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プログラミング教材を小学生はどう使っているのか? 学芸大付属小金井小に聞く東京学芸大学付属小金井小学校に見る「プログラミング教育」の可能性と課題【前編】

2020年に、小学校におけるプログラミング教育が必須化した。小学校はどのようなプログラミング教材を活用し、どのように授業に生かせばよいのか。東京学芸大学付属小金井小学校の事例から探る。

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東京学芸大学付属小金井小学校の小池翔太教諭

 2020年度実施の新学習指導要領により、小学校におけるプログラミング教育が必須化した。各校の教員は「算数」「理科」といった各教科や「総合的な学習の時間」などの授業の中で、プログラミング教育の要素を盛り込んで授業を進める必要がある。

 教員のプログラミング教育を支援すべく、さまざまなベンダーがITを使ったプログラミング教材を提供している。どのようなプログラミング教材があり、それぞれ授業でどのように役立つのか。プログラミング教育に詳しい小池翔太氏に、授業で実際に活用しているプログラミング教材の特徴や活用方法、その成果を聞いた。東京学芸大学付属小金井小学校(以下、小金井小学校)の教諭である小池氏は、同校の「ICT部会」に所属して研究活動に取り組むなど、教育現場のIT活用やプログラミング教育を精力的に推進する。

1.プログル

 「プログル」は、特定非営利活動法人みんなのコードが提供するプログラミング教材だ。原稿執筆時点では、算数と理科向けのプログラミング教材を提供する。小金井小学校では、児童はプログルで「ビジュアルプログラミング」を実践する。ビジュアルプログラミングとは、ブロックやアイコンといった視覚的なプログラム部品の組み合わせによるプログラミングを指す。プログルは、Webブラウザで利用可能なビジュアルプログラミングツールを用意する。

 小金井小学校は、算数の授業でプログルを活用している。「幾何」の単元では、ブロックを組み合わせてキャラクターの動作を制御し、多角形を作成するプログラミングに取り組む。「代数」の単元では、隣り合った値の大小を比較して交換を繰り返す「バブルソート」のプログラミングを通して、中央値の理解を深める。

 みんなのコードの研究委員を務める小池氏は、プログルについて「データから最頻値を求めるといったプログラムをすぐに利用できるなど、他の教材にはない独自の機能が充実している」と評価する。ゲーム感覚で取り組める点も、プログルの魅力だという。例えばプログルにはレベルアップ機能がある。児童はプログルが指定した図形を描くプログラムを完成させると、レベルを上げることができる。プログラムを完成させ続けることで、最終的には好きな図形をプログラムで描くことができるようになる。

2.LINE entry

 「LINE entry」(2024年3月に公開終了)は、LINEが提供するプログラミング学習サイトだ。Webブラウザで利用可能なビジュアルプログラミングツールと、プログラミング演習用の教材を用意する。教材にはストーリー性があり、LINEのキャラクターが登場するなど、児童がなじみやすいように工夫を凝らす。

 教材監修という立場でLINE entryに関わる小池氏は、算数の単元「縮図や拡大図」でLINE entryを活用する。プログラムを用いて縮図や拡大図を描くことを通して、児童に図形の性質に対する理解を深めてもらうことが目的だ。緻密な図形を正確に作成できるという、コンピュータの特徴を生かせるメリットがある。

 LINE entryは、教員が授業で児童への解説に使用できる投影用のスライドや、授業の進行例を記載した指導者用ガイドブックを用意する他、印刷して使える児童用のワークシートを用意している。「児童が紙で考えた内容を、ビジュアルプログラミングツールで実際に機能するかどうかを確認できる点が便利だ」と小池氏は話す。

 他にも小池氏は、LINE出資の一般財団法人LINEみらい財団が無償で提供するオンライン形式の出張授業「オンライン出前授業」について「日々の業務に追われ、プログラミング教育について考える余裕のない教員を助ける手段だ」と評価する。

3.PaSoRich

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写真1-1 授業でPaSoRichを利用する様子

 オープンソースの「PaSoRich」(パソリッチ)は、ビジュアルプログラミングツール「Scratch」の拡張機能だ。PaSoRichを活用することで、Scratchでキャッシュレス決済用のプログラムを開発することが可能だ。PaSoRichでは、ソニーの非接触通信技術「FeliCa」準拠のICカードを利用できる。同じくソニーの非接触ICカードリーダー「PaSoRi」(型番:RC-S380)にICカードをかざすと、PaSoRichはICカードの固有識別番号「IDm」を読み取り、Scratchに送る。

 PaSoRichの開発者である林 向達氏と共同で、PaSoRich活用の研究に取り組む小池氏は、これまで紙で利用してきたクラス独自の通貨「コネクト」を、電子決済としても利用できるようにPaSoRichを活用(写真1-1)。PaSoRichを用いた決済やチャージを正常に機能させるために必要なプログラムや、PaSoRichを用いた決済をクラス内で活用する方法について、授業で考える場を設けている。

4.NHK for School

 「NHK for School」は日本放送協会(NHK)が提供する、学習者向けの学習支援サイトだ。NHKの教育機関向けテレビ番組のアーカイブ動画を中心に、さまざまな教科に関する10分前後の動画教材を配信する。小金井小学校は、算数の授業にプログラミング教育番組「Why!?プログラミング」の動画教材を生かす。登場人物が直面するさまざまな問題を、Scratchによるプログラミングで解決するのが、Why!?プログラミングの主な内容だ。

 NHK for Schoolが配信する動画教材について、Why!?プログラミングの番組委員の顔も持つ小池氏は「ストーリー性や登場人物の掛け合いがあり、エンターテインメント性に優れている点が魅力だ」と話す。動画教材で扱うプロジェクト(プログラム)をScratchの公式サイトで提供しており、教員がすぐに授業で活用できる点も、NHK for Schoolの利点だと同氏は評価する。

現れ始めた「プログラミング教育の成果」

 小池氏は、授業にプログラミング教育の要素を盛り込むメリットとして、児童が教員やクラスメートからのフィードバックを得ながら、成果物の改善を繰り返すことができる点を挙げる。国語や算数などの教科では、児童に問題に解答してもらい、答え合わせをする授業が一般的だ。こうした授業だけでは、児童の論理的思考力や、問題に繰り返し挑戦する力を育む上で十分ではないとの見方がある。プログラミング教育では、意図する成果物を完成させる課程で、児童は改善方法を論理的に考える力や、失敗を繰り返してでも挑戦する力を鍛えることができる。

 他にも小池氏は、プログラミング教育を実施して「他の授業では目立ちづらかった『プログラミングが得意な児童』に対するリスペクト(尊敬する気持ち)や、日常生活を便利で豊かにするさまざまな物がプログラミングによって支えられているという気付きを児童に与えている」と話す。


 中編は、プログラミング教育を実践する教育機関が抱える課題を紹介する。

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