リクルートの「Airメイト」に「BigQuery」と「Dataflow」が不可欠だった理由:コスト、拡張性で「Amazon Redshift」と比較
リクルートは飲食店の経営状態を分析する「Airメイト」に、GCPの「BigQuery」と「Cloud Dataflow」を採用した。大量データ処理に強いGoogleクラウドのメリットを最大限に生かした事例として参考になりそうだ。
「iPad」を使ったPOS(販売時点情報管理)システム「Airレジ」に始まった、リクルートライフスタイル(以下、リクルート)の中小飲食店向けサービス群。そこに新たに加わったのが、経営を支援する「Airメイト」だ。レジでの情報、注文用ハンディー端末の情報に加えて、同社の既存サービスから得られる情報も活用して飲食店の経営状態を分析する。単なる可視化ではない、改善策の提案や個別施策の効果測定を実現するための分析機能を担うのは、クラウドサービス群「Google Cloud Platform」(GCP)のリアルタイムデータ処理サービス「Google BigQuery」だ。
紙文化が残る中小飲食店にデータ活用の風を吹き込むAirメイト
リクルートは、幅広いドメインでB2C(企業対個人取引)のマッチングを支援してきた。その中でもグルメ情報サイト「ホットペッパーグルメ」で扱ってきた飲食店業界は、中小規模の顧客が少なくない。大規模チェーンを除き、ほとんどの店舗でPOSシステムの導入や、その情報を生かした経営戦略立案などには至っていない。そうした中小規模の飲食店を支援するために同社が開発したのがPOSシステムのAirレジであり、アルバイトのシフト調整を支援する「Airシフト」、決済システムの「Airペイ」、POSデータを生かした接客を支援する注文端末「Airレジ ハンディ」だ。
「飲食業界では、いまだに多くの情報が紙で扱われています。営業終了後にスタッフがレジ締めと呼ばれる売り上げ集計をしなければならず、終電に間に合わないのが日常茶飯事というお店も少なくありません」。こう話すのは、リクルートのAirレジ事業責任者、山口順通氏だ。
紙文化が残っていることによる弊害は、深夜に及ぶレジ締めだけではない。複数店舗を経営する場合、それぞれの店舗の現状を知りたくてもその情報は紙でしかまとめられておらず、知りたいことを知りたいときに知ることができない、という現状があるという。POSシステムを導入すればこれらの課題を解決できるが、一般的にPOSシステムは少数の店舗を管理するにはオーバースペックで高価。とてもコストに見合わなかった。
そんな状況にある飲食店の経営を支援したいと、リクルートが4年前に始めたのがAirレジだ。その後Airシフトなど、ITを使って飲食店経営を支援するサービスを拡大していった。契約数は、Airレジ、Airペイ、Airシフト、Airレジ ハンディを合わせると約31万8000アカウントに上る。これらに加え最近、経営アシスタントAirメイトが加わった。
併せて読みたいお薦め記事
GCP活用事例
- kmタクシーがGCP「Cloud Spanner」を採用、新サービスでタクシー業界に新風吹き込む
- メルカリがデータ分析基盤に「Google BigQuery」を採用する理由
- 「Google Cloud Platform」へ移行した企業に、使って分かった魅力を聞いた
データ分析関連のクラウド機能比較
大量データ処理を感じさせず手軽に使ってもらうためにGCPを選択
Airメイトの基本機能は3つ。飲食店の状況把握、現状に基づいた改善施策の提案、改善施策の効果確認だ。これらを定量的に実施できている飲食店は多くない。実際のところ飲食店の経営は一般的に、勘と経験に頼った属人的なものになっているという。
「業績の悪い店舗には、他の店舗で業績を上げている店長を配置するなど、人に頼って経営をしているお店が多くあります。施策に対する振り返りや評価ができていないので、人材育成も簡単ではありません」(山口氏)
これを解決するのがAirメイトの目的だ。Airレジなど一連のサービスから集めた情報に加え、ホットペッパーグルメをはじめとするリクルートの既存サービスからも情報を集約、分析して、飲食店の経営に役立つよう加工、可視化する。Airメイトによって、これまで可視化できていなかった経営状況が、数値やグラフで把握できるようになる。「飲食店は状況に応じた打ち手を把握できるようになり、その施策の前後を比較することで効果測定も可能になります」と山口氏は述べる。
Airメイトのバックエンドでは膨大な量のデータが投じられ分析されているが、そうした規模の大きさや処理の重さを感じさせないことを重視して設計、開発した。しかもリクルート社内からは、Airレジユーザーの数十万店に使ってもらいたいという要望があることから、将来のスケールアップに耐えなければならない。ユーザー目線では有難い仕様だが、エンジニア泣かせともいえる。「大量のデータをそれと感じさせない手軽さで使ってもらえること、ユーザー規模が数十万店にまで拡大しても安心して提供できること、それらを満たすために選んだのがBigQueryでした」(山口氏)
機能面からGCP選定の理由を補足するのは、自身も飲食店を経営してきたというリクルートのAirメイトサービス責任者、甲斐駿介氏。飲食店の従業員は基本的に職人であり、データを集計したりデータを見て判断したりすることは得意ではないと語る。
甲斐氏が以前所属していた会社には30人ほどの従業員がいたが、表計算ソフトを使えるのは同氏を含めて2人しかいなかったという。「こういう会社でもデータを見て次の施策を打てるようにしなければならないので、シンプルに、見たいところをクリックするだけで、自分が何をしなければならないかが分かる、ということを重視しました」と同氏は語る。それを低コストで実現するために必要だったのが、BigQueryとGCPのリアルタイムデータ処理サービス「Cloud Dataflow」(以下、Dataflow)だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.