだ。アプリケーションの稼働中にクラウドアーキテクチャの変更が必要になる可能性について、アプリケーション設計で対応する必要があるからだ。クラウドポータビリティは、アプリケーションの機能とパフォーマンスの強化によってホステッドアプリケーションのエンドユーザーエクスペリエンスを大きく向上させるための新しい重要な要素だ。
多彩なサービスを実現するオープンソースの選択肢
クラウドアーキテクチャは発展を続ける中で、スムーズなアプリケーションポータビリティを提供できるように、適応あるいは進化しつつあるようだ。クラウドサービス事業者の間では、より柔軟なビジネス契約を可能にするオープンソースの選択肢を提供する動きが広がっている。事業者が提供できるオープンソースの選択肢では、アプリケーションをポータブルに設計し、必要があればアプリケーションのコードを大幅に変更しなくても、クラウドアーキテクチャを切り替えられるようにすることができる。
クラウドポータビリティは、さまざまな理由から企業顧客にアピールする。1つの大きな理由は、アプリケーションをあるパブリックまたはプライベートクラウドから別のクラウドに迅速に移行し、パフォーマンスの向上やコストの削減を図れることにある。規制順守やリスク管理のために、クラウドポータビリティが必要な場合もある。クラウドポータビリティが確保されていれば、例えば、あるクラウド事業者がセキュリティ侵害の被害にあっても、コードを変更してアプリケーションの再テストを行うことなく、アプリケーションを迅速に別の事業者のクラウドに移行できる。
一方、クラウドサービスの事業者にとって、クラウドポータビリティを提供するメリットは、より多くの顧客の獲得と付加価値サービスの販売拡大につなげられる可能性があることだ。事業者は、サービスの迅速かつ効果的なセットアップをサポートする専門コンサルティングや、プログラミングの支援といったサービスの提供に乗り出すかもしれない。こうした付加価値サービスが大きな収入をもたらすことになれば、クラウドポータビリティを提供することが、事業者にとっては収益の源泉となる可能性がある。
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