まさかAppleが? “労働組合つぶし”に使った汚い手口:英国Apple Storeの労働問題【第2回】
英国でApple Storeの従業員が労働組合を結成する動きが広がっている。Appleはこうした活動に積極的に介入を試み、従業員が労働組合に加入する権利を行使するのを阻止しているという。その実態とは。
Appleの直営店舗「Apple Store」の労働問題に注目が集まっている。英国ではグラスゴー店、ホワイトシティー店、サウサンプトン店で従業員が労働組合を結成した。Apple Storeの従業員が、IT連合労働者組合(UTAW:United Tech and Allied Workers)に加入するケースもある。
UTAWに加入したApple Store従業員(以下、A氏)が、匿名を条件に体験を語った。同氏が労働運動を始めたきっかけと、その後直面した「労働組合つぶし」の実態とは。
従業員が語ったApple Storeでの体験
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連載:英国Apple Storeの労働問題
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Appleで働く人々は比較的高い給与と福利厚生のおかげで、長期にわたって在職するのが一般的だという。「Apple Storeの仕事は安定していて信頼性があるからこそ、従業員は長くとどまろうとする。素晴らしい福利厚生があり、他の小売業と比べても給与は高い」とA氏は語る。
だが10年近く勤務した従業員も、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)を経て店舗勤務に戻ったときに、Appleに対する態度が変わり始めた。パンデミックの真っただ中にもかかわらず街は混雑し始め、生活費は急激に高騰した。そうして人々は、自身が労働に見合った対価をもらっているかどうかを強く意識するようになった。Apple Storeの従業員たちは、「Appleが全事業を通じて得ている利益に対して、従業員の報酬が不当に低過ぎるのではないか」と考えるようになったという。そのタイミングでAppleは昇給をしたが「当時のインフレ率に見合わない、驚くほど低い額だった」とA氏は振り返る。
パンデミックの経験から、世界各地のApple Storeの従業員たちは「新しいやり方で連帯するようになった」とA氏は補足する。例えばA氏がいた店舗の従業員は全員、ゲーマー向けボイスチャットツールの「Discord」を利用するようになり、世界各地のApple Storeの従業員とつながりを持って対話をしていた。
米国のApple Store従業員や、Amazon.comの物流拠点の従業員が労働組合を結成した出来事も、「英国でも労働組合の結成は可能だ」と確信して行動を起こすきっかけになったという。
A氏が経験した、Appleの「労働組合つぶし」
Appleは労働組合結成の動向を軽視しなかった。A氏によればAppleは、労働組合に関する虚偽の情報を職場に広めたり、職場での組合活動に制限を掛けたり、労働組合に関わるあらゆるプロセスを遅らせて労働組合が機能していないように見せようと仕向けたりと、さまざまな形で介入してきた。
A氏によれば、ほとんどの従業員が「労働組合はうそをついている」「労働組合は実現できないことを約束している」「労働組合はAppleにはふさわしくない」などと聞かされている。これらのメッセージは経営陣が発信する「決まり文句」であり、さまざまな場面で繰り返されていたため、「従業員は、それが決まり文句であることを十分に認識しており、互いにその認識を共有していた」という。
UTAWの事務局に在籍するエラン・コーエン氏は、こうした手口を「受動的攻撃性の労働組合つぶし」と表現する。経営陣は「第三者に頼らず、自分で調べ、事実だけに目を向けろ」と言いつつも、職場で労働問題に関する議論が盛り上がらないようにする仕組みを幾つか用意している。結果として「従業員は職場で労働組合について話したり、質問したりすることを恐れるようになる」とコーエン氏は説明する。同氏によると、Appleには「勧誘と配布を禁止するポリシー」があり、従業員が自身の事業を宣伝したり、職場で政治活動をしたりすることを禁じている。このポリシーが、職場で組合活動について論じることを抑制するという。
「Appleは、職場での組合活動を防ぐためにこのポリシーを利用している」とA氏も語る。その規制は職場で過ごす全ての時間に適用されるという。労働組合について話題にしているところを見つかった従業員は、上司からそのポリシーを示され、その内容を理解するよう求められる。「上司は従業員を脅し、事務室に連れ込み、活動を続ければ深刻な状況に陥るかのように説明する。懲戒処分をちらつかせ、失職する恐れがあるとほのめかす」とA氏は説明する。
Appleの管理職はこのポリシーを扱う方法について「極めて慎重を期して」おり、「組合活動をして処分を受けた従業員は事実上誰もいない、と主張できる」というのがA氏の見解だ。現実に懲戒処分を受けることがないとしても、従業員は「組合活動をすると不快な思いをする」と繰り返し思い知らされることになる。
UTAWは個々の労働者の訴えをまとめて、このポリシーへの異議申し立てをしている最中だ。ただしこの申し立ては雇用審判所(英国における労働分野の裁判所)まで持ち込まれる可能性がある、とA氏は見ている。
「雇用主には、労働組合結成を求める労働者に不利益を与えないようにする義務がある。労働組合に加入する権利は英国の法律で明確に保護されている」とコーエン氏は説明する。そのため、Appleの「勧誘と配布を禁止するポリシー」に強制力はない、というのがコーエン氏の見解だ。このポリシーによって誰かを罰しようとした時点で法律に違反するためだ。「このポリシーの狙いは、労働運動が問題になる可能性を労働者に強く印象付け、労働組合結成の交渉を沈静化させることだ」(コーエン氏)
第3回は、Appleの人員削減の実態について解説する。
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