「製造業の未来」を変える量子コンピューティング技術とは:量子コンピューティング技術への期待
Siemensは共同研究を通じて、シミュレーション分野における量子コンピューティング技術の活用方法を探る。同社が注目する量子コンピューティング技術は、何が特徴的なのか。
ドイツの電機メーカーSiemensは、量子コンピュータを手掛けるフランスの新興企業Pasqalと共同研究を実施する。両社は量子コンピュータを活用して、より正確なデジタルツイン(実世界に存在する人や機械を仮想世界に再現したもの)を用いたシミュレーションを開発する方法を探る。
Siemensが注目 Pasqalの量子コンピューティング技術の特徴とは
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共同研究の資金はSiemensが提供する。研究にはPasqalの学術パートナーである英国エクセター大学(University of Exeter)が参加する他、理論物理学の研究グループに所属する学術関係者がスポンサーとして参加する。
Pasqalは、中性原子(電子と陽子が同数である原子)を使った量子コンピュータを専門に扱う企業だ。同社はSiemensのグループ企業Siemens Digital Industries Softwareと協力して、量子コンピューティング技術と複数の物理学(電磁気学や流体動力学など)に基づいた「マルチフィジックスシミュレーション」の開発を進める。
SiemensとPasqalの共同研究では、複雑な方程式を解くPasqalの技術をSiemensの「CAD」(コンピュータ支援設計)ソフトウェアや解析用ソフトウェアに応用する。これにより両社は、自動車やエレクトロニクス、エネルギー、航空宇宙といった分野におけるシミュレーションの効率化を支援する。
Pasqalの量子コンピューティング技術は、中性原子を光ピンセットで制御する。光ピンセットは、レーザー光の集光によって発生する力で微粒子を捕捉、固定する技術を指す。同社はレーザー光を用いて中性原子を使った量子プロセッサを設計し、量子コンピューティングにおいて以下を実現する。
- 量子コンピュータのスケーラビリティ(拡張性)向上
- 量子ビット(量子コンピュータにおいて計算を実行する素子)の接続性向上
- コヒーレンスタイム(量子ビットがその理想の状態を維持できる平均時間)の長時間化
Siemensの顧客企業は、自動車やエレクトロニクス、エネルギー、航空宇宙といった領域で事業を展開する。これらの分野の企業は、物理的なプロトタイピング(試作品を用いた事前検証)にかかるコストや時間を減らすため、より正確なデジタルツインのプロトタイプを求めている。PasqalとSiemensは量子コンピュータを用いて、顧客企業のこうした要望に応えようとしている。
Siemens Digital Industries Softwareでシミュレーションおよびテストソリューション担当のシニアバイスプレジデントを務めるジャン・クロード・エルコラネリ氏は、次のように語る。「Pasqalのアルゴリズムと中性原子を使った量子プロセッサは、複雑な計算問題を解くための理想的なツールであり、当社の顧客との関連性も強い」
Pasqalは2022年3月、同社の中性原子を用いた量子プロセッサが、Microsoftが提供する量子コンピューティングのクラウドサービス「Azure Quantum」で利用可能になると発表した。これによりAzure Quantumのユーザーは、新しいタイプの量子プロセッサをデジタル方式とアナログ方式の両方で実装し、量子コンピューティング機能を利用できるようになる。
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