「ロボット vs. 人間」という戦争は起こらない
ロボットの業務利用は避けられないのに、ロボット導入を物理的に阻害する3つの理由
「ロボットは仕事を奪う」という恐ろしげなニュースの見出しは無視しよう。実際に起こり得る展開とは、人間とロボットが相互成長することだ。だが、ロボットが普及するには3つの物理的制限がある。
地平線の向こうまで無限の列をなして直列不動の姿勢をとり、月の光に照らしだされた金属製の頭部がキラリと光るロボットの軍隊がいる。いったん指令を受け取ると、彼らはわれわれのオフィスや工場へ進軍を開始し、われわれを机やワークステーションから押しのけてわれわれの仕事を奪うことになるのだろう。
これが、この手のニュースを読む時に感じることだ。ロボット工学と人工知能(AI)の急速な進歩が、社会の生産的な一員となることを意味する全ての存在に向かって真っ向から収束しつつあると考えるのも無理からぬことだ。コンサルタント会社のMcKinsey & Companyは「世界中で4億〜8億人の人々が2030年までに自動化によって行き場を失い、新しい職場を探す必要がありそうだ」と推定したが、皆がそれを恐れるのは想像に難くない。
幾つかの見方を整理してみよう。
ロボットの導入を回避できない理由
ロボットやAIについてパニックを起こす前に、企業が人間の代わりにロボットを導入する理由を理解することが重要だ。
筆者が職務として関わってきた製造業を例に取ってみる。この業界は自動化が始まる最初の分野と考えられている。
読者は、おそらく米国製造業の復活について読んだことがあるだろう。同様に、米国製造業者が直面している労働力不足についても聞いたことがあろうかと思う。自動化に懸念を抱く人々には意外な事実かもしれないが、人間は依然、製造過程には絶対に不可欠なままである。実際、コンサルティング企業のBoston Consulting Groupは、製造タスクの最大90%は依然として人間が実行している、と推定している。正確な数値は製造業の業種によって異なるが、工場の現場では人間が最大の価値を生み出している貢献者である、と言っても過言ではない。
残念なことに人間は、工場にとって、プロセス変動(ばらつき)という課題に対する最大の貢献者でもある。
だから今日の製造業は、数多くの人間を抱えていることを課題の1つとして認識してはいない。実際の課題は、高い離職率、応募してくる労働者の不足、長時間のトレーニング、労働者の安全を脅かすリスク、そして、これらの要因がバリューチェーン内で生み出す予測不可能性である。工場は極めて過密なタイムライン(かんばん方式を思い出してほしい)と低いマージンで稼働している、そして、この予測不可能性は、たいていの場合、採算性の低下を招くことから望ましくない要因とされている。
しかし、多数のロボットを集めて、全ての人間を追い出すことがいとも簡単なのであれば、すでに今までにそのようになっていたであろう。真実はこうだ。ロボットとAIが極端に進歩しても、ロボットの導入と普及には物理的な制限があるということだ。以下にその3つの概要を述べよう。
1.ロボットはウサギではない。ロボットは非常にゆっくりと増殖する
ロボットを使ったシステムは、非常に複雑に機械化された製品だ。例えば「膨大な需要」というインセンティブを与えられさえすれば、複雑に機械化された製品の量産はいとも簡単にできるようになるものなのかどうかを、イーロン・マスク氏に尋ねてみるといい。まったく簡単ではないのだ。
国際ロボット連盟(IFR)は、世界の産業用ロボットのユニット数が2016年の180万から2020年には300万に増加すると予測している。大きな数字のように聞こえるだろうか。金融グループGoldman Sachsの調査によると、世界中で3億4000万人以上が製造業に従事しているという。従って、実際には、ロボットのユニット数は、認識されている需要に比べてかなり遅い速度で伸びているのだ。
経済学者のカメール・ダロン・アシモグル氏とパスクアル・レストレポ氏が正しければ、1ユニットのロボットは5.6人の労働者に取って代わる。一見、その予測数は多いようだが、実際には世界の製造業に従事する労働者の2%未満の数字だ。
2.市場はロボットが持ち合わせないスキルを求めている
ヘンリー・フォード氏なら、自分の工場に数台の優秀なロボットを導入する計画は打ち切っていたことであろう。彼の施策は理想的なロボットの使用事例であった。つまり、大量生産、ほとんど変わることのない生産品目の少なさ、そして、品目のバリエーション展開がほとんどないことだ。
残念なことに(ロボットにとって)、今日の製造現場の環境は、まったく逆の傾向に向かって進んでいる、つまり、大量生産から「マスカスタマイゼーション」へ向かっている。たった1つのロットサイズを用意する、といった具合だ。現在、製造会社は、職人技に付随する高い単価コストを発生させることなく、フレキシブルにテーラーメイドの製品を提供するよう取り組んでいる。最たる例はFord Motor Companyだ。100年前にヘンリー・フォード氏は、「お客さまのお好きな車体色を選ぶことが可能です。それが黒色である限りは」と言った。今日では、「Ford F-150」は414万7200種類の驚異的な組み合わせ数を持ち、もしくは何をバリエーションの数として捉えるかによっては、20億種類にもなる。
上記のような環境が、まさにロボットの導入に苦労する分野だ。研究機関SRI Internationalのコマーシャル研究開発担当副社長であるピーター・マルコトゥリオ氏は、「機械は高度に反復性の高い大量生産に優れている」と述べている。
「残念ながら製造業の傾向は、小規模生産、より多くのプロセス変動、絶えず変化するコンポーネントに代表される『マスカスタマイゼーション』であり、機械にとっては自動化が困難な分野である。なぜなら、柔軟なロボットシステムを設定しプログラミングするための本質的な初期費用がかかるためだ。しかし、人間が状況に応じて調整するのは極めて容易なことである。人間はより柔軟で、機械よりも速く学ぶことができる」
3.全てのロボットの背後には、人間の専門家集団が控えている
工場は、非常に繊細なリズムで操業し、タクトタイム(品物を1つ生産するのに必要となる工程作業時間のこと)のビートに合わせて作業を進行する。プロセスエンジニアは、ある労働者がどのくらい素早く作業できるかを正確に把握し、その作業員が部品を探すためにラインを停止する必要が一切ないように、原材料や部品が正確なリズムで全ての作業ステーションに届くよう複雑なシステムを設計している。
ロボットが作業員に取って代わり、しかもロボットがその作業員よりも早く作業する場合は、その作業ステーションに関わるマテリアルフローも見直しを受けて再構築される必要がある。工場は複雑なシステムになっており、あるノードでの変更は、隣接する全てのノードの変更へと連続的につながっていく。
そのため、ロボットの使用を開始する時点で、全てのロボットは、プログラマー、プロセスエンジニア、そして熟練技術者からなるエコシステムを必要とする。さらに、ロボットに本来備わる優位性に関するプロセスを再構築するためには、はるかに大掛かりな再設計が必要となる。この変化による二次的な影響はサプライチェーン隅々まで及ぶため、人間が対処する必要が出てくる。すでに言及したように、実際、彼らのような人間は、工場内でも最も希少な人的資源である。
このSF映画は、どんなシナリオ展開になるだろうか
誰かが侵略してくる物語はみんな大好きだ。ロボット、エイリアン、未知の生命体などが登場する物語は映画館を埋め、新聞を売るためのネタ(または、現代では、クリック数を上げるネタ)となる。
筆者は、現実には人間、ロボット、AI、将来登場する未知の技術との関係は、この200年の技術革新の中でわれわれが見てきたものと同じパターンを踏むと考えている。不要となる仕事もあれば、一部の仕事は強化され、そして多くの新しい仕事も創造されるだろう。
われわれの社会の進む方向は新技術によって自ら向きを変え、または向きを変えさせられるであろうことに疑いはない。しかし、ロボット軍団が侵略してくる、という話は、もうしばらくは小説の題名となり続けるだろう。歴史家にとってはエキサイティングであっても、映画ファンにとってはそうでもないのだが、実際の物語は、人間と機械の一体化であり、「人間 vs. 機械」ではない。
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