SAP「ERPの保守サポート値上げ」が“コスト削減”に変わる条件:ERP保守の値上げで企業が考えるべきこと【後編】
SAPは保守サポート料金の値上げを実施する。これを受けて、ユーザー企業が対処に迫られる事項が出てくる。企業は何を検討すべきなのか。
ERP(統合業務)パッケージベンダーのSAPは、同社が提供するソフトウェアの年間保守サポート料金について、最大3.3%の値上げを発表した。値上げは2023年1月に実施する。価格改定はユーザー企業にどのような影響を与えるのか。
「SAPは顧客がシステムを刷新する場合でも、同社の製品やサービスを使い続けるという動きを見せれば、好意的な姿勢で契約交渉に臨んできた」。調査会社Forrester Researchでプリンシパルアナリストを務めるリズ・ハーバート氏はそう話す。とはいえユーザー企業は、SAPの保守サポートを継続する以外にも複数の選択肢を持っている。ハーバート氏によれば値上げを機に検討すべき点が出てくる。
コスト削減につながる選択肢も
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値上げの対象となるのは既存のソフトウェア契約の保守サポート料金で、各地域の消費者物価指数(CPI)に基づいて改定する。対象の保守サポートは以下の通り。クラウドサービスの契約や、新規でソフトウェアを購入する際の保守サポート料金の定価は値上げの対象外だ。
- SAP Standard Support
- SAP Enterprise Support
- SAP Product Support for Large Enterprises
「ERPで競合する ベンダーもSAPの顧客を獲得したいという野望を持っているため、SAPと同様に価格交渉には好意的に応じるだろう」とハーバート氏は話す。他にも、企業向けソフトウェアの保守サポートを提供するRimini Streetといった、サードパーティーに乗り換えることも選択肢になる。その場合、保守サポート料金が半分程度になる企業もあるという。
ただし、Rimini Streetのようなサードパーティーが提供するサポートを受ける場合、ユーザー企業はSAPが提供するサービスの強化を享受できなくなる可能性があるとハーバート氏は警告する。とはいえ、サードパーティーの保守サポートを利用することが、既存システムの稼働を継続する手段になることは確かだ。SAP製品のライセンスを減らして保守サポートを減額することも検討可能だが、「それは現実的ではない」と同氏は付け加える。
ユーザー企業がコスト削減をするための方法は他にもある。ハーバート氏はユーザー企業に対し、今回の価格改定をきっかけとして、以下のような領域のコスト配分を見直すことを提案する。
- インフラ
- クラウドサービス
- 保守サポート
- 利用していないソフトウェア
- 冗長なシステム
コスト抑制の他にも、業務効率化やシステムの操作性向上が実現可能かどうかを検討する良いタイミングになると同氏はみる。選択肢になるのは、外部委託や自動化技術の活用などだ。
Rimini Streetで欧州・中東・アフリカ地域(EMEA)担当ゼネラルマネジャーを務めるエマニエル・ホース氏は、「SAPの顧客にとって、今回の値上げは悲観的なものになる」と語る。SAPは、ERPパッケージ「SAP ERP Central Component」(ECC)の保守サポートを2027年末に終了させることを計画している。ユーザー企業はSAP製品への今後の投資をどうするのか、決断に迫られている状況だ。「ユーザー企業は財務面を考慮して計画を練るために、なるべく多くの時間を必要としている」(ホース氏)
SAP製品のユーザー企業は、高度にカスタマイズされた既存システムをERPパッケージ「SAP S/4 HANA」に移行させることが、自社の進むべき道として正しいのかどうかを判断する必要がある。その移行には膨大なコストが必要だが、ホース氏は「保守サポート料金が上がれば、ERPシステムの移行を検討するのための予算を圧迫することになる」と指摘する。
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