SSDもHDDもなぜ「急に売れなくなった」のか?:ストレージ市場に起きた想定外【後編】
ストレージ市場では、HDDベンダーだけではなくSSDベンダーの売上高も2022年から2023年にかけて急落するという深刻な状況に陥り、さまざまな“異例の事態”が巻き起こった。HDD、SSD市場に何が起きているのか。
SSDやHDDを手掛けるストレージベンダーの業績は、2022年から2023年にかけて軒並み大幅な減収に陥った。深刻な販売不振はHDDばかりではなく、市場の成長が続いていたSSDにも及び、複数のSSDベンダーによる異例の大型対策を招いた。ストレージ業界で何が起きているのか。なぜSSDもHDDも売れなくなったのか。
SSDもHDDもなぜ急に売れなくなったのか?
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HDDと同様、SSDの需要も2022年から2023年にかけて低迷した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(感染症の世界的な流行)期間中に、企業がSSDをまとめて調達するという特需が終わると、SSDの需要が減少して供給過剰状態となった。デスクトップPCやノートPCなど、クライアントデバイスの購入が需要が鈍化したことも、SSD市場が低迷する一因になった。HDDが売れなくなった主な原因も、パンデミックを機に企業がHDDを大量に購入したことの反動で、需要が一気に落ち込んだことだった。
SSD市場の低迷を受けて、SSDベンダーは事業方針の転換を迫られるほどの苦境に陥っていた。キオクシアとWestern Digitalの合併交渉がいよいよ“まとまる”のではないかという臆測が浮上したのも、SSD市場が低迷している中での出来事だった。ただし両社のこの合併交渉は、決裂したとみられている。
その後Western Digitalは、同社の事業をNAND型フラッシュメモリ分野とHDD分野を担う2社に分割すると、2023年10月に発表した。NAND型フラッシュメモリとHDDそれぞれの市場に特化した戦略を強化するのが狙いだ。
ベンダー各社が、発売予定時期よりもかなり早期に新製品を発表する動きも目立った。需要が低迷する中で、市場の注目を喚起することが目的だったと考えられる。2023年は、Samsung ElectronicsなどのSSDベンダーがメモリ製品群の減産に踏み切る動きも見られた。
半導体市場リサーチ会社Objective Analysisのゼネラルディレクター兼半導体アナリストのジム・ハンディ氏によれば、HDDベンダーと同様、SSDベンダーも売り上げ面では大手クラウドベンダーに依存している。大手クラウドベンダーは複数社が一斉にストレージの調達に動くことがあるため、これもSSDベンダーの売り上げが大幅に減少する一因になった可能性がある。「複数のクラウドベンダーが一時的に購入をやめれば、半導体業界の売り上げは大幅に減少する」とハンディ氏は語る。
そうした中でも、SSD市場では2023年に回復の兆しがあった。調査会社TrendForceの報告によれば、NAND型フラッシュメモリ市場全体の売上高は、2023年第3四半期(2023年7〜9月期)に前四半期比2.9%増加した。2023年第4四半期(2023年10〜12月期)には、前四半期比24.5%の増加となり、2024年も回復傾向が続いている。
AI技術とストレージの需要
2023年は、さまざまなデータを自動生成するAI(人工知能)技術である生成AIへの投資熱が高まった年だった。これはストレージ市場にどのような影響を与えたのか。ストレージベンダーは、一時的に生成AIへと投資が集中したことで、ストレージの売上高の一部が失われることなったとみている。
だがAI技術導入の初期段階が過ぎ、本格的な導入期へと移行するにつれ、AI技術の需要はストレージの需要増につながると考えられる。学習や大規模言語モデル(LLM)の運用にはストレージが欠かせないからだ。
HDDベンダーSeagate Technologyのエグゼクティブバイスプレジデント兼チーフコマーシャルオフィサーであるバンセン・テー氏は「LLMをトレーニングするための学習データ用のストレージとして、ユーザー企業は総所有コスト(TCO)を抑制できるストレージを必要としている」と話す。テー氏が例に挙げるのは、レーザーによる加熱でデータ書き込みの信頼性を高める技術「熱アシスト磁気記録方式」(HAMR:Heat Assisted Magnetic Recording)を使い、記録密度を向上させたHDDだ。
AI技術を活用する際に重要になる要件の一つは、より多くのデータを、より少ない消費電力で保存できるストレージだ。この要件は、HDDではなく大容量のSSDを検討する上でも当てはまる。
「HDDだけではなく、SSDもAI技術の需要に応じて変化しようとしている」。調査会社Gartnerのリサーチバイスプレジデントを務めるジョセフ・アンスワース氏はそう語る。変化の一つになるのは大容量化だ。「AIモデルを洗練させるためにより多くの学習データを使うのであれば、そのデータを保存するためにより多くのストレージ容量が必要になる」とアンスワース氏は説明する。
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