「ERPカスタマイズ」を最小限に抑えながらシステムを刷新する秘策は?:英国Co-opが進めるERPのクラウド化【後編】
ERPの移行や導入では、業務に合わせたカスタマイズは避けられないものの、最小限に抑えることは可能だ。ERPシステムの過剰なカスタマイズを回避した英国小売大手Co-opから、そのヒントを学ぼう。
基幹システムの刷新は避けては通れない課題だ。特にERP(統合基幹業務)パッケージ「SAP ERP Central Component」(SAP ECC)は2027年にサポート終了を迎えることから、移行が喫緊の課題となっている。その実現には、現場の理解を得ながら、システムの改修範囲や移行手順を決め、システムを取り入れた業務プロセスの設計を進めるといった骨の折れるタスクをこなさなければならない。英国の消費者協同組合Co-operative Group(以下、Co-op)の取り組みから、その解決策を探る。
ERP移行を阻む“思い込み”とは?
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小売業界のシステム改革
2021年末、Co-opは業務変革プロジェクトを完了した。この変革で重視したのは、インメモリデータベース「SAP HANA」を採用したSAP ECCを基軸に据える業務だ。具体的には基幹取引業務、サプライチェーン管理、商業に関する業務をSAP ECCで実現した。
Co-opにおけるSAP ECCのカスタマイズは30項目ほどで済んだ。大規模な組織が使用するSAPのERPシステムに必要なカスタマイズ項目数としてこれは比較的小さい数字だと同組織のディレクターであるイアン・コックス氏は誇りに思っている。
財務変革の一環としてCo-opは、SAPの次世代ERPパッケージ「SAP S/4HANA」の導入に着手しようとしている。SAP S/4HANAのカスタマイズについてコックス氏に尋ねると、次の意見が返ってきた。「ERPシステムの導入に際して、組織は『われわれが実施している業務のやり方とは違う』『われわれは特別だ』と考えがちだ。誰もが自分はユニークだと思っている」
だがそうした考えは思い込みに過ぎない。SAP S/4HANAの新規導入に当たって、コックス氏は「われわれは他の大手小売企業や小売企業の財務部門と変わらない」と話す。思い込みを排除しつつ、ERPシステムを業務プロセスに組み込むために肝心なのは、技術担当者と業務担当者がうまく協力できるかどうかにあるという。「業務担当者にも設計段階からセッションやワークショップに参加してもらう。、業務プロセスの全体像を可視化し、課題を把握しやすくするためのプロセスマッピングを実施し、技術担当者と業務担当者が協力して業務プロセスを完成させることが重要だ」と同氏は解説する。
コックス氏の経験によると、ERPシステムの刷新とそれに伴う業務プロセス改革は、経営陣の後押しが鍵を握る。同氏に言わせれば、メッセージはトップから発せられなければならない。その理由は「業務部門が必ず反発するため」だという。Co-opでは、最高財務責任者が財務変革を主導し、深く関与している。
チェンジマネジメント(組織の変革を成功させるためのマネジメント手法)においては、第三者からの知見の共有が助けになるとコックス氏は考える。Co-opは今回の変革において、小売企業をはじめ、相当な数の企業に問い合わせた。「スウェーデンとスイスのCo-opはよく似た業務変革をやり遂げている。システムインテグレーターからの助言も検討の助けになる」とコックス氏は語る。
SAP S/4HANAへの移行を見据えて
Co-opは2024年4月、同組織が運用する全てのSAP製品をクラウドサービスに移行するという1年がかりのプロジェクトを完了させた。移行に活用したのは、ERPシステムのクラウドサービス移行を支援するサービス群「RISE with SAP」だ。コックス氏はこの移行について、「リフトアンドシフトの手法を採用し、全てを本番環境からクラウドサービスに移行した。これが今後のシステム改革の足掛かりになる」と説明している。
クラウドサービスへの移行が終わり、Co-opはSAP ECCからSAP S/4HANAへの移行方法を検討中だという。そのための一歩として、業務プロセスの自動化や効率化を支援するツール「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)を使用し、さまざまな財務システムの統合を開始した。
今後の計画について、コックス氏は次のように説明する。「財務システムのSAP S/4HANAへの移行を2024年10月中に終えた後、2025年には英国に展開する2400店舗にSAP S/4HANAを導入する」
SAP ECCのサポート終了が2027年に迫る中、Co-opのSAPシステム移行・導入事例は、SAP S/4HANAに移行する際の参考になるはずだ。ERPシステムのカスタマイズを回避できるに越したことはないが、同様の変革を実行した組織の話を聞き、カスタマイズ項目数を抑えるというコックス氏のやり方は、ITリーダーが自社のプロジェクトを進める際に参考にできそうだ。
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