SAP経営陣の相次ぐ離脱 ユーザー企業は安心してよいのか:組織再編を進めるSAP【前編】
SAPは2024年に発表した組織再編計画に、経営陣の交代を盛り込んだ。一部のポジションは“空席”になり、一時的な混乱が生じたとの見方がある。ユーザー企業への影響は。
SAPにとって2024年は、経営陣の交代と組織再編の1年だった。2023年の業績が好調だったにもかかわらず、人工知能(AI)技術関連の事業に注力するため、大規模な人員整理を発表した。大部分は希望退職か、リスキリング(新しい知識やスキルの習得)の対象とする計画だ。再編計画には、SAP経営陣の交代も含まれ、一部のポジションは“空席”になっている。ユーザー企業にはどのような影響があるのか。
ユーザー企業への影響は?
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2024年4月には、2019年から役員を務めていたトーマス・ザウアーエシヒ氏がプロダクトエンジニアリング部門の責任者からカスタマーサービスおよびデリバリー部門の責任者に異動となった。インテリジェント支出のプレジデント兼最高製品責任者だったムハンマド・アラム氏が後を引き継ぎ、役員に昇進した。
2024年5月には、SAPの共同創設者であり元CEOのハッソ・プラットナー氏が退職した。プラットナー氏は1972年に、IBMの元同僚であるディートマー・ホップ氏と他3人と共にSAPを共同創設して以来、SAPの中心的な存在を担った。
2024年夏には、最高マーケティング責任者(CMO)のジュリア・ホワイト氏と最高収益責任者(CRO)のスコット・ラッセル氏が「相互合意」の下でSAPを退社した。いずれも同年12月時点で後任は決まっておらず、取締役会の組織構造を簡素化する措置が取られた。
2024年9月には、最高技術責任者(CTO)のユルゲン・ミューラー氏が退社した。ミューラー氏の退社は、過去の社内イベントでの不適切な行動が原因だった。SAPは詳細を明かしていないが、CEOのクリスチャン・クライン氏が暫定的にCTOを引き継いだ。
SAPの構造改革は妥当だったのか
「SAP経営陣の異動は一部で混乱を引き起こしたが、SAPに重大な悪影響は及ぼしていない」と、ITコンサルティング会社Enterprise Applications Consultingの創設者ジョシュア・グリーンバウム氏は述べる。
グリーンバウム氏によると、一部の異動はビジネス上の決定によるものだ。例えばホワイト氏のCMOへの登用は実験的な試みで、結果的にはうまくいかなかった。SAPはアラム氏の下で、マーケティングの指揮をプロダクトエンジニアリング部門に戻している。「アラム氏は同社の技術とそのユーザー企業への提供価値を理解している」とグリーンバウム氏は述べる。
カスタマーサービスおよびデリバリー部門の責任者に異動したザウアーエシヒ氏も、「ユーザー企業のニーズを理解している」とグリーンバウム氏は付け加える。
「取締役会の状況が落ち着いてきたのは、現時点では良好な動きだ。しかし計画の状況次第なので、2025年は事態の推移を見守る必要がある」(グリーンバウム氏)
調査会社Constellation Researchのバイスプレジデント兼プリンシパルアナリストのホルガー・ミューラー氏は、「SAPはホワイト氏とラッセル氏の退社後も課題を抱えているが、2025年に向けて良好な状態だ」と述べた。
「在職期間の観点だとSAPの経営陣は経験が浅く、CMOとCROを補完する必要がある。とはいえSAPは好調で、CEOの下、豊富な人材がいることを示している」(ミューラー氏)
「著名な人物が率いるOracleやSalesforceなどの競合他社と比較すると、SAPの組織構造は異なる」と、企業分析フォーラムdiginomicaの共同創業者ジョン・リード氏は指摘する。「SAPのCEOであるクライン氏の知名度はあまりないものの、全体的にSAP全経営陣は賢明な印象を受ける」とリード氏は言う。
「SAPの経営陣はユーザー企業の立場を理解しており、ユーザー企業が抱える問題に対し、何をすべきかについて、的確な回答を持っている」とリード氏は述べる。一方、SAPが抱える問題は、「顧客体験の変革やクラウドサービスへの移行などの考えをユーザー企業にいかに効果的に伝えられるか」だとリード氏は指摘する。
後編は、SAPの人員整理計画について解説する。
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